初討伐
特別試験の中で初っ端に5ポイントを獲得した僕とフラウのペア。
「これでだいぶ余裕になったね」
そんな僕たちはのんびりと、森林の中を歩いていた。
今の時点でだいぶ他よりもリードしているので、そこまで焦る必要もない。
ちゃんとオットーの戦いぶりは監視しているし、負けそうになったらガチる。それだけであいつには負けない。
「それにしても、さっきの一撃はすごかったわ……あれをずっとやっているだけでこの試験は楽勝なんじゃないかしら?」
「いや、誰も森に立ち入れなくなるよ?あれは直線状への攻撃で、それを曲げたりとか、そんな器用なことは出来ないし」
一度だけならまだしも、ずっとそれをやっていたら止められるでしょ。
試験にならないし。
一度に殲滅するだけの魔法なら色々思いつくけど……その中で、周りを巻き込まない魔法なんてない。
「それにフラウだって何の経験も詰めないよ?」
「むっ。それは不味いわね……ッ、魔物よ」
言葉の途中で魔物を見つけたフラウがすぐさま腰を低くかがめ、辺りを警戒し始める。
フラウの言う通り、僕たちの前にはきょろきょろと周りに視線を動かしている一体の魔物の姿があった。
その魔物の名はゴリン。前世でも有名なゴブリン……の劣化版みたいな魔物。
緑の肌を持った醜悪な顔面を持った小人のような見た目をしているそいつは、同じような見た目をしているゴブリンと比べて知恵がなく、群れることもないというずいぶんと劣化した存在。
最弱クラスの魔物と言える。
「ちゃんと魔物がいる方向に向かって歩いていたからね。近くに魔物はいない。敵はあそこの魔物だけだよ。フラウがやってみる?」
僕はフラウに師匠と呼ばれている身……ちゃんと弟子の成長を考えられるのだ。
「……全部、わかっていて?魔物がいるのも、周りにいないのも」
「もちろん」
「……私がこんな警戒した意味はなんだったのかしら?」
「魔物がいる森の中で呑気に歩いている時点で今更だし、魔物を見つけた時に慌てて警戒してももう手遅れだよ」
「うぐっ」
「それで?目の前にいる魔物は一人だけ。フラウはやる?」
「……えぇ、わかったわ。ちゃんと挽回するわよ」
「うん。頑張って」
まぁ、先生たちの鬼畜というわけじゃない。
最初から徒党を組むような魔物たちはいない。
まだ、ずっと緊張しながら、森林を進み続けられるようなレベルにはないと思っているのだろう。
まずは、魔物がいるエリアをずっと警戒しながら進んでいき、次に警戒したままリラックスできるようにして、体力の消耗を防ぐ。これが基本的な成長曲線だと僕は思っている。
今回の試験はまだその曲線の中にも入らない。ただの魔物に慣れようの会、って感じなのかな?
「……ふぅ」
なんてことを僕が考えている間に、フラウが剣を構え、ゆっくりと目の前にいる魔物、ゴリンの方へとすり足で近づいていく。
「ぎゃぎゃっ!」
そんな、ゆっくりと距離を詰めようとしていたフラウに対して、彼女の存在へと気が付いたゴリンは迷うことなくフラウの方へと突撃していく。
自分に向かって突撃してくるゴリンに対して、フラウは冷静に対応。
緩慢でキレのない手に持ったこん棒の一撃を回避。
「ハァッ!」
そして、そのまま反撃としてその手にある剣を振り落ろしてゴブリンの体を斬り捨てる。
「ぎゃぁっ!?」
その攻撃を受けたゴリンはいとも容易に体を倒し、そのまま絶命した。
「……た、倒せた?」
「うん、そうだよ。お疲れ様。これが魔物の初討伐?」
「……え、えぇ」
「やるぅー。楽勝だったね。ナイス」
まぁ、倒してもらった魔物は貧民街生まれのまだ子供でしかない新米冒険者でも頑張れば何とか倒せるような相手。ぬくぬくと技術を磨き、実力を丁寧に築いていったフラウが負ける道理はない相手だけどね。
「あ、ありがとう……っ。そう……私でも、戦えるのね」
「あたりまえじゃん。そんな自信を失う必要はないよ」
僕はフラウの方に近づきながら、彼女に向かって声をかけていく。
「……そう?」
「うん。僕から見て、まだまだ素振りとかも不格好で、さっきの戦いも無駄があった。それでも、綺麗な基礎はある。これは馬鹿に出来ない強みだ───飛んでっ!?」
言葉の途中。
そこで僕は大きく声を上げると共に地面を蹴り、フラウの方へと飛びつく。
「へっ!?」
「っぶね、間に合った!?」
ギリギリのところで、何にも反応出来ていなかったフラウへと僕が抱き着いてそのまま地面へと転がったところで、先ほどまでの彼女が立っていた地面を突き破り、その口を大きく広げていた巨大で長いムカデの魔物が自分たちの前に姿を現す。
「こんなのいるの!?明らかにあの蜘蛛より強いぞ……?」
それに驚きながら、僕は迷いなく片腕を振るう。
それより放たれた風の刃は空に向かって地面から伸びていくムカデの魔物を縦に両断し、その体を二つに分けて地面へと倒す。
『スバラシイナ』
「……ァ?」
驚きながらも、これで終わった。
そんなことを考えた僕の目に、飛び込んできたのは何時の間に立っていたのか。
両断されたムカデの奥側にいた一体の、人型の化け物だった。
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