自称正義の戦闘開始

ゆらゆらと揺れる草の波。どこまでも続く広い草原は、世界を取り込むような不思議な魅力を持っている。


しかし、そんな草原にはおびただしい数の軍隊がいた。。


200人はいるだろうか。白を基調とした服に身を包んだ兵士がずらりと並んでいる。そのどれもがレーザー銃に防護チョッキを持ち、いわゆる完全武装の状態であった。そんな軍隊の最前列に、兵士とは対象的な格好をした男が立っていた。


男は鮮血のような赤い瞳に色素の抜けきった白い髪をスポーツ刈りにしており、服装はジーンズに無地の白Tシャツ、その上に黒のジャケットを着ただけである。もちろん手ぶらであり、なんならジーンズのポケットに手を入れている。


明らかに場違いな雰囲気を醸し出す男に兵士たちは不自然にも警戒を強めていた。

男がこれほどの軍隊を前にしながら一切の気の乱れも見せず笑みをたたえたまま喋りだす。


「よう。お前ら、元気そうだなあ。俺は…」


まるで旧友に話しかけるかのようなテンションで語る男に兵士の一人が声を上げる。


「知ってるぞ。クロノアだろ!最近になって政府に敵対し、ですでに683名の隊員を殺害した!」


その言葉にクロノアと呼ばれた男は嬉しそうに笑みを作る。どこからどう見ても爽やかな好青年。どこか落ち着いた雰囲気を纏うクロノアは、その若い見た目に反して、何十年も生きた老人のようにも見える。


「おお、知っているなら話は早い。そうだ、温厚な正義の男クロノアさんだ。クロノアさんって呼んでいいぞ。」


軽薄そうな見た目の通り、適当な感じで流そうとするクロノア。この場にこの雰囲気のなかツッコミができるような人がいれば、683人殺した人間は温厚でも正義でもないだろとツッコミを入れそうである。しかし、クロノアの雰囲気には一切殺人鬼のような狂気が感じられない。それがまた、隊員達の恐怖心を煽る。


「…んで、どうだ今から引き下がる気はないか?俺達革命軍としても、ここでやり合うのはちょっとめんどくさい。」


クロノアは200人の完全武装の隊員達を見て余裕そうに語りかける。その底知れなさに隊員達の間に緊張が走る。…1秒…2秒。数にしてみればたったの数秒が無限とも思えるほどに引き伸ばされる。じわじわと高まる緊張。隊員達の誰もが返事をすることを躊躇い。恐怖に身を竦める。未知は恐怖だ。普通の人間なら200人もの完全武装の軍隊に囲まれてこんなことは言えない。彼らに分かるのは眼の前の男が決してではないということだ。


緊張を破ったのは男の方だった。


「5秒立ちました。流石に温厚で心優しく誠実な正義の男クロノアさんでもちょっとキレちゃいそう。」


そう言って、手近にいた。隊員数十人を吹き飛ばした。キレちゃいそうなどと言いながらその表情は一切変わっておらず、ただ淡々と、攻撃を開始したのだ。


「戦闘開始!やつを殺せ!」


指揮官だろう。他のものより目立つ服装をした男が声を張り上げる。恐怖に苛まれていた隊員達が動き出す。軍隊らしい統率の取れた動き、それらが完全武装しているとなれば、普通の人間なら身が竦むような思いだろう。


……………………


その言葉を切り目に戦いの火蓋は切って落とされた。

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