特別試験

 特別試験がまさかの明日。

 その急ピッチな日程にオットーと共に驚いた次の日。


「これより、第一回特別試験を開始する」


 本当に特別試験の日がやってきてしまった。

 僕たちは今、鬱蒼とした森林の前に一学年全クラスが集められていた。

 そんな僕たちの前で、この一学年の主任の先生が試験について話していた。


「君たちにはポイント制で競ってもらう。この森林に放たれている魔物は強さでポイントに分けられている。下から1ポイント、2ポイント、3ポイントとなっている。そして、その中には一体だけ、飛びぬけた強さを持つ魔物を放っておいた。この魔物を討伐した時に得られるポイントは5。実力に自信があるのなら挑んでみればいいだろう」


 数で稼ぐか、質で稼ぐか。

 ここは戦略だろう。


「ポイントはこちら側の魔法で自動カウントされている思う存分、競ってくれ」


 ふむふむ。ちゃんとカウントは魔法を使うんだね。

 どんな、魔法を使っているんだろう……?んー、ちょい気になる。


「制限時間はたっぷりある。ちゃんと各々、持ち物の準備や確認を行ってから森に入るように。それでは、行動開始」


 主任の先生が手を叩いて試験の開始を宣言し、それに従って生徒たちが続々と動き出していく。


「師匠。私たちも動き始めましょう。あのオットーとかいう不敵な輩をぶちのめすために……まずは索敵魔法からですね。ちなみに師匠は索敵魔法とかって使えるかしら?……私はその、あまり不得意ではないというか、何というか、そんな感じなのだけどぉ」


「んっ。それは問題ない……既に索敵魔法は発動してある」


 フラウの言葉へと力づく頷き、僕は視線を上の方に向ける。

 僕の索敵魔法。その核は上───地球周回軌道上に存在している。

 この世界にも当然存在しているが、何処の誰も目をつけていない宇宙。そこに僕はオリジナル魔法で人工衛星を打ち上げ、一人だけ衛星画像から索敵を行っていた。

 魔法による撮影は縮小が自由自在。宇宙から前に広がっている森を眺めることも容易。

 僕の索敵範囲、その精度は間違いなく世界屈指であるという自信がある。

 

「……見つけた」


 そんな人工衛星より地上を眺め、森林の中を上から眺める僕はそのまま魔物たちの中で5ポイントに相当する他よりも強力らしい魔物を見つける。


「よっと」


 そして、僕はスタート位置であるここからあえて、ド派手に魔力をぶちまけて巨大な魔法陣を描き始める。


「……ッ!?」


「ふっ」


 ここで、驚愕の表情でこちらを眺めているオットーの方へと視線を送ってほくそ笑みを浮かべるのも忘れない。


「エクスカリバー」


 最後に、僕は魔法を発動。

 その魔法陣より一振りの剣を僕は引き抜き、それを振り下ろす。


「「「……ッ!?」」」


 それによって溢れるのは膨大な光のエネルギー。

 振り下ろしたことによって放出されたのは森林を切り開きながら突き進んでいく光の剣閃だ。


「最高評価ゲット」


 その光が消えた時。

 ごっそりと消滅して吹き飛ばされた森林の一角。

 その一番端にあるのは真っ二つとなっている巨大な、遠く離れたここからでも見えるほどにデカい蜘蛛の魔物の姿だった。


「え、えぇぇ……?」


「ふふっ……これで5ポイントゲット」


 あの蜘蛛の魔物こそが、今回の試験で最も強力で5ポイントを貰える魔物だ。

 瞬殺したけどね。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 とはいえ、だ。

 僕はその後すぐに膝のほうへと手を置き、息を切らす。


「行くぞ!あいつはあの一撃でだいぶ消耗している。もう無理だ。5ポイントなら全然撒ける。後先考えていない馬鹿に現実みせるぞ!」


 未だに他の生徒たちが自分のいきなり放った大魔法に唖然としていた中で、息を切らした僕を見逃さなかったオットーが意気揚々と声を上げ、自分のペアを急かしながら大急ぎで森林の方に入っていく。

 確かに、5ポイントとはいえ、所詮は3ポイントの魔物を二体倒すだけで全然捲くることが出来る上、時間はまだたっぷりとある。

 かなり余裕と言っても大丈夫なはず。


「お、俺たちの方も急ぐか」


「そ、そうね。負けていられないわっ」


 そんなオットーの姿を見て、周りの生徒たちも動き始める。

 良いね。素晴らしい競争環境だ。


「大丈夫、かしら?師匠、動ける?」


「えっ?うん、もちろん。そんな消耗していないよ。さっ、行こうか。大した準備もないでしょ?」


「え、えぇ……?」


 わざとらしい息切れ。

 それを辞めた僕は平然とした態度で歩き出し、オットーに続いて森林の方に入っていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る