ペア
一触即発だった空気が霧散した中で。
「よーし。始めるぞ」
教卓の前に立った担任の先生が言葉を話し始める。
うちのクラスの担任の先生はティナ・カイザー。
一応はかつて、最強と謳われた国の騎士だった女であり、クラスに入ってきたその瞬間も自分とオットーが一触即発となっていたことに気づいて僕たち二人へとピンポイントで殺意をぶつけて沈静化してきた。
あのまま喧嘩しだしたら、その先生が僕とオットーのことを止めに来ただろう。
「よし。んじゃぁ、面倒だし、今日もパパっと朝のHRを終わらせちゃうぞ」
まぁ、明らかにこの先生は教師としてのメンタリティーはさほどなさそうだけどな。
あくまで、面倒事を未然に防ぐため、僕とオットーを防ごうとしていたわけだろう。
僕はともかくとして、あのオットーは先生相手じゃ何もできずに潰されるだろうからね……ちょっと、純粋にオットー関係なく先生とも戦ってみたいなぁ、って思うけど、今ではないよね。
「今日、お前らに話さなきゃいけないことはたった一つだけだ。今回はちょいとばかり大事な話だから、ちゃんと聞いておけよー」
なんて物騒なことを考えていた中で、先生は朝のお知らせを話し始める。
「今日、お前らに話すのは特別試験についての話だ。君らにとって、初めての特別試験となる。ちゃんと説明を聞いておけよー。特にサボり魔のアークくん?」
あー、もうそんな時期か。
既に学校が始まってから一か月……ゲーム本編には登場しない一年生初めての特別試験だ。
今後とも学校生活の中で頻発する特別試験の一番最初。
うーん、作中に登場しなかったイベントとはいえ、その一端に触れられるとはゲームプレイヤーとしてはテンション上げざるを得ないよね。
ちなみに、ゲームへと登場しなかった理由は実に単純で、ゲームの主人公は途中から学校にくる転校生だからだ。主人公起点で進んでいく物語なので、当然その試験が出てくるわけがないのだ。
「アーク?」
「あっ、はい」
「ったく……なんだよぉ、その生返事はよぉ。ちゃんとしてくれよぉ?今回のはクラス対抗別なんだよ。クラスの成績によって私たち先生のボーナスも決まるんだよ。頼むぜぇ?ちゃんと一位になってくれ。それで、私の豪遊生活を君たちの手で作ってくれ」
「……たはは」
やっぱりこの先生、自分の職業のことを舐めているよね。
ゲームでもこんな感じで出ていたけど、リアルで見ると駄目な人間感マシマシだね。ゲームでお出しされるよりも、リアルでお出しさせる方がヤバさが伝わってくる。
「さて、そんじゃあ、特別試験について話すぞー。とはいえ、試験内容は簡単だぞ。お前らは魔物たちが放し飼いされている森に行き、そこで敵を叩き潰す。それが試験内容だ。数と質。その両輪が評価対象だ。んで、森に潜る際は、ペアを作れ。ということで、はい!ペア決めスタート!」
「……ありゃ?」
ペア?……ペア?
最初の試験ってそうだったっけ?
えっ……そんな、ボッチ殺しの試験だったっけ。最初の試験の内容とかあんまし頭の中に入っていなかったんだけどぉ。
「師匠。一緒にペア組みましょう」
僕が先生の言葉に止まった段階で、フラウがこちらへと声をかけてくる。
「……あっ、フラウ」
あっぶねぇー。
良かった。昨日、フラウとの接点を作っておいて。ボッチの僕は最悪の事態を引くところだった。
「うん、組もうか」
それに安堵し、僕が自分の元に来たフラウに対して言葉を返す。
「おいおい、王女様。そんなボッチ野郎でいいのかい?試験は大事だよ?」
だけど、それと同じタイミングでオットーの方が邪魔しに来る。
「ちゃんと強い人と組むべきだ。
「うるさいわよ。私は自分の目を信じているの」
「おぉ?そこのボッチの何を知っていると?」
「節穴かしら……?」
「……ァ?」
僕の前でオットーとフラウがバチバチな雰囲気を見せたようなタイミングで。
「ねぇ、オットー。知っている?」
僕も会話に参加していく。
喧嘩するなら、僕も参加したい。
「……ァ?」
「弱い犬ほどよく吠えるんだよ?どうせ、試験がもうちょいであるんだから、そこで決着つければいいじゃん」
「ハッ。何かほざいてら」
「ふっ」
ちなみに、これだけ威勢よく吠えている僕だが、この場は完全に自分アウェーだ。
僕ってばボッチだからね。何でいきなり王女様があいつと仲良くしているの?っていう感じがある。
「人間の言葉は猿に通じないか?」
「猿の言葉が人間に聞こえるわけないだろ」
傍から見ると、僕もオットーも圧倒的な小物臭さを感じるムーブ。
それでも、僕は楽しく口を回し、オットーに対して喧嘩を売っていく。
「あー!そうだ、そうだ。試験は明日だ。ちゃんと準備しとけよ?特にそこで喧嘩している二人。私のボーナスの為、切磋琢磨してうまく動いてくれ。是非とも私に豪遊させてくれ」
「「えっ?明日?」」
そんな中で、僕とオットーは続く形で告げられた先生の言葉に対して、驚きの言葉をぴったりと二人で揃えてしまったのだった。
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