学園

 僕が転生したゲーム『カナリアの箱庭』の舞台となるのが、自分の生まれた国であるユノレヒト王国の王都。

 そこに威を振るう国内外の王侯貴族や特別なエリートたちが集まる世界屈指の教育機関であるオーリオ学園だ。

 ユノレヒト王国の辺境伯の一人息子である僕もまた、このオーリオ学園へと通うことになる一人だ。

 

「ふわぁ……平和やねぇ」


 12歳から18歳までの六年間を通うことになるオーリオ学園の一年生として入学してから早いことで一か月。

 僕は平和な時間を過ごしていた。


「数年前はお姉ちゃん関連でバタバタしていたからなぁー」


 将来的に悪役令嬢となってしまうお姉ちゃんを持つ僕は何が何でもお姉ちゃんの闇堕ちを防がなければならないような立場にある。

 お姉ちゃんが闇堕ちする一番の要因としては大好きな母が暗殺され、それによる復讐心からというのがある。

 この数年間、僕はお姉ちゃんが闇堕ちしないよう、まずは復讐する気が起きないほどに模擬戦等でボコボコにして強さへの自信を折らせるという地道な活動をやっていた。

 そんな日々も、自分の思惑なんて知る由もないお姉ちゃんの『貴方にも自分の交友関係があるでしょうから』という一言で終わってしまっていた。


「今日はどこでお昼を食べようかな?」


 学園が始まってから既に一か月。

 既にある程度学園生活にも慣れ、友人関係もすでに固まりつつある中で、自分のクラスにおいて圧倒的なボッチとして君臨している僕は今日も今日とて、昼休みの時間に一人で昼食を食べるための場所探しでクソ広い学園内を歩き回っていた。


「はっ、はっ、はっ」


 なんてことを考えながら、中庭を進んでいた僕は自分の耳に誰かの声が聞こえてくる。


「こんな時間帯に、外から声が聞こえてくるなんて珍しいな」


 昼休みは友達と校舎の中でご飯を食べる時間だ。

 ふらふらと外に出ている時間ではない。

 こんな時間に外で声を出している人が誰なのか、ちょっとばかり興味を持った僕はふらっと声のする方に向かって行く。


「あら~、真面目」


 無駄に広い中庭を進み、何故かある立派な滝の前にまでやってきた僕はこんな時間に声を出している少女の前にまでたどり着く。

 そこにいたのはポニーテールで長い髪をまとめる金髪碧眼の美しい少女だった。


「はっ、はっ、はっ」


 その少女は学園の制服から運動着に着替えた状態で、木刀で熱心に素振りをしているような最中だった。


「邪魔しちゃ悪いね」


 ただご飯を食べるベストポジションを探していただけの僕が邪魔していいようなところじゃないかな。

 ここは何も見なかったことにして退散しよう。


「……あっ」


 なんてことを考えて、そそくさと退散しようとして足を後ろに下げた僕は思いっきり枝を踏み抜き、バキッというかなり大きな音を立ててしまう。


「……誰ですか?」


 その音は向こうにも聞こえてしまっていたようで、その少女がこちらに向かって声を上げる。


「ごめんなさい。邪魔しちゃいましたね」


 向こうから声をかけられているのに、何も言わず退散するのはふつーに失礼だよね。

 僕は大人しく中庭に用意されている森の中から出てきて、少女の方へと顔を見せる。


「あら?貴方は……ラインハルト辺境伯家のアーク、だったかしら?」


「そうですよ。こうして顔と顔を合わせ、二人きりで言葉を交わすのは初めましてですね。一応、同じクラスのアーク・ラインハルトです。以後、お見知りおきを」


「あら、丁寧にありがとう。私はフラウ・シュプラーヘ。よろしく」


 フラウ・シュプラーヘ。

 ユノレヒト王国シュプラーヘ王朝における第三王女であり、僕と同じクラスの同級生。


「それと私たちは同学年の同級生。そして、この学園は全員が同じ学生であり、生まれは関係ないとすることを掲げているところ。そんなかしこまった敬語じゃなくていいわよ?」


「そう?それじゃあ、お言葉に甘えて」


 そして、ゲーム『カナリアの箱庭』におけるメインヒロインの一人でもある少女だ。


「そう?それじゃあ、お言葉に甘えて……よろしくね?フラウ」


「……え、えぇ。よろしく。アーク」


 そんな少女、フラウと僕は予想だにしていなかった形で初接触を果たすのだった。

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