第19話 100万人記念に向けて

 ヒナちゃんのコラボから2週間。

 案の定今回も切り抜きが幾つもバズり、遂にチャンネル登録者100万人を突破した。 


 だから近々お祝いのイベントをしようと思っている。 


 ダンジョン配信者のお祝いと言えば、攻略済み階層RTAチャレンジや視聴者ハンターとパーティ組んでダンジョンへ行ったり、ファンミーティングなどをしたりと様々だ。


 私は漠然とファンミーティングしたいなぁと思っている。基本的に場所はダンジョン入口の広場の一角にあるライブハウスだ。

 

 その日はハンター以外の人も配信者にプレゼントを送れる機会だったりする。みんなからフラスタや寄せ書き、その他プレゼントを受け取ったりするのだ。


「でも何からすればいいか分かんない!」


 こちとらまだ配信歴1ヶ月!それで100万登録者突破!嬉しい!けど私まだペーペーの初心者!


 普通は小さいイベントから始めるだろうけど、私は一気に100万登録。つまり箱……会場もデカくしなきゃ映えないし人も入らない……けど私がそんな大きな箱貸し切っていいのかな?視聴者もまだ定着してるとは思えないし着いてきてくれる?ホントに?しかも黒崎さんの功績が大きいというか、私だけに来てくれる人そんなにいる?


 と言った風に陰キャ特有のクソ長ネガティブ思考に陥る。


「考えすぎて分かんなくなってった……ヒナちゃんに相談してみよう」


 そう、先日のコラボの後連絡先を交換したのだ。しかもヒナちゃんから!


「はい!これあたしの連絡先ね!またコラボしよ!」

「ええ!?い、いいの!?」

「うん!それと、何かあったら相談してね?急に登録者増えて大変だと思うし」

「……うん!じゃあまた連絡するね!」


 はあ〜!ヒナちゃんいい人すぎる!更に好きになっちゃった!


 っで、こんな風に交換しちゃいました!てことで今から連絡しちゃいます!


〈ヒナちゃん、相談があるんだけど大丈夫?〉

〈やっほーゆいちゃん!大丈夫だよ〜。なにかな?〉

〈えと、100万登録者のお祝いでファンミーティングしようと思うんだけど、何からすればいいか分からなくて……〉

〈おけ!ギルドの管理課の受付に行って、イベントをしたいですって伝えるの!そうすると箱の空いてる日付や時間を伝えてくれるから選ぶ感じだね〜〉


 ライブハウスは公営ギルドによって管理されており、主催は使用の許可を申請、時間帯を予約をしたりするようだ。そしてみんなが来てくれる席の電子チケットを販売したりとかもある。


 流石ヒナちゃん!いっぱいイベントしてるし詳しいなぁ〜。


〈その後は箱の規模だね。100万登録者が1人ならスタンディング3,100人、着席時1,300席の箱が紹介されると思う。後は時間で金額決まるけど、それも内容によるし機材の貸し出しも考えなきゃ。もう何するか決めてる?〉


 すごっ!そこまで目算できるんだ……。

 

〈えと、ヒナちゃんがやってたみたいな切り抜きの同時視聴とか、ちょっとした歌のパフォーマンスとかしたい……かも〉


 こう見えてアイドルに憧れて歌とダンスに打ち込んだ事がある。まあ学生の内に諦めて就職したけど、そっからダンジョン配信者になって……今に至る。


 そんな中、ヒナちゃんというハンターであり歌って踊れるアイドル的な側面も見せられたら……かつての夢への想いが灯ったのだ。


〈でも切り抜き同時視聴は兎も角、歌って踊るのを1時間とかは難しいかも……ほぼ素人だし〉

〈ふむふむ。でも歌とダンスならあたしが色々レクチャーするし、MC含めて30分のミニライブくらいなら大丈夫!〉

〈いいの!?〉

〈もちろん!あたしも歌とダンスはダンジョン配信の合間に覚えたしね!そのノウハウを伝授しよう!〉


 ヒナちゃんに教えて貰える!?贅沢すぎか!?


 まさかの提案にびっくり……でもこんな機会滅多にないし、お言葉に甘えちゃおう!


