正義の味方のオトシカタ〜自称正義の男には正義も悪も関係ない〜
めぐみんかわいい
悪の組織の正義の男
プロローグ 正義のために
摩天楼のようにそびえ立つビル街。ネオンの光をまといながら活気づくその姿は鮮やかだった。しかし、不自然にもこの場には人の気配がほとんどない。今の時間帯でも人がごった返しているであろう街中は、普通ならありえないほどの静けさを帯びていた。
夜の帳が降りた街並みに群衆の声とは異なる大きな音が鳴り響いた。
ガシャンと耳障りながらどこか小気味のいい音とともに大きなビルに穴が空く。ガラスを突き破ったものは物体ではない。一人の男だった。血のように鮮やかな赤い瞳の奥は爛々と輝いており、色素という色素の抜けきった白い髪はいかにも爽やかな好青年といったようなスポーツ刈りと呼ばれる髪型になっていた。
どこからどう見ても静けさを伴うビルのガラスを突き破るようには見えないが、これにはれっきとした理由があった。ガラスを突き破るほどの衝撃を受けて吹っ飛んできたのである。しかし、その男の顔には苦悶の表情は見当たらない。それどころか、どこか清々しさまで感じさせるほど凪いだ笑みを浮かべていた。本来ならガラス片が突き刺さり、骨が折れてもおかしくないほどの衝撃を受けてなお、男は笑っていたのだ。
満月の光に照らされた彼の笑みに物理的に影が差す。
その視線の先には満月を背後に双剣を携えた少年が浮いていた。知的な濃い緑色の瞳のうち右目に片眼鏡をかけている。夜の闇に溶け込み様な黒髪はその雰囲気に違わずしっかりと整えてあった。どこまでも冷ややかなその眼は男のことを明確に敵として見てることを雄弁に語っていた。
「殺すつもりで切ったのにどうして生きているのですか。」
少年は一切不思議そうにもせず問いかけてくる。
男はそれをみて煽るように告げた。
「ハッ。あれで殺すつもりだと言うなら、政府の人間はどうにも軟弱らしいなあ。」
「………………。」
「おいおい、どうした?図星過ぎて言葉も出ないのかあ?」
「ガラス片に囲まれて、100メートルくらい吹き飛ばされた様子のままに言われてもあんまり格好良くないですよ。」
「………………。」
今度は男が絶句した。
男は立ち上がりながらガラス片を手で払う。その体にはガラス片は愚か、少年が切ったのにもかかわらず、一切傷かついた様子がない。
「フッ。」
「今更格好つけたってどうにもなりませんよ。」
冷静に告げるその少年の目の奥に一筋の光が宿った。
「あなたのソレはどういった仕組みなんですか?」
「そいつは企業秘密だ。」
男は静かに答える。
「そうですか、残念です。」
多少残念そうながら、その返答も予想の範疇という風に少年は返す。
「じゃあ、代わりに質問です。」
少年の言葉に男は黙って続きを促す。その男の顔には、吹き飛ばされたことなど意にも介さないと言わんばかりに、如何にも余裕綽々といった笑みが浮かべられている。
その様子に少年は特に反応するわけでもなく平坦な声で質問の続きを口にする。
「あなたはなんのために戦っているのですか。」
静かなビル街に平坦な透き通る声は浸透していく。一方は無表情、もう一方は笑みを浮かべるという、奇妙な様子に口を挟むものはこの街には誰もいない。
少年の言葉に男は鼻で笑って見せる。
「愚問だな。正義のためだよ、俺の中のな。」
男の言葉には確かな重みと決意が込められていた。しかし、少年はそんなものかと言わんばかりにため息を吐く。
「そうですか。なら死んでください。世界の正義のために。」
そうして一瞬で少年は距離を詰める。その双剣を振りかざす直前、男は笑った。首筋に剣が届くまでのコンマ一秒の間に、男は確かに笑っていたのだ。
男は直後、振り下ろされた剣を素手で弾いた。
攻撃を防がれた少年は、一度大きく後ろに飛んで距離を取る。腕に残る僅かな痺れがその男の力を示していた。
男は未だ浮かべている笑みのまま告げる。
「お前らの意見とか関係ねえ
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