過去の追体験
クロノアの悲痛そうな、どこか遠い景色を見ているような真紅の瞳をみて、その奥に映る少女の顔が、僕の心に映り込んでくる。
今もまた、
周囲を取り囲む日常が融けていく。世界が急激に色褪せていく。どうしようもなく鮮麗な追憶に。鮮明な灰色の
気づいた時にはもう遅かった。どこまでも鮮やかに色褪せていく僕の心が、僕の罪に訴えかけてくる。
ストンと、意識があるのに意識が落ちた。僕は
僕、ヴェルティクス・ゲネシスは罪人である。
世界が平和になりますようにっていつもお祈りしていた。
何に祈っていたかは分からない。11歳の私にはぼやけたイメージしかなく、何をどうするべくなのかもわかっていなかった。
今日のニュースでも戦争の話があった。同じ人間同士でなんで争っているんだろう。
そんな心の僅かな疑問は、闇夜にゆっくりと融けていった。
みんなが平等になりますようにっていつもお祈りしていた。
誕生日を迎え、両親にもらった指輪を握りしめる。12歳になった私の中で徐々に形成されていく願い事の形をしんみりと感じる。心に響く夕闇を外に見ながら、部屋の中で考えていた。
今日のニュースでも差別が問題に上がっていた。同じ人間同士でなんで優劣をつけているんだろう。
そんな願いとも言えない、絶妙な言葉は静かな星空にほどけていった。
人々が幸せになりますようにっていつもお願いしていた。
昨日もらったばかりの指輪に小さな希望を添えて、私は願ったのだ。願ってしまったのだ。思えばこれが最初の罪だった。12歳の少女の願った小さな希望は、指輪に宿って世界を変えてしまった。
朝起きたら、すべてが変わっていた。
テレビに映るニュースの文字も、昨日開いたままで放置したはずの宿題の文字も、みんな知らない文字に変わっていた。けれど不思議と違和感はなかった。
周りを見れば、世界が変わっていた。昨日まで戦争していた国々も、大事にためていたはずのお金も変わっていた。国なんて概念ははじめから存在しなかったように消え去り、私の財布の中身の知らない硬貨に置き換わっていた。
けれど不思議と違和感はなかった。
世界が1つになった。きっと誰もが幸せに暮らせて、なんのしがらみもなく、楽しい世界になったんだと本気で思っていた。私の願いごとがかなったんだと、戦争も差別もなくなったんだと思っていた。
2日後両親が死んだ。
大規模テロに巻き込まれたということにされている。
でも、私は知っていた。何の変哲もない男が辺り一帯を瓦礫にしていったんだ。助けてくれたお姉さんによれば、世界が統合されてから不思議な力を持つ人が現れたらしい。それを使って犯罪をする人も増えたらしい。
そんな言葉も私にはどこ吹く風だった。なにも聞こえなかった。眼の前で冷たくなった両親と、それを見てゲスな笑みを浮かべる男。世界が急激に色褪せていった。自分のせいで人が死んだんだと理解した。少女が願ったささやかな希望は私を絶望にオトスのには十分すぎた。
私は政府の施設に入ることとなった。
私と同じような生い立ちの子供を保護しているらしい。灰色の世界で私はなんで生きているのだろう。
私なんか死んでしまえばいいのに……
その後私は、人は幸せになれることを知った。
そして私は、幸せになってはいけないことを知った。
世界統合
概要 50年前突如として世界が統合された、国はなくなり、差別は消え失せた。金銭は通貨という単位で統一され、言語は世界共通語に変わった。それと同時に人間の願いを叶えるスペースが発現し、犯罪率や貧困層の増大につながった。理由は、『
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