 という訳でその日の内に何がしたいのか草案をまとめた。


 ・Dtubeで有料配信(チケット代は3000円程)

 ・グッズの物販は先行販売と現地販売で。現地はファ       ンミの1時間前からスタート

 ・切り抜き同時視聴1時間

 ・サイン入りグッズをかけたジャンケン大会

 ・ミニライブ30分(MC含む)

 ・お見送りのハイタッチ


 こんな感じで考えている。


 そして次の休日にヒナちゃんと会う事になった。


 待ち合わせ場所に行くと、金髪をポニーテールにして黒縁メガネをかけたヒナちゃんを見つけた。送られてきたコーデの写真まんまだから直ぐに分かった。


 それはヒナちゃんも同じなようで、私に気がつくと大きく手を振ってくれた。


「やっほーゆいちゃん!」

「ヒナちゃん!こんにちは!写真で見たけど、やっぱり生身でも可愛い……!」

「そう?ありがと!ゆいちゃんも茶髪可愛い!」

「えへへ……嬉しい、ありがとう♪」


 互いを褒め合い、私達は目的地に向かうのだった。


 やってきたのは公営ギルド。その管理課に行ってライブハウスの予約を入れるのだ。


 ヒナちゃんがいたのでスムーズに済んだ。休憩スペースに座り、飲み物を頼んで打ち合わせをする。


「予約は半年後、それも借りる費用が前後のリハや撤収1時間ずつ、本編2時間程の合計4時間400万円……」

「機材代とか警備代も含めだね。ぶっちゃけ初めてなら赤字も覚悟してね?」

「う、うん……」


 今までの人生で1番高い買い物になる……でも、これもファンのみんなの為だもんね!


「まあグッズや配信チケットが売れれば回収出来るから、これから考えよう?」

「うん!ヒナちゃんの時はTシャツとかペンライトとかあったよね。私も出してみたいなぁ……」

「いいね!ミニライブもするなら絶対盛り上がるよ!あとタオルとかもいいかもね!」

「確かに……盛り上がると汗かくし、普段使いもできるし」


 色々と夢が広がる……!

 

「デザインはあたしに任せて!」

「そ、そんなとこまで!?」


 またまたまさかの提案!?至れり尽くせりって所じゃない!


「流石にそれは……ヒナちゃんの負担になっちゃうよ……」

「いいのいいの!あたしも初めての時苦労したからさ〜。ファンの子が私を追いかけて同じ舞台まで来てくれたんだもん。協力したくなるのよ」


 ヒナちゃんもライブの時アフタートークで色々苦労したって言ってたなぁ……そんなヒナちゃんが、私の為にこんなにも手を貸してくれてる……!


 なら、その優しさに応えたい!

 

「ヒナちゃん……ありがとう!絶対成功させようね!」 

 

 こうして引き続き色々と構想を練る。グッズ製造の業者や保管する倉庫、輸送などの諸々をヒナちゃんに教えてもらい必死にメモした。


 グッズの内訳はこんな感じ。

 

 ・ペンライト3000円

 ・Tシャツ4000円

 ・タオル2000円


 大体原価の3倍程。個人的にはこの3つがあればバッチリ。現地チケット3000円、期間限定アーカイブ付き生配信チケット3000円もある。


 1人がグッズ全部とどちらかのチケット買うと12000円。ライブハウスの3100人でかけると3720万円になる。


 問題があるとすれば、私はダンジョン配信がバズっただけの人間。歌もダンスもみんなに披露した事ない。果たして箱が埋まるかどうか、グッズが売れるかどうか分からない事だ。


「こういうのは宣伝が大事!私が歌とダンス監修!って、ネームバリューである程度のお客さんは保証はできると思うよ。それもゆいちゃんの頑張りが前提だけど」

「それで酷いパフォーマンスだとヒナちゃんの名前にも傷がついちゃうもんね。頑張ります……!」


 協力して貰う上、名前まで借りる形になる。これはますます成功させないと!

 

「Dtubeの配信だけど、スクリーンショットは許可されるから、それで気になった人がアーカイブチケットやグッズ買ってくれる事もあるよ。ライブのサプライズ演出とかね」

「ふむふむ」

「あとゲストだね。あたしがライブパートで1曲デュエットするとして……もう1個ぐらい話題性のある何かが欲しいかな?」

「ゲストも!?あ、ありがとう……うーん、何がいいんだろう?」


 頭を唸らせる私達。すると、1つのアイデアが思い浮かぶのであった。

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