闇堕ち
学校を途中で抜け出し、屋敷の方に帰ってきた僕は今。
「……さて、と」
自分の部屋で一冊のノートを取り出していた。
このノートに書かれている内容は至ってシンプル。僕が自分の持つ前世の知識をもとに、お姉ちゃんの闇堕ちを防ぐための計画とその推移を日本語で書き綴ったものになる。
この世界で使われている言語は当然日本語ではなく、異世界独自のもの。
日本語で書いておけば、他人からこれを見て察せられることはない。
「……零歳の時はこの世界の言葉を覚えるのに時間がかかったなぁ」
言語関連での過去の苦労も思い出しながら、僕はノートを開く。
「……整理からかな」
まず、お姉ちゃんが闇堕ちした根本の理由はお母さんが暗殺され、その復讐の為という意味合いが強い。
そして、それを行ったのはこの国のトップ。国王だ。
その理由を話す前に、そもそもの話として、ユノレヒト王国の歴史としては常に王位継承戦は血みどろであり、現在の国王がその玉座を手にするまでも弟と血みどろのドラマを作り上げていた。
その相手である弟は既に罪人として、投獄されているわけだが……今、その弟を解放しようという一派が国内に存在している。
その理由は現国王が他国との戦争関連でありえないようなミスを行い、多くの反発を受けてしまったからだ。
この国は今、国のトップの話で少しばかりゴタゴタしているのだ。
それで、そんな王位争いが何処に僕とお姉ちゃんのお母さんに関わってくるのか、という話だけど、その理由は単純で、純粋にお母さんが王族の一人だったのだ。
しかも、お母さんは王位継承戦の頃は現国王ではなく、弟の方の派閥に属していた。
この国のトップである国王はこの流れの中で、ひとまずは簡単に排除できるお母さんを狙ったわけだ。少しでも、己の弟の影響力を下げるための策だと言える。
これはもう本当に簡単で、というのも、自分の父であるラインハルト辺境伯を簡単に丸め込めちゃったのだ。お母さんとの関係が完全なる政略結婚だったこともあり、うまく損益の話をして、暗殺を黙殺させるように動かせてしまったのだ。
そんな状況の中でお姉ちゃんが己の復讐心を向けたのは当然、この国そのものだった。
ゲームの作中だと、お姉ちゃんは今の王政に不満を持っている革命勢力からの接触を受け、一気に思想を反王政の方に傾けて過激化。革命軍のトップとして反旗を翻すことになる。
ここでお姉ちゃんは敗北……だけど、それでも生き延びて今度は魔王軍からの接触を受ける。
魔王軍。
もうゲームの敵役としてポピュラーもポピュラー。敵としての王道。
人とは根本が違い、その性根から人類の敵と言える魔族の王である魔王が率いる軍勢。
ゲームの主人公がストーリーのラストに戦う魔王の一味とお姉ちゃんは最終的になるのだ。
「何とか命からがらで逃げたとしても、アークくんはここら辺からどうあっても詰んでくるんだよなぁ」
アークくんはお姉ちゃんが革命軍として反旗を翻したタイミングで国から逃亡し、処刑を免れるようなルートが作中の分岐として用意されている。
でも、例え国から逃げても姉が魔王軍の一員であるという事実があり、何処に行っても最終的には迫害されて基本的に殺されるんよね。
最良でお姉ちゃんと共に魔王軍となり、主人公に殺されるルートになる。
「改めて考えると絶望的やな」
何というか全体的に可哀想。
さて、そんな絶望な状況なわけだけど、基本的に僕がお姉ちゃんを闇堕ちさせばいためにしたことと言えばまず、起点となったお母さんの暗殺妨害……だったんだけど、これは普通に失敗。
その次として、お姉ちゃんが革命勢力からの接触を受ける。
これを防ぐ、というのを今、僕が行っていた。
お姉ちゃんが反王政の方に傾かなければ、ひとまずは大丈夫。
ここから国内のゴタゴタにどう対処していくのが最善か、というのはまだ未知数なところあるけど。
「今のところは出来ている」
この革命勢力をお姉ちゃんから遠ざけるというのは成功している。
この稼いでいる時間の間に、僕はお姉ちゃんの心の傷を埋め、復讐心が暴走しないように動いてきた。
お姉ちゃんも、僕も、普通に父がお母さんを売ったことを知っており、今の家族仲は最悪。
そんな中で基本的に、僕とお姉ちゃんは二人で生きてきた。
その生活の中で、僕はお姉ちゃんが復讐を出来るだけ忘れ、今を楽しめるように!と願って接してきた。
「普通に弟として、接していたつもりだったんだけどなぁ……?」
とはいえ、僕の接し方はあくまで弟としてのものだった。
「何で、あんな歪になったんだろう……」
今のお姉ちゃんのありさまは何だ。
なんか凄いブラコンを拗らせ、学校では僕以上に孤立するという残念な仕上がりになってしまっている。
「何でやろ」
不思議だ。もっと、社交的になると思っていたのに。
とはいえ、今から軌道修正をするための策もない。
手詰まり感がある。
「クソ……やっぱり、今日もどうとも出来なかった。毎日考えてりゃなんかしらの策は出ると思っていたのに、何も出てこないよ」
僕の毎日のルーティン。
お姉ちゃんのこれまで振り返り、今の極度のブラコン状態を解消させるための画期的な案を思いつくことを祈るという僕のルーティン。
そのルーティンの中で今日も望んでいた結果にならなかったことに悪態をつく僕は今日も、何もせずにノートを閉じた。
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