第17話 アイスタイタン
スノウゴーレムを倒した私達はまた通路を歩く。そんな中、通路の途中にドアがあるのを確認する。それを慎重に開けると中は暖かな空気に満ちており、毛皮の絨毯が敷かれていた。
「あ、セーフゾーン見たいですね」
「ホントだ!やったー!休める!」
「これは助かるな」
セーフゾーン……文字通りダンジョン内にある安全地帯だ。敵は入って来ないし、このようにくつろげる空間が広がっているのだ。
ヒナちゃんは早速ゴロゴロしている。
「ぬく〜い!ずっとここに……はいたくないけど暫くいる!」
「あはは、でも一息付けるのは助かるね……」
私達は腰を降ろし暫しの休息を取る。そんな中、話題は私の事になった。
「ゆいちゃんはどうしてダンジョン来たの〜?」
「えと、私……ずっとヒナちゃんのファンだったんです」
「ええ〜!そうなの!?」
「はい、それで……いつか私もヒナちゃんみたいに楽しくダンジョン冒険して、色んな綺麗だったり可愛いアイテム集めたりしたいなって……」
そう、ヒナちゃんは憧れの人。姫騎士の衣装を纏い、華麗に敵を倒し、時にはピンチになったりするけど、リスナーと嬉しい事も悔しい事も共有する。そんな風になりたいと思ったのだ。
「そう言ってくれるとあたしも嬉しいよ!ゆいちゃんの事応援してる!チャンネル登録まだの人は忘れない内に今すぐしてってね!」
「あ、ありがとうございます……!私もヒナちゃんフォローしてるから、まだの人はしてね!」
お互いのチャンネルを宣伝する。それこそ持ちつ持たれつの配信者のコラボだ。
〈したよ〜!〉
〈もちろんしてるよ!〉
「そういうのいいな」
「黒崎さんは居ないの〜?憧れの人とかさ?」
「そうだな……師範代かな」
「剣の師匠……ですか?」
「ああ、そうだよ」
そういえば、黒崎さんの事はまだあんまり知らないや。
「どんな人なんですか?」
「古流剣術『天刃流』の師範代。そりゃもう厳しい人さ。力ならまあ男女の差で俺の方が強いけど、技のキレが凄まじくて……10本勝負したら7本は取られるぐらい強いよ」
「女の人なんだ〜!しかも黒崎さんより強い!?」
「すごい人なんですね……気になる……」
「機会があれば紹介するよ」
そんなこんなで休憩を終え、私達は再びダンジョンを探索するのだった。
2時間程経っただろうか?何度か戦闘をしたり、坂の下につららが逆様になっている罠などに出会ったがなんとか乗り切った。そして私らは遂に最奥のボス部屋へと来ていた。
「相変わらず広いね〜」
「寒さも一段とすごい……!」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
それぞれ呟きながら部屋へ進んでいく。すると、部屋の中央に頭上から氷塊が降り注いだ。
激しい衝撃と共に冷気が辺りに舞い、それを受けた全身に冷たさを感じる。
「氷……っ!」
私は思わず目を見開く。氷塊はその形を変え、スノウゴーレムよりも更に一回り大きな巨人となった。
「グオオオオッ!」
叫び声と共に冷気を吐き出す巨人。このダンジョンのボスだと言うのは嫌でも分かった。その覇気に圧倒される。
「戦闘態勢!」
既に刀を抜いた黒崎さんの言葉で我に返り、私は杖を構えた。ヒナちゃんも剣を構え、前衛として黒崎さんの横に並び立つ。
落ち着いて……まずは相手を見る!
私は巨人を注視し、ライブラリーアイで情報を見抜く。
アイスタイタンLv25
「アイスタイタン……!この前のウィッカーマンと同じレベルだけど、特殊個体……!」
アイスタイタンは種族的にウィッカーマンよりも強いだろう。その上で赤文字で表示される特殊個体。手強い相手なのは間違いない。
〈アイスタイタン!〉
〈でかい!〉
〈特殊個体!?〉
〈3人ともファイト!〉
「うん、がんばる!」
「やっちゃおう!」
「おう!」
リスナーの声援を受けて私達はアイスタイタンへと立ち向かうのだった。
「まずは牽制します!『マナバレット』!」
私は5つほどに分割した魔力弾を放つ。氷の体が薄く削れるだけだ。
「グオオオッ!」
アイスタイタンは迫ってくる。それに向かって黒崎さんとヒナちゃんは迎え討つ。
アイスタイタンは左腕を振りかぶり、横薙ぎの攻撃を放った。それを2人は跳躍し軽々と躱す。そしてその勢いでアイスタイタンへ剣を振るう。
「はあっ!」
「えい!」
刀と剣が氷の体を切り裂く。だがダメージはあるものの、それで倒せる程では無い。
「グオオオオ!」
氷の巨人は叫びと共にその口から冷気を勢いよく放った。2人はそれを受けて私のいる後方まで吹き飛ばされてしまった。受身を取ったので地面には叩きつけられ無かったようだ。
「黒崎さん!ヒナちゃん!」
「思ったより切り返しが速ぇな……!」
「くぅ……!油断した〜!」
2人の体に霜が降り、その体がヒビ割れて魔力が少し漏れる。
黒崎さんが初めてダメージを……!?ううん、私もしっかりしないと……!
「私が弾で引き付けます!」
「分かった!」
「その隙を突くって感じだね!」
2人がまた前に出る。私は少し角度を付けるように左に動き杖を構える。
「『猟犬の魔弾』!」
杖に集まった魔力が3匹の猟犬となり、アイスタイタンへと走り出した。それぞれジグザグの軌道を取る事でアイスタイタンを撹乱し、その迎撃を掻い潜る。
そして着弾、青い爆発が起こった。
「やった!効いてる!」
マナバレットよりも素の火力がある為アイスタイタンの体が抉れる。そして怯んだ隙に接近していた2人が仕掛ける。
「行くよ……!『ブロッサムスラッシュ』!」
剣から生まれた薔薇が舞い、ヒナちゃんが刃を振るうと共に嵐のようにアイスタイタンを襲った。
「天刃流『
深く踏み込み、その足に右下から左上に抉るような一撃……逆袈裟斬りが振るわれる。
切り口から魔力が粒子となって舞う。確実にダメージが入っている。すると再びアイスタイタンは冷気を吐き出した。
「「『バリア』!」」
だが2人も同じ攻撃を受ける程甘くは無い。バリアを貼り、冷気を防御した。そして私も見ているだけでは無い。
「『マナバレット』!」
1つに収束させた魔力を放ち、アイスタイタンの顔面に直撃させる。魔力を集め、一箇所にぶつければマナバレットでも通用する。
巨人が怯んだ所に2人は更に剣戟で追撃をする。
〈連携うっま!〉
〈いいぞー!〉
〈いけるいける!〉
すごい……!これならアイスタイタンも……!
そう思ったのも束の間、アイスタイタンは足を強く地面に叩きつけた。その衝撃はバリアを砕き黒崎さんとヒナちゃんをまた吹き飛ばしてしまった。
「一筋縄じゃ行かねぇな……!」
「そうだね〜。でもまだまだ行けるよね2人共?」
「おう!」
「うん!」
私達は臆すること無く、寧ろ闘志を燃やし氷の巨人を見据えるのだった。
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