第11話 名を騙る者
今日も今日とて私……早見結花ことダンジョン配信者ゆいはダンジョンへ来ていた。
黒崎さんと共にダンジョンに潜ってから数日。ソロでの配信も何度かこなした。視聴者は相変わらず4、5万人はいつも居る。
ぶっちゃけ今でも緊張する。ソロだと余計に……。
例に漏れず、前の2人での配信もDXの切り抜きがバズってしまった。
『話題の激強黒衣の剣士とクーデレ金色姫が幻のレアアイテムゲット!?』
クーデレ金色姫て!どゆこと!?
タイトルからもう脚色されている……動画はギルドの鑑定課で受付のお姉さんを驚かせてしまったシーンだ。
〈幻のレアアイテム!?〉
〈やばっ伝説じゃん〉
〈黒崎さん持ってるなぁ〜〉
〈これ近くで見てた。水晶赤みがかってたからガチ〉
コメントも200件ある。動画の続き……別室での鑑定も切り抜かれている。
『幻のレアアイテムは攻撃スキル!』
〈かっけぇ〜〉
〈斬撃飛ばすスキルとか史上初じゃね?〉
〈驚くゆいちゃん可愛い〉
アイテム関係ないコメント!嬉しいけど!
まあそんなこんなでどちらも5万リポストや10万いいねを超えている。他にも細かい切り抜きもいっぱい拡散されていた。
その影響で私のDXとDtubeどちらのフォロワーも増えて50万フォロワーだ。合わせたら100万。
──2日。それも2回の配信で50万人増えた。1週間前ダンジョンに初めて入った全くの無名の私がだ。こんな事になるとは夢にも思わなかった。
あまりの数字のインフレに頭が痛くなる……!でも沢山ファンが居たり応援してくれるのは嬉しい!これは紛れもなくガチ!
あと現金な話……直喩でなのだが、ストチャも2回の配信で60万を超えていた。Dtubeに3分の1納めたとしても40万が月末に入る。怖い。こんな額一度に送られた事無い。
ていうか広告収入もあるじゃん。こわっ。
そんな訳で戦々恐々してるのだが、それでもダンジョンへ行くのがハンターでありダンジョン配信者である私なのだ。
そうだ……鑑定の後、実は黒崎さんと連絡先を交換したのだ。
「黒崎さん!あの……れ、連絡先……交換しませんか?」
「いいぜ。ちょっと待ってな」
相変わらず即決!こっちはめちゃくちゃ勇気出したのに!
あっさり連絡先ゲットしてしまった。
「あ、ありがとうございます!」
「またダンジョン一緒に行く時とか連絡取ろう。んじゃ、またな」
「はい!また……!」
その日の晩に早速連絡を入れた。まあ軽い挨拶だけど。
それを打つのにもめっちゃ悩んだ。だって今忙しいかな?急に連絡して変じゃないかな?2回一緒にダンジョン行ったぐらいで馴れ馴れしくない?
とか色々考え、いざ文を打つとなると更に校正し2時間経ってた。
『本日は一緒にダンジョンへ行って頂きありがとうございました。とても頼もしかったです。また一緒に行けたら嬉しいです』
『こっちこそありがとな。色々勉強になったし、寧ろゆいの方が頼もしかった。また誘ってくれよな』
また誘ってくれよな!?いいんですか!?
「や、やったぁ〜!」
嬉しさのあまりベッドでゴロゴロ、足をバタバタさせてしまった。私しか居ないけど、暫くして我に返るとちょっぴり恥ずかしかった。
そんなこんなでいつも通り配信!流石に何回も誘うのもアレだから暫くはソロと決めている。
必要なアイテムは買い揃えた。指輪を付けて魔力体に変身する。早見結花から配信者ゆいに身も心も変身するルーティン。
茶髪は金髪に、瞳は茶色から紺碧に変化する。
カメラ起動、配信モードへ移行。Dtubeと接続、回線良好。待機画面が流れる。配信開始のポストをしてっと……。配信スタート!
「こんゆいゆい〜。ゆいです。今日もダンジョン配信していくよ」
〈こんゆいゆい〜〉
〈こんゆいゆい!〉
〈今日もクールだね〉
「クール?そう、かな?いつも通りだけど」
〈いや、クールでしょ〉
〈いつもクール可愛いよ〉
〈黒崎さん居る時に比べたらそう〉
「そんなに違うかな?まあいいや、今日は昨日疲れて撤退した第4層のダンジョン行くね」
「あ、そうなのか?」
「え?ちょ!うわああああっ!黒崎さん!?」
〈っ!?〉
〈おる!?〉
〈いつの間に!?〉
びびびびっくりしたぁ!背後から突然声をかけられて素っ頓狂な声が出た!
