なんか女慣れしてない?

「ふんふふーん。」

「ご機嫌のようで何より。」


上機嫌に鼻歌を刻みながら街を歩いている中学生くらいの少女。そしてその隣りにいる爽やかそうな青年。ヴェルティクスとクロノアである。


親子にしては年が近すぎるため、傍目には兄妹に見えるだろう。

二人は今、革命軍本拠地の付近にある大きな街にきている。デパートやビルが建ち並び、車や人々が行き交う。大きな街の割にしては人は少なく感じるが、反政府組織のお膝元にしては多すぎる位に人がいる。それもそうだ。今や『新しい時代』は世界でも一位二位を争う大きな組織であり、一般企業のスポンサーも多数いる。50年前に世界が変わってから苦しい思いをした人や、単純に『新たな時代』の勝率が高いと考え手を組んでいる人もいる。それもやはり、ルシファーの存在が大きいだろう。この時代にいる人間の中でもずば抜けて強い人間は5人ほどいるが、その中でもルシファーは圧倒的一位だ。他の四人が協力してもルシファーには勝てないだろう。

相変わらず上機嫌そうなウィルに声を掛ける。


「で、お嬢さん?本日はどこに行くんですか?」

「んーまあ、どうせなら服とか買いたいかなあ。かさばるから荷物持ち頼んだわけだし。」

「そうか。俺もなんか買おうかなー……おい何だよその表情は?なんか言いたいなら直接言えよ。」

「君っておしゃれとかするタイプなんだなって。」

「俺だって着飾りの1つや2つする。昔厳しく教えられたからな。」

「へー。まあ、君1人じゃ興味も持たなそうだしね。」


若干失礼なこの少女を懲らしめようかとも思ったが、お家で待ってる最強が怖いのでやめておく。やっぱ最強がいるって怖いわ。クソッ!チートすぎだろ。


大きなデパートが近づくに連れ、人が多くなる。反政府組織の本拠地の付近など、物騒極まりなさそうだが、意外にも安全だ。それもルシファーのおかげである。世界最強という抑止力のお陰で、政府側がこちらに手を出すことは滅多にない。……まあ、他の組織が手を出しに来ることはあるけど。……なんかあいつ世間に影響及ぼし過ぎじゃない?


人混みが近づくに連れ、二人の視界はだんだんと悪くなる。窮屈とまではいかないが圧迫感は感じる程度の群衆だ。クロノアは180cmくらいの身長があるため問題はないが、150cm前半程度の身長しか無いウィルにとっては小さな迷宮のようなものだろう。クロノアはすっと右手を差し出し、ウィルの手を握る。ウィルは少し驚いたようだが、この人混みなので素直に手を握ってくる。クロノアはそのまま、デパートへとエスココートした。




「……なんか女慣れしてない?」


ウィルは若干不満気に口にする。

あの後俺達は、一通りの買い物を終え、施設から少し離れた小洒落た喫茶店にいる。先程注文したばかりなので、今は品が来るのを待っているという状況である。俺としてはそこまで変なことをやったつもりは無いんだが、一体何が不満だと言うんだ?


「何だよ。何が不満なんだよ。」

「だって女慣れしてるじゃん。」

「意味わかんねえ。」


同じことを言われてもよくわからない。一体何が不満なんだよ。

「だって、試着しようかなって思ったら鞄をすっと取るし、買い物したときも颯爽と荷物を持つし、おまけにお腹が空いてきたなって思ったら小洒落た喫茶店に連れ込まれたし。というかここ、予約がないと入れない人気店だよね?」

