とある兵士の物語。
クソ、クソクソクソクソ、クソッ!!
内心で悪態をつく間にも眼の前の男、クロノアは隊員達をなぎ倒していた。
クロノアが腕を振るたびに、味方が数十人吹き飛ぶ様は、見ていてあまりにも面白くなかった。
200人もの兵士を相手に一切の迷いがない。雑魚どものレーザー銃も当たりやしない。結局豚に真珠、猫に小判、馬の耳にも念仏だ。
男は眼の前の惨状を見ても悪態をつくのをやめなかった。
『スペース』を使うにも人が多すぎる。俺のスペースでは、あっという間にレーザー銃の餌食だろう。こちらの隊員は防護チョッキできかないが、
指揮官であった男は声を上げる。
「スペース持ちを前に出せ!他の奴らは援護だ!」
隊員は指示通りに動く。指示に従うことしかできない木偶の坊共だが、今回は功を奏したか…
クロノアが相変わらず笑みを浮かべたまま口を開く。
「おっ、いいね。喧嘩しちゃう?」
余裕綽々に煽りをいれるクロノア。
この大規模な戦闘はもはや喧嘩という枠組みには収まらない。戦争といって差し支えないのだ。にも関わらず、本人は子どもの喧嘩気分だ。胸糞の悪い。
部隊の中のスペース数人が囲うように攻撃するが、一切当たる気配がない。それどころか、一人また一人と地に伏す。人数差でゴリ押そうにも、相手が強すぎて話にならない。200人いた兵士の数ももはや半数を切った。
「へいへい。お兄さん?その程度かよ!」
煽りに駆られ、また一人戦いを挑むが結果は言うまでもない。
「次はどいつだ?それとも怖くてチビッちまったか?」
クソッ。どうする?撤退するか?相手からしてもここで引くならちょっかいはかけてこないだろう。このまま戦っていても、いつ相手が遊びをやめて攻撃に転じるかわからない。
そう、クロノアは本気を出していない。スペースを全力で発動する場合。スペースの名前を口にしなければならない。本来スペースは声に出して発動するものであり、その声量に応じて、出力が決まる。
だというのに眼の前の男はまだ口にしていない。恐らくA級以上。本気を出せばここにいるほとんどが死ぬ。相手のスペースもわかっていない。代償や効果がわからなければジリ貧だ。やはりここは撤退を。俺だけなら、殿を務めても生き残れる可能性が高い。
指揮官は優秀であった。幼い頃から猟師として育ち、観察眼と冷静な判断力に長けていたのだ。山では一瞬の油断が命取り。それは戦場でも変わらない。それがこの男をこの地位まで押し上げた。内心では悪態をつきながらも組織に忠誠を誓い。若くして少佐まで上り詰めた。指揮官が指示を出そうとした刹那。隊員の後方スペース持ちの一人が声を上げた。
「隊列を組み直せ!全員で撃退する!」
「バカッ、やめろ!固まるな!」
しかし、冷静さを欠いた隊員達は指揮官の指示を無視し、集団を作る。
「お?いいね。固まってくれるならありがたい。そろそろ飽きてきたし一掃しようか迷ってたんだよね。」
軽い口調でクロノアは右手に光を収束させていく。
「チッ。」
未知の攻撃に怯む隊員とは対象的に、指揮官の動きは速かった。すぐさま集団を離れ、その刹那。
「バーン!」
雑な言葉とともに閃光が迸る。光が晴れたところを見て、指揮官は思わず乾いた笑みを漏らした。
「ハハ。笑えねえ。」
軍隊は跡形もなく消え去っていた。残るのは草原ごと地面を抉るクレータのみ。
その時、指揮官は確信する。
こいつ、恐らくS級。
自分の
「お、生き残りいるじゃん。まだもうちょっと遊べそう。」
軽薄そうな男はたった今200人を殺したとは思えないほどの笑みを浮かべる。
勝算はそこにしかない。こいつが油断している今、手傷を負わせて逃げ帰る。それしか生き残るすべはない。やつの能力が少し分かった。恐らく自己強化とエネルギー操作。今まで名前程度しかなかった情報が加わると考えれば、それだけでも十分な収穫である。政府にとってこの敗戦はそこまで大きいものではない。ここで負けたところで、次のチャンスなどいくらでもあるのだ。
指揮官は深呼吸をして眼の前の男を見据える。
たった今から俺の一世一代の大舞台が始まる。勝たねば死あるのみだ。
その瞬間指揮官は自身のスペースを叫ぶ。
「行くぜ!『
スペース解説
スペース名
能力者名 ハント・ウェイス
大きな獲物を狩って、父親の背中に追いつきたい。という願いによって発現したスペース。
能力 自律した影の猟犬を7体召喚する。また、影のできる環境下における、自身の身体能力の向上。
代償 視野の縮小
特徴 完全自律した影の猟犬を出せる。猟犬は一定以上のダメージを受けると消滅するが、7秒後に自身の影から新たに召喚される。代償は使用中に発動し、使用停止すると代償による効果は消滅する。また、猟犬に対する物理的接触を無効化し、触れたものにダメージを与える。
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