異常事態
異常事態。
まさに、今は異常事態としか言えないような状況となっていた。
「どうなっている!?何故、あんな魔物たちが!?」
主任の先生があげる驚愕の言葉。
それがすべてだった。
アークが軽く一ひねりしたような、蜘蛛の魔物よりも強いと評価したムカデの魔物。
そのレベルの魔物たちが今、学生たちが潜っている森林の中に続々と姿を現していた。
「こんな魔物、俺は知らないぞ……っ」
この森林は学園側が管理し、そこに出てくる魔物もすべて、教師陣が用意してきたようなもの。
そんな中で、主任の先生が知らぬ魔物が出てくるなど、本来はありえない。
間違いない異常事態だった。
「学生たちの、学生たちの命を守ることを最優先にっ!」
主任の先生が事態を受け入れ、声を張り上げた頃にはもう他の先生たちが反射的に動き出していた。
「流石だ……っ」
かくいう主任の先生とて、すぐさま結界魔法を生徒たち個々人に向けて張り巡らせていた。
先生たちは抜群の、幾度も訓練された動きで生徒たち全員を守れるような強固な魔法を貼り、何かあった時の為の回復魔法の方も準備する。
『予定になかった緊急事態に陥っています。慌てず行動してください。魔物たちは逃げる者にこそ、執拗な形で迫る傾向をもっています。無策に逃げるのではなく、状況を見て行動してください。貴方たちの安全は私たちが守ります。安心し、行動を』
そして、また別の魔法を用いて、先生が他の生徒たちに向けて言葉を語りかけていく。
「よぉし!各魔物を排除していくぞっ!……ティナ・カイザーは何処だっ!?」
それが終わったところで、主任の先生がアークの担任であるティナの所在を探す。
「彼女は……既に私じゃないと相手出来ない奴がいるとのことでこの場を離れています」
だが、その彼女は既に主任の先生を初めとする引率の先生たちがいた場所から離れていた。
……。
…………。
そのティナは今。
「……こんなところで無駄な仕事はしたくないんだけどねぇ」
『ナラ、ココデタチツクシテイレバイイ』
「はっ?カタコトで聞こえないわ。何を話しているの?」
アークの前に立っていた者とよく似た人型の化け物の前に立っていた。
最強の名を持っていたティナをして、アークの前にいる人型の化け物と似た存在を自分が対処しなければならない───否、自分であっても苦戦する相手として脅威と見、険しい視線を相手に向けていた。
ティナはしばらく、その場から動けないだろう。
……。
…………。
「……何?」
そんな報告を受けて、主任の先生が眉をひそめて言葉を漏らす。
「それは、それはあまりにも不味いな」
基本的に学園の先生となる者の多くは既に第一線から退いたもの。
当然、弱くない。
だが、敵の魔物のレベルはかなりのもの。ここから抜きで魔物を殲滅するとなれば、かなり苦しく、長い戦いになるだろう。
「……だが、だが、やるしかない。やるしかないか」
主任の先生は苦痛に表情を歪ませ、その手に剣を持つ。
「行くぞ、お前ら」
そして、その主任の先生は意気揚々と動き始めるのだった。
■■■■■
異常事態。
それに先生たちが戸惑いながらも動き出し、ティナが早急に対処すべき事案として、
「……いいね」
明らかな強者。
そんな人型の化け物を前にするアークは、楽し気に頬を緩ませた。
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