第12話 真贋審議

「そこの!黒崎さんを騙って何してるの!」


 黒崎さんを語るなんて絶対許さない!


 その一心で輪の中心に来た私達。相手は目に見えて驚いている。


「え?どゆこと……?」

「黒崎さんが2人……?」


 周りの人だかりが騒めく。私はそんな事お構いなくまくし立てる。


「黒崎さんの偽物!不届き者!」

「な、何を言ってる?俺は正真正銘の黒崎勇吾だぜ?」


〈ほな偽物ちゃうか……〉

〈うーん審議〉

〈本物だってさ!〉


「ほな本物……ってんな訳あるか!どんな目しとんねん!」


〈草〉

〈ごめんて〉

〈関西弁!?〉


 流れで故郷の関西弁が出てしまう。


 コメント欄は置いといてっと……それより!この後に及んでまだ言い訳……!黒崎さんを騙るだけでめ万死に値するのに……絶対許せない……!


「黒崎さんも何か言ってください!」

「あー……えと、あんまこういう事しない方がいいぞ?バレるのが後になる方が怖いし」


 腰引く!?そんなんでいいの!?


〈優しい〉

〈聖人〉

〈心が広い〉


 そういう所は美徳だけどさぁ!好きな人の偽物なんて納得できない!


 ここは私がしっかり言ってやらないと!


「絶対偽物!私が居るのが証拠!」 

「そ、そっちこそ偽物だろ!魔力体なら姿なんて幾らでも弄れるんだからな!」

「それはそっちもそうでしょ!てか黒崎さんはそんな物乞いみたいな事しないし!サインも書かない!」 

「サインは頼まれたら普通に書くけど……」

「黒崎さん!?どっちの味方なんですか!?」

「ご、ごめんって……!」


〈草〉

〈草〉

〈ハシゴ外されてて草〉

〈ゆいちゃん黒崎さん厄介オタクだったりする?〉


「みんなも茶化さない!もう!」


 ってそんな場合じゃない!今は偽物の方よ!


「いい加減認めて謝って!黒崎さんに!」

「そっちが本物って言うなら証拠!証拠を見せてみろよ!」

「証拠か……魔力体解くか?」

「だ、ダメ!それはダメです!入口とは言えダンジョンは危ないし、他のハンターも魔力体です……もし攻撃されたら生身が傷つくんですよ!?」


 そう、生身への魔力体での攻撃は許されざる行為だ。法律でもそう決まっている。しかしそういう事件は今も起きている。だから、名を騙るような人の前で魔力体を解くのは非常に危険だ。


「そうなのか……困ったな」

「ふん、やっぱり偽物だな。後から来て声高々に捲し立てるあたり余計そう見える」


 ぐぬぬ……!好き放題言ってぇ……!

 

「ま、そっちが土下座して頼むなら俺は解いてもいいがな。あんたらが口封じに襲いかかって来ても天刃流でバッサリ切ってやるしな」

「はあ!?……土下座なんて誰が!」

「おい」


 その冷淡な声に背筋がゾクリとする。恐る恐る背後を見ると、普段の態度から想像がつかないような……怖い気を纏った黒崎さんが居た。


「今なんて言った?」

「ああ?襲って来ても天刃流で切ってやるって言ってんだよ」

「……そうか、ならそうして見せようか?」


 刀に指を掛ける黒崎さん。それを慌てて止めに入る。


「ちょ、ちょっと……!なんで喧嘩するみたいな……あっ!」

「どした?」

「いい事思いつきました……決闘です!」


〈え!?〉

〈決闘!?〉

〈するの!?〉

 

 そう、決闘だ!


「見た目でも判断出来ないなら、これはもう実力で証明しかないです!」

「なるほど……いいアイデアだな。ゆい」

「ですよね!」


 名を騙るような奴ならどうせ弱いし!絶対怖気付く筈……!


 そう思い込みほくそ笑む私。


「乗った!分かりやすくていいしな」


 アレ!?乗って来た!?


 予想を外して相手は決闘にノリノリだった……!


「相手の魔力体を破壊した方の勝ち。もちろん生身になった時点で決着。それ以降は絶対手は出さないぜぇ?」

「ああ、構わねぇよ」

「おし!交渉成立だな!これより決闘を行う!皆は下がって見ててくれ!俺が本物だと証明してやるよ!」


 私達を取り囲む人達は戸惑いながらその円を大きく広げ、遠巻きに私達を見る形になる。


「黒崎さん、すみません。まさか相手が乗って来るなんて……」

「いや、ちょうど俺も何とかしなきゃって思った所だ」


 そう言う黒崎さんの声は低く、静かな怒りが燃えているようだ。表情はいつもの柔らかさは無くなり無表情。その切長の目もより鋭く相手を見据えている。


 こんな黒崎さん初めて見た。ちょっと恐い、かも……。


「ゆいは下がっててくれ。大丈夫、絶対負けないから」


 だが、一転して声は優しくなり、表情は柔らかくなる。その一声で恐れを抱いた私の心が解される。


 ……やっぱり、黒崎さんは黒崎さんだよね。なら、大丈夫。大丈夫だ。

 

「は、はい……!応援、してます!」


 私もまたその場から距離を離し、黒崎さんの決闘を見守るのだった。


 ふと周りの人を見渡すと、どちらかを応援すると言うよりホントにただ行く末を見守ると言った感じだ。困惑しており、結果次第としか言いようがないのだろう。


 けど私は違う。ううん、私達は違う。


〈黒崎さん頑張れー!〉

〈偽物をぶっ倒せ!〉

〈そんな偽物なんかやっちゃいなよ!〉


 そう、私とリスナーさんは黒崎さんを誰よりも近くで見てきた。だから、どちらが本物かは分かる。


 ……ってか視聴者10万人!?大事になったししょうがないか……しかも私から決闘って言ったし。でも……きっと黒崎さんは勝つ。そう信じている。


 私は信頼を胸に抱き、黒崎さんを見守るのだった。

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