「驚かせてごめんな。こんゆいゆい」
「こ、こんゆいゆい……です」
〈挨拶もバッチリだw〉
〈黒崎さんこんゆいゆいです〉
「みんなもこんゆいゆい〜……って俺はゆいじゃないんだがな」
楽しそうな微笑む黒崎さん。相変わらず笑うと可愛い。お茶目だし……いいなぁ。って!見蕩れてる場合じゃない!配信中配信中……!
「あっ、えと……黒崎さんは今日何するんですか?」
「俺もダンジョン行こうと思ってた。3層だけど」
そうなんだ……ソロのつもりだったけど、折角会えたんだし……誘っちゃえ!
「そうなんですね……あの、今日もご一緒とか……」
「いいぜ」
また即決!いい人すぎかぁ!?
〈おおー!〉
〈突発コラボきちゃ!〉
〈黒崎さんフッ軽!〉
〈これを待ってた!〉
それ!フッ軽すぎる……!でもまたご一緒出来て嬉しい……♪
私の心がコメントと一体になったところで黒崎さんから質問される。
「そういや、一緒に行く時も1個前の階層クリアしないとダメなんだっけ?」
「あ、いえ。1人までなら攻略階層に関係なく入れますよ。パーティの恩恵ですね」
本来ソロなら階層を攻略しないと次の階層へは行けないロックがかかる。しかし1人までならパーティ内の上の人に合わせられるから問題無く入る事ができるのだ。
「それじゃあ行きましょうか」
「そうだな」
私達はギルドからダンジョンの入口に向かうのだった。すると、何やら人だかりが出来ていることに気がついた。
「なんだ?」
「なんでしょう?」
背伸びをしてその方角を見る。
〈なんだろ?〉
〈有名な配信者が居るとか?〉
〈背伸びかわいい〉
〈ちっちゃいw〉
「う、うるさい……!私の事はいいから、今何やってるのか気になるの!」
「肩車でもしようか?」
「うえぇっ!?さ、流石にそれはちょっと……!」
善意100%だろうけど突然の提案に変な声が出た……!
「そうか。でもなんだろうなアレ」
「少し近くで見てみましょうか」
2人で人だかりの方に近づいてみた。すると、信じられない光景が目に入って来た。
んん?んんん!?
そこには、人に囲まれた黒髪赤眼の黒衣の剣士が居た。私は横に居る黒崎さんと交互に見比べる。その姿には殆ど相違が無いように見えた。
〈黒崎さんが2人!?〉
〈え!?〉
〈どうなってんの!?〉
「きゃー!黒崎さん!」
「かっけぇ!」
「良ければサイン下さい!」
「いいよ。代わりと言っちゃなんだけど、何か攻略に役立ちそうなアイテム欲しいな。これから第3層に行こうとしてたから」
「もちろんです!」
観客に応対する黒崎と呼ばれる男。ど、どうなってるの……!?
「あいつも黒崎って言うのか。世界には同じような人が3人は居ると聞いたけど……」
「い、いやいやいや!そんな訳無いですよ多分!」
視線の先の黒崎さん?はファンからアイテムを受け取っている。
「はい、サイン。回復アイテムありがとな。かわい子ちゃん」
「かわい子ちゃん!?えと、あ、ありがとうございます……!」
ニヒルに笑い返し、サインを受け取った女子は赤くなりながら下がって行くのだった。
「黒崎さん!この前の幻のレアアイテム2つ見せてよ!」
「いや〜貴重な品だから今は持ってないよ。ごめんな?」
「ええ〜!」
「代わりにサインなら幾らでも」
「やったー!」
そんなこんなでサイン会が始まった。それはそれは楽しそうに……!
「ほら!聞きました!?絶対偽物です!皆を騙してるんです!」
「なるほど……おっ?ゆい?」
私は黒崎さんの手を引き、人だかりをかき分け、件の男の前に姿を現した。ギョッと顔を引き攣らせる男に向かって私は声を荒らげる。
「そこの!黒崎さんを騙って何してるの!」
〈ゆいちゃん!?〉
〈殴り込み!?〉
〈これはどうなる事やら……〉
黒崎さんの偽物なんて許さないんだから!
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