悪役令嬢の弟に転生して~処刑は嫌なので姉の闇堕ちフラグを折っていたら、姉が自分に執着するヤンデレ落ちしたのだが~
リヒト
第一章 ヤンデレお姉ちゃん
悪役令嬢の卵
自分の前に立っている一人の少女。
腰の長さにまで伸びた艶やかで美しい黒髪にぱっちり大きな紫色の瞳を持ったまだ幼いながらも妖艶な雰囲気をまとっているそんな少女は。
「行くわよ、アーク」
僕の方へと声をかけてくる。
「……うん。お姉ちゃん」
その言葉に対して、僕はちょっと遅れながら答えを返す。
次の言葉が遅れてしまったのは自分の名前である『アーク』にあまり慣れていなかったからだ。
慣れていないのにもちゃんと理由がある。
僕には『有馬悠斗』として高校生まで生きてきた前世の記憶があるのだ。
だからこそ、まだ今世の名前に慣れてないのだ。
「はぁ!」
そんな僕の、今世の僕におけるお姉ちゃんがこちらとの距離を詰め、固めた握り拳を振るってくる。
「ほっ」
その拳を僕は受け流す。
弟である僕に向かって拳を振りかぶったお姉ちゃんだが、これは何もDVという訳では無い。
僕が転生したこの世界は、文明レベルが中世から近世くらいの封建社会であり、剣と魔法が武力として広まっているよくある、ゲームとかラノベでよく見る異世界ファンタジーの世界観だ。
僕とお姉ちゃんはこんな世界における辺境伯の姉弟として生まれている。
そんな僕たちが負っているのはノブレス・オブリージュ。武力を持ち、民を守る義務。
魔物という異世界特有の特別強い人類の敵が存在しているこの世界で、貴族が剣と魔法を学び、強さを得るのが義務として扱われており、今、僕たちの活動もその一環だ。
「せいっ!」
近接戦闘の訓練として振るわれたお姉ちゃんの拳を逸らした僕はその反撃として掌底を彼女の腹に叩き込む。
「うぐっ」
掌底を受けたお姉ちゃんは身体を少し浮かせながら苦悶の声を漏らす。
「say∠( ˙-˙ )/」
そんなお姉ちゃんの顔面を狙って、僕は蹴りを叩き込む。
「きゃっ!?」
「(ノ´・ω・)ノホイ」
蹴りを食らって体をふらつかせたお姉ちゃんを掴み、そのままぶん投げる。
「……くっ」
地面を転がっていくお姉ちゃんは僕の方へと強い視線を送ってくる。
「貴方は弟なのに……なんでこんなにも!」
「へへんっ!」
一連の流れを見てもらったら分かるように、力関係で言えばお姉ちゃんよりも僕の方が上だ。
お姉ちゃんの年齢は10歳。今の僕の8歳よりも年齢は上であるが、前世の分を考えると色々変わってくる。
それに、この世界のことであればかなり詳しく知っている。
なぜなら、この世界は自分が前世にやっていたゲーム『カナリアの箱庭』に酷似しているからだ。
そしてまた、自分が転生した先であるアーク・ラインハルトの存在もしっかりと知っていた。
今世の僕、アークは闇堕ちして悪役令嬢となった自分の姉であるリーズ・ライトハルトに巻き込まれる形で処刑される運命にあるようなキャラだった。
「……うぅ、姉としての威厳がぁ」
自分の前で悔しそうに呻いている僕の姉。
つまりは、未来の悪役令嬢たるリーズ・ラインハルトとは、自分の前にいるこのお姉ちゃんのことである。
「処刑は嫌だもんなぁ……」
「えっ?」
「なんでもないよ」
お姉ちゃんの闇堕ち。
それを防がなければ、僕は処刑される。
前世の頃、カクヨムなどの小説投稿サイトで読んでいた悪役貴族ものは自分の動きを変えれば処刑ルートは防げるものが多かったが、僕の場合は他人の動きを変えなければ処刑ルートを避けられない。
逃げたとしても、一家離散にはなるだろう。
それも、出来れば避けたい。
「よし、もう一回やる?」
「えぇ……やるわ」
僕の言葉にお姉ちゃん頷き、立ち上がる。
「……お母さんを殺したヤツらに、復讐するための力を、私は手にするのよ」
そんなお姉ちゃんの瞳に映るのは暗く、澱んだ光である。
「うーん……」
お姉ちゃんの闇堕ちを防ぐこと。
それこそが今世におけるさしあたっての目標だった。
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