嫉妬
それじゃあ、友達とご飯を食べてくる。
そんなことを明るく言いながら、フラウは僕の前から消えていった。
どうやら、僕と食べるという選択肢はなかったようだ。
「……まぁ、良いけどね」
一人、お弁当を手に持った僕は一人でぼそりと言葉を漏らす。
別に元々一人で食べるつもりだったし?これでいいんだよね。
「さて、それで僕は何処で食べようかな」
己の食べる場所を探しに行くため僕が一歩、足を踏み出しだ瞬間。
「アーク?」
僕の耳元で、自分の名前を呼ぶ女性の声が聞こえてくる。
「お姉ちゃん。三年生なんだから、もう別の塔でしょ?なんでここにいるの?」
その声は僕が今世において散々と聞いたもの。
誰に話しかけられたのがわかりきっている僕は後ろを振り返ることさえなく、口を開く。
「中庭は、こっちの塔とも近いわ。そんなことより……」
「ん?」
「あの子はだぁれ?ずいぶんと仲良さそうにしていたけど……ねぇ、だぁれ?」
後ろに立っているお姉ちゃんは僕の首へとその細く、白い腕を回してくる。
「……首絞める態勢に入ってない?それ」
少し、ほんの少しだけその腕に力を込めれば、僕の首はたちまちに絞められてしまうでしょう。
そんな態勢となっていた。
物騒やなぁー。
「私が聞きたいのはあの女の子が誰か、って話なんだけどぉ」
「知っているでしょ?王女様だよ」
「それはもちろん知っている。ただ、何でその子と仲良くなっているのが気になるんだよ。お姉ちゃんは。アークってば、お姉ちゃんっ子のはずだよね?ずっとべったり私の後についてきて、それが当然だったよね?ねぇ、それなのに、何で別の子と仲良くしているの?お姉ちゃん、不思議だよ。何時から、そんな子になったの?この残酷な世界を二人で生き抜こう……そんな話をしていたよね?ねぇ、あの子は一体、アークにとっての誰なの?ねぇ、お姉ちゃんに教えてみて?」
「うがぁー!飯を食べに行くからっ!僕はっ!」
お姉ちゃんのだる絡みはいつものこと……なんかお姉ちゃんが闇堕ちしないよう、精神的な支えになろうとすればするほどにお姉ちゃんが僕の方に執着し始める悪循環に陥っているんだよね。今。
お姉ちゃんの交流関係もなんか、全然広がっていないような感覚もあって、ちょっと心配しているんだよねぇ……まぁ、ボッチの僕が言えたことじゃないけど。
うーん、今世のお母さんが暗殺されたタイミングで四六時中お姉ちゃんにつき纏っていたのはやりすぎだったかもしれない。
……本当は、お母さんの暗殺を防げるのが最善だったんだけどなぁ。
色々と頑張ってはいたんだけど、僕が幼すぎて、まるで相手にならなかった。
「あっ!ちょっと!」
「さいならぁー」
僕はお姉ちゃんの元から逃亡を図り、自分の飯を食べ始められるような場所を探しに行く。
首の方に腕を回されていようとも、そこから逃げることは困難というわけじゃない。
これでも僕は武道に自信があるからね。
とはいえ。
「逃がさない。絶対に逃がすわけないっ」
「あー、捕まった」
逃げたとしても、すぐにお姉ちゃんの手に捕まってドナドナされるんですけどね。
「ガチで来るのは違くない?びっくりしちゃうよ?魔法まで使って全力で来たじゃん。その勢いには流石に驚いたよ」
「アークも全力で逃げていいのよ?」
「……いやぁ、それは」
「ふふっ、大好きなお姉ちゃんにそんなことは出来ないわよね。知っているわ」
「僕は、嫌われていた?」
「アークがあんなんで傷を負うわけないじゃない」
「うわぁー、凄い信頼」
本気で追いかけ、捕まえてくるお姉ちゃんが相手ではちょっと逃げられないのは仕方ないと言い訳をしたい。
お姉ちゃんを相手に本気でいけなかったせいだからね。あっさりと捕縛されたのは。うん。
なんてことを僕はお姉ちゃんの腕の中で考えるのだった。
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