第10話 幻のアイテム

 別室での鑑定は続き、回復の秘薬が2つ出た。次で私のアイテムは最後だ。水晶のまま……という事はスキルストーンだろう。


「これは……! 『猟犬の魔弾』ですね!」

「強そうだな」

「ワンちゃん……?」


〈カッコイイ名前だ〉

〈ワンちゃんw〉

〈ワンちゃん呼び可愛いw〉


「い、いいでしょワンちゃんでも! あ、ごめんなさい……」

「いえ、構いませんよ。配信はリアクションが大事ですものね」


 そう言ってお姉さんに優しく微笑まれる。うぅ……ちょっと恥ずかしい……!


〈照れゆい可愛い〉

〈借りてきたポメラニアン〉

〈控えめに言って飼いたい〉


 みんな好き勝手言ってぇ……!


 そうして内心悶えているとお姉さんがスキルの説明をしてくれる。


「猟犬の魔弾は、文字通り魔力で出来た猟犬を放つスキルですね。敵を追尾してくれる優れもののようです」

「そうなんですね……今度使ってみよう……!」


〈絶対カッコイイやつやん〉

〈見れるの楽しみ!〉

〈猟犬使いのゆいちゃん……これはクール!〉


 確かにちょっとカッコイイかも……。


 そしていよいよ、黒崎さんの幻のアイテムだ。


「それではし、失礼します……」


 受付のお姉さんも流石に緊張しているようだ。無理も無い。9人しか持ってない超貴重なドロップアイテムだもんね。


 鑑定眼が水晶を覗く。水晶のまま黒いモヤが晴れる。


「これは……『|魔刃衝〈まじんしょう〉』ですね。剣から高威力の魔力の斬撃を放つスキルです」

「へぇ……!強そうだな……!」


〈名前かっけぇ!〉

〈絶対強い……!〉

〈斬撃を飛ばす!?聞いたこと無い!〉


「みんなも強そうって言ってます……! それに、黒崎さんは刀使いますしピッタリですね」

「ああ、初めてのスキルがまさかこれになるとは思わなかったけど」

「えっ? そうなんですか?」


 受付のお姉さんが驚く。そうだった。普通初めてのスキルは受付で渡されるもんね。スキル無しで戦ってボスも倒すとかハッキリ言って異常だもん。


 説明しても心底驚いているお姉さんなのであった。


「それでは、もう1つも見ますね」


 最後の水晶を覗き込むお姉さん。すると、黒いモヤが晴れて魔力が溢れ、それは大きな刀の形を成す。


「おっきい……」

「黒い……大刀か?」


 現れたのは、刀身が黒く拵が赤い身の丈程ある大刀だった。


〈でっっっ!〉

〈かっけぇぇぇ!〉

〈これが幻のアイテム!〉


 私と黒崎さん、視聴者のみんなはそれに目を輝かす。だが、お姉さんは怪訝な顔をして首を傾げる。


「なにこれ……名前が見えない?」

「えっ?」

「そうなのか?」


〈え?〉

〈見えない?〉

〈そんな事ある?〉


 鑑定眼はギルドの鑑定課の為に作られたスキル。数が少なく、スキルパレットが全て埋まってしまう特別なスキルストーンだ。その代わり鑑定眼は全てのアイテムの詳細を知る事が出来る。


 それなのに見えない? どういう事?


「えと、名前と詳細欄が黒く塗りつぶされているんです。何故か」

「これが特別なアイテムだからか?」

「どうなんでしょう……?」


 3人で首を傾げる。幾ら考えても、鑑定眼で覗き込んでもダメだった。


「お力になれず申し訳ございません」

「いえいえ。見るのも初めてのアイテムですし……取り敢えず武器って事は分かったのは良かったです。ありがとうございます」

「私の方もありがとうございました」


 感謝を述べて私達はアイテムをインベントリにしまう。すると、黒崎さんは何かを思いついたようだ。


「さっきの……ここで装備してみていいですか?」

「? ええ、構いませんよ」

「ありがとうございます」


 許可を得て黒崎さんは武器スキルストーンをセットする。すると、その背に大刀が装備される。黒い魔力のような帯で固定されている。


「武器はこうなるのか」

「普通は鞘とか出るんですけどね。やっぱり特別なのかも……」

「へぇ〜……あっ!」


 黒崎さんが口を開ける。何かあったのだろうか?


「どうしたんですか?」

「名前、それと詳細が見えた!」

「ええ!?」


〈マジ!?〉

〈どゆこと!?〉


 みんなしてそれに驚愕する。


「名前は……『黒獄こくごく』。固有スキル?が3つある。1つは墨染すみぞめ。凡ゆる情報をアイテム取得者以外に隠匿する。2つ目は重量軽減。使い手のみ重量を軽減して通常の刀程の重さになるみたいだ。そして3つ目の技巧投影。使い手の剣術の技量に応じて切れ味を上昇する……らしい」


〈すごっ!〉

〈どれも聞いた事ない効果!〉

〈こいつはすげぇぜぇ!〉


「レアな武器に固有スキルがあるって言うのは知ってたけど……3つも!?」


 私は武器の詳細に驚く。ていうか同接10万行ってる!?いつの間に!?


 また誰かが拡散したのかな……。10万人も見てるとか、嬉しいけど吐きそう……!


 あまりの数字の増加に狼狽えてしまう。


「あの、能力を隠すスキルですけど……今、10万人が見てて……」

「あ、そうなのか? まあいいだろ。別に隠すもんでも無いし」

「ええ……!? 結構重要そうですけど!?」


〈いいの!?〉

〈まあ言っちゃったし?〉

〈心が広すぎる〉


 まあ配信してる私が全面的に悪いんだけど……黒崎さんがいいならいっか。


「ダンジョンの敵には知られてないしさ」

「それはそうですけど……そっか、まだ知りませんでしたね。一応、ダンジョンの入口前広場で決闘を行う事があるんです」

「アイテムを賭けて勝負……とかですね!ギルドでも負けて悔しそうな人と勝ってホクホクな顔の人をよく見ます!」

「そうなのか……魔力体だから存分にやれるって事か」


 そう、魔力体が傷ついても生身は無事というのを利用し、血気盛んな人は決闘や訓練としてダンジョン前の広場で戦っている事がある。


 これもダンジョン配信の娯楽の1つとして親しまれてる。


「攻撃しても魔力体が傷つかない武器なんてのもあるので、興味があるなら試してみてくださいね」

「そうですか……鑑定した上に色々教えてくれてありがとうございます」

「いえいえ、幻のアイテムを鑑定出来ただけで今まで働いてきた甲斐が有りました! 寧ろありがとうございます!」


 そんなこんなで私達は鑑定を済ませてその場を後にするのだった。


「それじゃ、俺はもう行くよ。今日は誘ってくれてありがとな。ゆい」

「いえ、ご一緒出来て嬉しかったです……あっ、すみません。最後に配信を閉める挨拶だけしますね」

「おう、いいぜ」


 そうしてカメラに向き直る。


「みんなも応援やストチャしてくれてありがとね。今日はこれで終わるね。おつゆいゆい〜」


〈おつゆいゆい〜!〉

〈幻のアイテムとか伝説的な瞬間に立ち会えて良かった!〉

〈黒崎さんもありがとう!〉


「おつゆいゆい〜」

「黒崎さん!?」


〈草〉

〈ノリがいいw〉

〈最後まで面白すぎるw〉


 最後の最後でまさかの黒崎さんにぶっ込まれてしまった……!


 こうして今日のオチはついて配信は終わるのだった。そして今日の切り抜きがまたバズってしまうのであった。


 

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