第9話 アイテム鑑定

 ダンジョンの入口まで戻ってきた私達。そのままギルドに入る。するといつもより人だかりが出来ていた。


 なんだろう?もしかして誰か有名な人いるのかな?


「あっ!黒衣の剣士!」

「それとクーデレっ子!」


〈クーデレっ子!?〉

〈クーデレっ子?〉

〈ゆいちゃんの事?〉


 クーデレっ子!?てか私らを出待ちしてたの!?


 まさか有名な人が私達だったとは……いや、私は黒崎さんのおまけだと思うけど。


「第2層攻略おめでとう!見てたよ〜」

「黒崎さんカッコいい〜!」

「ゆいちゃんガチ美少女だ……!」

「てか無傷攻略すげぇ!」


 口々に私達を褒め称える人達……てか美少女て!そ、そんなにかぁ……?


「配信見てくれてるんだね……あ、ありがとう……」

「照れてるの可愛い〜!」

「この反応を待ってたんだーっ!」

「え、えぇ……!?」


 コメントでもそうだけど、いざ面と向かって言われると更に恥ずかしい……!嬉しいんだけどね!でも同じぐらい恥ずかしい……!


 すると、声を聞きつけた人達がどんどん集まってくる。やばい、このままじゃダンジョンへ押し込まれそうだ……!


「あ、あの……ちょっと、押し、強いっていうか……」


 あまりの人の多さと圧に陰キャ発動。声も張れなければ口も回らない。その間もどんどん人が増えちゃう……!絶対ギルドの人に怒られる!


 そう思った時、黒崎さんが1歩踏み出し私を庇うように前に出た。


「みんな悪い。わざわざ来てくれたのは嬉しいけど、アイテムの鑑定があるんだ。ダンジョンの攻略でちょっと疲れてるし。ごめんな?」

「あ、すみません。押しかけて……」

「ギルドの中で集まったら迷惑だしな……邪魔してごめんなさい!」

「ホントごめんな。ゆい、行こうか?」

「あ、えと……はい……」


 そう言って黒崎さんは私の手を握って開けられた道を歩いて行く。その手がおっきくて、温かくて……すごく安心する。


「あの、すみません。私が配信してるからこうなっちゃったのに……助けてくれて」

「全然いいさ。元はと言えば俺が配信に映りこんだのが原因でもあるし、みんなも話題の人に会えてテンション上がっちまったんだろ。寧ろ素直に言う事聞いてくれるいい子達じゃないか」

「そ、そうですね……!あの、ありがとう……ございました……」

「おう。んじゃ鑑定するか」

「はい……!」


〈やっぱ紳士やなぁ〉

〈黒崎さんいい人だ……〉

〈これは惚れる〉


 分かる。そういうとこやぞほんまぁ……はぁ、好きぃ……。


「あ、みんなのコメントもあんまり拾えてなくてごめんね?あと、配信してるけど、現地で見つけてもあんまり声かけるのはやめて欲しいな……緊張しちゃうし、配信に集中したいから……」


〈はーい〉

〈了解よ〉

〈¥5000 さっきは邪魔してごめんなさい!お詫びです〉


「お詫びだなんて……!気をつけてくれるだけでいいんだよ。ありがとね」


 人がいっぱいで緊張したけど、みんないい子達だ……。


 振り返ると人だかりもダンジョンへの入口から散ったようだ。


 ふぅ……何とか収まった……。私のファンが民度悪いなんて言われたら嫌だしね。


「しっかりしてるな」

「見てる人には楽しんで貰いたいけど、関係ない人には迷惑かけたくありませんから……」


 そう言いつつ直ぐに対処出来たのは黒崎さんのお陰だ。


 恥ずかしいから口に出さないが、不良っていうか、ワイルド系の見た目なのにこういう気遣いズルいよ……こんなの好きになっちゃうもん……。


 頬が熱くなる。力強く、頼りになる手の感触を思い出して自分の手を握ってしまう。


 そんな事をしながら鑑定課に並ぶ。暫くして私達の番になった。


「お2人はパーティでしょうか?」

「はい」

「えと、まあ、臨時ですけど……」

「では纏めて鑑定できますがどうします?」

「ゆいに任せるけど……どうする?」

「じゃあ一緒にお願いします」

「かしこまりました。それではここにアイテムを置いていただければ恐縮です」


 私は言われた通りインベントリから取り出したアイテムの水晶を置く。どれも黒く濁っており、中のアイテムが伺えない。その為の鑑定課だ。


 私が出し終わると今度は黒崎さんがインベントリからアイテムを取り出す。


「えーと……これとこれ、トロールとウィッカーマンの奴だな」


 取り出したのは青い水晶。私のモノと同様に中は黒く濁ってはいるが、私のモノとは違い表面が赤みがかっている。


「えっ?ど、えええぇぇぇっ!?」


 それを一目見た受付のお姉さんは悲鳴にも似た大声を上げる。その声に私もビックリしてしまった。黒崎さんは疑問符を頭に浮かべているようだった。


〈これってまさか……!?〉

〈嘘やろ!?〉

〈マジか!?〉


 コメントもざわめいている。な、なんなの……!?


「おいおい!幻のアイテムじゃねぇかそれ!?」


 後ろのおじさんが柵越しに覗き込んで言う。ていうかさっきの声で色んな人がこっち見てる!?


「えと、そんなに凄いんですか……?」

「凄いなんてもんじゃないさ!世界でも持ってる奴は8人しか居ないレア中のレアなドロップアイテムだぜ!?」

「ええ……!?」


〈そうそう!〉

〈ガチでレア中のレア!〉


 そ、そんな凄いものなの……!?


「あ、えーと……!失礼しました!アイテムお預かりしますが、別室で対応するので……あちらの衛兵の居る階段から2階へどうぞ……!こちらの札を見せれば通してくれます」

「あ、はい……」


 こうして私達は別室へ行くのだった。途中で振り返ると、私達が居なくなった受付前は今も賑わいを見せているのだった。


 別室。

 応接間と行った風な部屋だ。裏から来たのか、先程の受付のお姉さんが既に居た。


「先程はお見苦しい所をお見せし、お2人にご迷惑をおかけしてしまった事、誠に申し訳ありませんでした」

「い、いえ……私もビックリしましたし……」

「俺も。まさかそんな凄いものとは露知らず……驚かせてすみません」


 丁寧なお姉さんの謝罪を快く受け入れる。


「あ、配信してますけど大丈夫ですか?」

「はい、お2人がよろしいのであれば構いませんよ。鑑定もやる事は同じですから」

「そうですか……黒崎さんは……」

「問題ねぇよ」

「ならこのままで」


 そんなこんなで鑑定が始まる。ギルドの職員も魔力体になっているが、特注の鑑定眼というスキルストーンをセットしているらしい。


 瞳の色が変わり、その眼で水晶を覗き込む。まずは私の普通のアイテムから。普通と言っても鑑定が必要なアイテムもレアではあるのだが……。すると、黒いモヤが晴れ、アイテムが形を成す。


「これは治癒の秘薬ですね。ポーションよりも強力で、四肢を欠損した魔力体も再生する優れものです」

「へぇ……!凄いですね!」


〈おおー!〉

〈めっちゃ役立つアイテム!〉

〈逆に使い所に困りそう〉


 確かに……ゲームではすごい回復アイテムは残しガチだもんね。でも折角手に入れたし、使える時は使おう。


 そして鑑定は続くのであった。

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