「ん、ああそうだな。本拠地出る時に予約しといた。」

「やっぱ女慣れしてるじゃん!僕の予定では、マナーのなってない君にあれこれ注意して、長く生きたものとしての威厳を取り戻そうと思ったのに!ずっと余裕な感じで

ムカつくんですけど!!」


一体こいつは俺に何を求めているのか?ちょうど運ばれてきたコーヒーに口をつけながら考える。んー、やっぱりコーヒーはいいなあ。


「ん?クロノア?右手に付けてるのって?」


コーヒを持った方の手、つまり右手の薬指を見ながらウィルがそんなことを聞いてくる。


クロノアの指には銀の指輪がはまっていた。シンプルなデザインで装飾もない。決して安くはなさそうだが高級品には見えなかった。

視線の方向で何についての質問なのかだいたい察したクロノアは素直に答える。


「ん?ああ、これね。婚約指輪だよ。」

「婚約指輪!?え、今までのって嘘じゃなかったの!?」

「おい、それじゃあまるで俺が相手がいないのに将来を誓った人がいるって言ってるやばいやつみたいじゃないか……おい目をそらすな!こっちを見ろ!流石の俺も傷つくぞ!」


心当たりがあるのか目をそらすウィル、クソこいつ一回締めようかな。…いや、やめとこ。帰ったあとルシファーに何されるかわからないし。


「そ、それよりなんで右手の薬指にはめてるの?というか相手は誰?いつから付き合ってるの?」


話をそらしながら、女子が大好きで有名な恋バナにスムーズに移行してきやがった。やっぱり見た目通りの精神年齢だな。

ここで答えないのも不自然か…とやや消極的な考えでクロノアは質問に答えた。


「付き合ったのは中学のときからだな。右手にはめてるのは左手には本物をつけたいって彼女が言ったからだ。相手については黙秘権を行使する。」

「へえ〜。意外とロマンチストなんだね、その人。中学の時からか〜。あれ、そういえばクロノアっていくつなの?」

「24だ。」

「若っ!?」

「なんだよ。文句あるか?」

「文句はないけど……」


想像してたのより全然若かったなとウィルは感じる。普段からどこか抜けてる風でありながら、常に冷静で余裕綽々な態度を見てきたのでもう少し年齢が上なものとばかり思っていた。…女慣れしてるし…。


そこでふとウィルは違和感を覚える。年齢的にも結婚していてもおかしくないのにクロノアの左手に指輪は見当たらない。……まあ、家内を持ってて俺が正義だ!!とか言ってたらドン引きだが……いや、婚約者でも同じようなものか……。


「でも、結婚はしてないんだね。」


思わず呟いてすぐ、失言をしたとウィルは後悔した。

眼の前に座る。いつも快活に笑っており、余裕綽々な表情しか見せてこなかったクロノアの顔が、悲痛に歪んだのが目に入ったからだ。


それはまるで泣きそうな子どものようで、心に鋭利なナイフが突き立てられているんだろう。しかし、僕の脳はあまりにも無神経だった。これ以上深く踏み込んではならないと脳の警告がなっているのを無視し、気づけば口にしてしまっていた。


「もしかして、君が僕らの組織に入りたがってた目標って……」


再び後悔してももう遅い。自分の口からでた言葉が目の前のクロノアを傷つけることは誰の眼にも明らかだった。


小洒落た喫茶店に似合わない、重苦しい雰囲気が場を支配する。小気味のいいジャズの音楽も耳を通り抜けるばかりだった。


「ああ、そうだよ。」


クロノアはこれ以上にないつらい現実を口にする。


「俺の婚約者は7年前………恐らく政府に攫われた。」


そう口にした男の表情はどこか遠い過去を見ながら深く傷ついた様子だった。




位階ランクについて

それぞれの級についての解説です。(今回は発火系の能力を例にします)

D級 スペースの中で最弱なんか気持ち普通の人と違うなと感じるくらいの微々たる差。スペース名を持たない。代償は存在しない。 例 体温が高い、火傷しにくいなど


C級 便利な超能力くらいの力を持つ。スペース名を持たないが、本人の意志で発動したりどんな効果があるのか大体分かる。代償は存在しない。 例 燃えろと念じれば指に火がつくなど


B級 戦闘などに使用できるギリギリ、スペース名がつき、代償も発生する。B級以上は、スペース名や効果、代償が能力を得た瞬間頭に入ってくる。多くのスペース持ちがB級。 例 炎を生み出す


A級 発動中身体能力が向上する。戦闘をするならA級以上が望ましい。 例 炎を生み出す 炎を射出する


S級 発動中身体能力が大幅向上する。様々な応用が効くようになり、個人で部隊殲滅などができるくらい強い。また『技術スキル』と呼ばれる技を発動できる。

例 炎を生み出す 炎を纏う 炎を放射する 炎の剣を作るなど


位階ランク』は上がることがあります。基本的には術者の願いが具体化したり、使い続けて熟練したりしたら上がる。


技術スキル』とはスペースのように口に出すことで発動できる強力な技でありS級能力者のみが有している。また、代償は発生しないが、代わりに体力を削る。連発しすぎると体力が底をつく。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

設定が複雑ですいません。補足のために解説コーナー設けているので許してください。これからもバンバン新設定出してく予定です。他のキャラクターのスペースとかね。




こっそり能力名紹介

ウィル→『機械仕掛けの心臓』

ベルゼブブ→『全テヲ呑ミ込ミ吐キ出ス者カリュブディス

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