朝のHR前

 午後の授業はすべて飛び、それで出来た時間で結局、現状の問題を解決するための術が何も思いつかずに眠りについた僕はそれでも、その次の日には学校の方に登校してきていた。


「昨日の最後の授業。内容わかった?俺、家に帰って復習したうえでわからんかったのだか」


「あっ、わかる。俺もまるでわからんかった」


「だよなぁー!……いや、駄目じゃねぇか!?俺ら二人で沈みゆく!?」


 時刻はまだ朝早く。

 HRが始まるよりも前であり、周りの生徒たちがワイワイと雑談に鼻を咲かしているような中で。


「……こうかな?」


 僕は一人、自分の頭の中で魔法のシミュレーションを行っていた。

 この世界にある魔法の原理は至ってシンプル。

 生命であれば体内に必ずある魔力を体外へと放出することだけで魔法になってくれる。

 でも、ただ放出するだけだとエネルギーの塊でしかなく、強いか弱いかと聞かれれば激よわ。

 その激よわに変化を加え、強力にするのがするため、魔力の性質を変化させる魔法陣を描く。

 基本的に人は魔法陣を丸暗記して描き、魔法を発動させる。

 だけど、僕としては自分で一からどのように魔法が変化していくのか考えた上で、自分で魔法陣を考案する。

 膨大な歴史が積み上げた前任者の作ったテンプレの数々を超えるのは難しいが、それでも、前世の科学知識なども組み合わせると案外斬新な魔法を生み出せたりする。


「うーん。やっぱり問題はこの放射線の影響からどうやって僕を守るか、だよなぁ……もういっそ、距離を伸ばすか?」


 ぶつぶつ独り言を呟きながら魔法のことを考えるという図を傍から見ればとても奇異に見えるだろうが、今更下がるような評判もないと割り切っている僕は一人で考え事を続ける。


「おはようございます。師匠」


 なんてことをしていた中で、僕はかなり久しぶりにクラスの中で声をかけられる。


「……んぁ?あぁ、フラウか。おはよう」


 僕のことを師匠と呼ぶ人なんて唯一人。

 声をかけてきたフラウの顔を見るよりも前に彼女の名を呼びながら、僕はあいさつの言葉を返す。

 というか、そも僕に話しかける可能性がある人なんてフラウくらいだけど。


「それで師匠」


「んっ?」


「何で昨日の午後は授業に行かなかったのかしら?昼休みの時間から師匠が帰ってこなくてびっくりしたのだけど」


「ん?気分だけど」


「はっ……?気分だけで授業に来なかったの?」


「そうだけど?」


「……何をしているのかしら?」


「何を今更?僕とかかなり頻繁にいないでしょ」


「何か、もっとちゃんと理由があるのかと思っていたわ……」


「残念。そんなのありません」


 一応あるけどね?

 でも、お姉ちゃんの手で家に連れ帰られている、ってのは気分で授業を飛ぶよりもヤバいでしょ。


「はぁー、なら、ちゃんと師匠も学校にちゃんと来なきゃダメでしょ。気分で飛ぶようなものじゃないわ」


「それはちょっと難しいかもしれない……」


「何でよ。ただの気分の問題じゃない。それくらい律してこその私の師匠よ?」


「弟子から精神面を強制されるなんて人類初じゃない?びっくりだよ」


 僕が自分へと話しかけてきたフラウと会話していた中で。


「おいおい、フラウ様。急にそこのボッチの奴に話しかけて何をしているんです?」


 二人の取り巻きを連れた、あまりにも小物っぽい言葉を話す一人の男がこちらの方に近づいてくる。


「あら。オットー。私に何の用かしら?」


 その男の名はオットー・ウェスティン。

 ウェスティン侯爵家の嫡男だ。


「いや、高貴な王族がそんなボッチと一緒にいるのはどうかと思ってな?会話するなら、俺のようなちゃんと格式ある侯爵家の嫡男などにした方が良い」


「僕も辺境伯なのだけど?」


 侯爵家と辺境伯。

 その両家の格は変わらない。


「辺境伯でありながら、一人でいるお前さん。どれだけ人望がないのか……俺とは雲泥の差だァ。お前らもそう思うだろ?」


「そうですなぁ!オットーさんの言う通りです」


「常に一人。まともに学校にも来ない人とオットーさんはまるで違います!」


 オットーは完璧な小物としての動きを見せる。

 噛みついて行った僕に対して、オットーは自分の取り巻きたちを利用しながら、口で攻撃してくる。

 さて、それで僕がどうするか、という話だけど。


「弱いからこそ群れているんじゃなく?」


 喧嘩を売られて、そのまま黙っているような精神性はあいにくと僕は持っていない。

 僕は結構喧嘩っ早い。


「……ァ?」


 一切の躊躇なく僕も喧嘩を買い、こちらへの敵意を見せてくるオットーを睨みつける。


「雑魚の癖に言うじゃねぇか……」


「群れた魚が偉そうに」


「ちょ、ちょっと……?」


 一触即発。

 何時、殴り合いの喧嘩になってもおかしくないような雰囲気が流れ始める。


「おーい。朝のHRを始めるぞー。全員、席につけー」


 だが、そんなときにちょうどタイミングよく担任の先生が教室の中へと入ってくる。


「「ちっ」」


 それでもう殴り合いを始めるような雰囲気ではなくなってしまった。


「……雑魚が」

 

 オットーは僕の方に悪態を吐き捨てながら、自分の席の方へと戻っていく。

 これでこの場は一旦終わりだ。

 ところで、僕に喧嘩売ってきたんだし、あいつに四六時中便意へと襲われるようになる魔法をかけてもいいよね?

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