学習
「……何故、何故そうも楽しそうに笑っている」
「血まみれになり、力なく地面へと倒れ伏し、ズタボロになりながら、何故そうも楽しそうなのだ?このまま治癒行為を行わなければ、私が放置していれば、おぬしは死に絶えるじゃろう」
「何故、かのような人物がこの日本という国で……」
「汝は何故、強さを求める?」
……。
…………。
理由なんてあるかよ。
僕が強さを求めるのに。
「良いね……素晴らしい。この世界に生まれ落ちて、二度目の強者だ」
『ホウ?』
ふと、前世における師匠の言葉を思い出した僕はゆっくりと体を起こして笑みを漏らす。
これだ、これこそを僕は求めていた。
「どう、やっているんだろうなぁ」
イノセント。
それを前にして、触れ合ってみて、ボッコボコにされて。
それでも、僕の素のスペックとイノセントの素のスペックにそこまでの差があるわけじゃない。
そして、ただの、純粋な格闘術で負けているとも感じない。
「……足りていないんだろうな、多分」
前世の僕は孤児だった。
そんな僕を引き取り、育てたのは古来より続く古武術を継承する神社の宮司だった。
今の僕が使う徒手空拳もこの時に教わった日本の古武術からやってきている。
これが未だに、異世界仕様と出来ていない。
それが今、僕がイノセントに勝てていない理由だろう。
『マホウノシヨウヲヤメタ……?ナンノモクテキガ?』
「だから、何言っているかわかんねぇって」
僕は魔法を解除する。自分にかけていた身体強化の魔法なども含め、そのすべての魔法を。
「ふぅー」
そして、深々と息を吐けば、自分の感覚がほとんど前世の時と同じになる。
魔力という殻のなくなった僕の素肌が世界を知覚し、五感だけは研ぎ澄まされていく。
「さぁ、来て」
ボロボロの状態で、回復魔法を用いての回復もまるでしなかった僕はそれでも、地面から起き上がって拳を構える。
『スバラシイ。トウキハマルデオチテイナイヨウダ』
そんな僕に対して、イノセントが答えたその次の瞬間には己の視界から相手の姿が消える。
『ホウ?』
それに対して、僕は何もわからぬまま後ろに向かって蹴りを放ち、自分の方へと突き出されていたイノセントの拳を強引に受け流す。
「早い。それがわかっているなら、まだ対処の仕様はある」
『スバラシイ』
「でしょう?」
短ければ、カタコトでもわかるな。
簡単な言葉を交わしている間も振るわれ続ける相手の拳に蹴りを僕は自分の素手で受け流していく。
『ドンナギジュツダ?』
相手の力を素手で受け、それを外に流す。
その技術は前世で培い続けたもの。この技術には自信がある。
「……うぐっ」
だが、それも万能じゃない。
相手の攻撃が強すぎる星で完ぺきに受け流すことも出来ずに僅かな痛みと痺れが手に残り続ける。
それに、元々折れている右腕を振るっているのだ。
ここもかなり厳しく、常に走り続ける激痛に僕は顔をしかめそうになる。
このまま、無限に戦い続けることは出来ない。
「こうかっ!?」
そんな中で、僕は反撃に転ずる。
拳を交える中で学んだイノセントの魔力の練り方……僕が元々やっていたものとは違う練り方を真似して拳を放つ。
「かった!?」
向こうの痛い攻撃と
「ちっ」
もう一つある。
イノセントの爆破的な加速。
それは足元から魔力を噴出したもの……であるように感じた。それを真似し、僕も足から魔力を噴き出しながら、イノセントの方から距離を取る。
『オソイ』
だが、すぐにイノセントへと追いつかれ、拳を振るわれる。
「ごふっ」
向こうの方がまだ速い。
それでも、何とか回避しようとした。
そして、それは僅かに成功し、自分の左腕を弾き飛ばされるくらいで済んだ。
「……爆発か?」
足元から魔力が出ているのは間違いない。
現に、僕が魔力を放出させただけで、かろうじて相手の攻撃を即死にしないで済んだ。
なら、こう。
『ホウ』
「いけたぞっ!」
地に足をつけたその瞬間に、僕は己の足元で魔力を爆発させ、追い打ちしようとこちらに迫っていたイノセントから逃げる。
「片腕が消し飛んだ分、僕の方が軽くて速いぞっ!」
今度は成功。
僕はイノセントから大きく距離を取ることに成功した。
『……フム』
イノセントから逃げ続ける中で、僕は頭を回していく。
「……」
何だ、何だ、何が足りない?
僕は何が足りていない?
こちらと向こう。僕とイノセントの違いは何だ?
魔力の練り方。おそらくこれ。
僕は最初、ただ魔力を噴き出して鎧のように自分の体を纏わりつかせていた。
でも、イノセントの方は外に噴出させるのではなく、魔力を体内の中で顕現させ、糸のように編み込んで自分の肉体の中に服でも着せているかのようだった。
だから、僕も真似して糸のように魔力を練ってみたのだが……まるで、イノセントには通じなかった。
「練度が足りてない……」
それは、そうだろうけど……まだ、もっと多くのものが足りていない、はず。
「本数でも増やしてみるか?」
僕は自分の体で練る魔力の糸の数。
それを一本から二本に増やしてみる。
「……あっ、とぉ?」
なんてことをしている間に、僕の消し飛んだ左腕から噴き出していた血があまりにも多く、足をつけたその瞬間に少しばかりふらつき、体を止めてしまう。
『オイツイタゾ』
その隙を、イノセントが見逃すわけがなかった。
僕に向かって突き出されたイノセントの拳を喰らう……。
「はっはっはっは!間に合った、間に合った!確かにすごい。さほど痛くないっ!」
だが、その一撃は、僕の致命傷とはなり得ないレベルでしかなかった。
僕が内側で組んだ二本の魔力の糸。
それによる内装は、イノセントに対しても効果的だった。
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