無断加入系自称正義
突如始まった謎の紹介、謝る事をせがまれたクロノアはごめんごめんと平謝りすると、すぐさま次の紹介に移った。
「続いてはこちら!『新たな時代』最高幹部『七つの大罪』の一人、色欲のアスモデウス・ルクスリアだ。愛称はアズ。アンケートは毎回上位に食い込む。組織随一の色女で色欲の名に恥じないエロさがある。」
「クロノア!?本人の前でなんて説明してるの!?」
「落ち着けウィル。これでも彼女には悲しい過去があるんだ。」
「え、なにそれ僕も知らないのになんで知ってるの?」
「本人の前でそういう事を言うのは本当にどうかと思うのだけれども。」
盛り上がっている2人(主に1人)に対し、流石に堪えたのか苦言を申す女性。光沢のある薄い茶色の髪をベールのようにたなびかせた女性は、ひと目見てわかるほどスタイルが良く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。顔も非常に整っており、きれいな水晶のような透明感のある碧眼は、見るものを誘惑する魔性を秘めていた。首より少し長い程度まで伸ばした髪を手で弄びながら、アズは口を開く。
「流石に本人の前で、下世な話をするのははっきり言ってモラルないと思いますし。というか、私の過去についてあなたが知ってる道理がなさすぎると思うのですけれど。」
「…ほら、そこはあれだよ。……仲間だろ!」
「なんにも思いつかなからって勢いでどうにかしようとするな!というか君は正確には僕らの仲間じゃないし!」
完全にノリと勢いで誤魔化そうとするクロノアにウィルはビシリと指摘する。
「なんか急に来てたし。というかここ世界でも有数のセキュリティシステム何だけど。毎回いつの間にかいるのは何で何だよ!」
「そこはやっぱり正義パワーで…」
「こっそり侵入するのは正義じゃなくて悪なんだよ!」
「ナカーマ、ナカーマ。」
「仲間でゴリ押そうとするな!」
普段の数倍うるさい光景に、最高幹部達は皆関わろうとしない。クロノアに関わるとろくなことがないと皆理解しているのだ。それはウィルも同じなはずなのだが、それでも関わっているのはひとえに彼女の優しさのなせる技だろう。
「本当に仲間だって言うなら僕らの組織に加入すればいいじゃないか。自分の素性と理由を述べれば誰でも入れるのに。」
「下っ端から始めることになるんだろ。それじゃあお前らに会えないじゃん。俺の目的を達成するにはお前らの近くにいると色々都合がいいんだよ。」
「その目的を教えてって言ってるの!」
「………。」
黙り込むクロノアを見てウィルは思う。やはり彼はなにか隠している、と。クロノアはこの手の話になると急に黙る。聞かれたくない理由があるのかもしれない。普段は饒舌な彼がこの手の話題だけ明確に拒否するのにはきっとそれなりに理由があるのだろう。だからといって「はい、そうですか。」と仲間にすることはできない。いくら僕らの組織がでかいからと言って、おいそれと人員を増やすわけには行かないのだ。これが普通の相手なら尋問するなりして聞き出すこともできる。しかし、クロノアにはできない。彼はそんな事をしても口を割らないだろうし、逆にこっちが被害を受ける。最悪の場合、ここにいる半数が死ぬ可能性すらある。以前少し荒事になった時にそれは証明済みだ。この世界にいる人間の中で彼は3本指に入るほどの実力者なのだ。だからこそ、この無断加入系自称正義の扱いに困る。仲間にはできないが手放せない。もともとこちら側ではない可能性もあるが、実際彼がここに来てからの1週間でかなりの活躍をしている。とりあえず協力のスタンスを取り続ける限りにはこっちから手を出すつもりはない。出た杭は打つが、やぶ蛇には合わないようにするのが賢明なのだ。それを僕はここ数十年で痛いほど知った。
クロノアは人好きのする笑みを浮かべて口を開く。
「まあ、そんなことはどうでもいいだろ!紹介続けるぜ!」
「どうでも良くないから!というか、さっきから誰に紹介してるんだよ!」
だから、今はなるべく刺激しないよう僕が居心地のいい場所を創ろう。そうして彼が
本当に僕らの仲間になりたくなったら、その時目的は聞けばいい。彼が加われば、この長い戦争に終止符を打てるかもしれないのだから。
彼という歯車が加わって、この戦いは初めて動き出したかのように感じる。これは僕の一方的な感情かもしれない。ただそれでも、世界を変えるんだ……。
しばらく経って、彼女は自分の勘が正しかったことを知るだろう。しかし、その時が来ることを彼らはまだ知らない。
用語解説
名前 スペース
使用条件 強い願いを持つもの
概要 50年前の世界統合を切り目に世界各地で発見された能力。その人の願いを叶える能力だが、代償が発生する。
現在世界人口57億人中3億人前後が有しているとされ、なぜ急に使えるようになったのかは不明。研究者の間では願いを叶える指輪『
DからS級の
代償は能力強弱や性質に依存せず、一律で一定以上の効果を持つ場合が多い。また、その能力は多岐にわたるが大きく、『召喚型』『永続型』『顕現型』『干渉型』『自己型』などに分けられる。しかし、分類できない能力も幾つか確認されている。
現状、能力によって得た場合を除き、1人1つだけスペースを持ち、人間以外の生物はスペースを持っていない。
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