第8話 VSウィッカーマン
フォレストダンジョン最奥にて、ボスであるウィッカーマンと退治する私と黒崎さん。
「『マナバレット』!」
一条の青い軌跡を描いて魔力弾はウィッカーマンの腕を抉る。暫くすれば再生されるが、それでも内蔵魔力は削れるし意識は逸らせる。
黒崎さんはツルと腕の攻撃を躱しまた懐に飛び込む。だがウィッカーマンも馬鹿では無い。その身を引いて距離を置く。そして空中の黒崎さんへ足を振り上げ踏み潰そうとする。
「はあっ!」
その足を蹴って後退し、踏み潰されるのを防いだ。相変わらずなんで空中でそんな身のこなしができるの……!?
〈あぶねっ!〉
〈あんだあの避け方!?〉
〈神回避すぎる……!〉
良かった。驚いてるのは私だけじゃなかった。そうしている間にリキャストタイムが終わり、また魔力弾を放つ。頭に直撃してまた魔力を漏らす。
「オオオオ!」
すると、突然ざわめくウィッカーマンを形作る木々。そして……その胸の木々を開いた。核の巨大な青い水晶が露出する。
「あれが核か……!飛び込む!援護頼む!」
「っ!待ってください!」
私は声を張り上げ引き止める。黒崎さんはそれを聞いて素直に足を止めてくれた。良かった……だって、この後のウィッカーマンの行動は知っているから。
ウィッカーマンは手で核を覆うと、魔力が溢れて赤く輝き出す。
「炎が来ます!直線!避けて!」
「分かった!」
指示をした瞬間、核が激しく燃え盛る。そしてその炎が私達に向かって放たれた。私は左に、黒崎さんは右に動く。
さっき迄居た場所を豪炎が通過し、焼け焦げた黒い木々の地面を残して行くのだった。
黒崎さんがその焦げた跡を飛び越えて私に合流する。後衛が無防備になるのは前衛としてはよろしくないからだ。
「あっつぅ〜……すげぇ熱だな」
「そうですね……でも、チャンスでもあります。核が露出するタイミングでもあるから……」
「確かに。発動後はすぐ引っ込んだから、発動前に接近だな」
「はい、そうしましょう!」
〈策考えるの早っ〉
〈いいパーティだ〉
褒められてる……うん、2人ならきっと倒せる……!倒してみせる!
私は俄然やる気を燃やしウィッカーマンへと立ち向かうのだった。
「オオオオッ!」
また独特の叫びをあげるウィッカーマン。すると地面から黒く太いツルが6本生えてくる。それらは独立して私達に襲いかかる。
2本は避けたが、もう1本は間に合わない……!思わず目をつぶってしまう。
「おっと……!大丈夫か!?」
「え?あっ、はい……!」
初めて会った時のようにお姫様抱っこされて助けられた。2回目だけど……これはちょっと恥ずかしい!嬉しいけど!
「ツルの射程より後退して下ろす。んで、遠距離から援護してくれ。1本ずつ潰す。いいか?」
「はい……!」
黒崎さんの作戦に同意する。私はある程度知識があるから余計に初見のツルは対応が遅れた……多分特殊個体固有の技。けど黒崎さんはちゃんと避けて、私を助ける余裕もあるんだ……。
しかも対応策も納得できるものをこんなに早く……頭の回転滑らかすぎない?
改めて彼の凄さを実感する。そうしている間に優しく下ろされる。
「じゃあ右の1番手前に生えてる奴な」
「分かりました……!」
指定されたツルにマナバレットを放つ。射程に魔力を少し振る必要があるので威力が落ちる。だが着弾箇所を抉る威力はあり、ツルの動きが鈍る。ウィッカーマン本体よりは弱いようだ。
その隙に黒崎さんは根元を斬り裂いた。
「次!1個奥!」
「はい!っ!危ない!」
黒崎さんにウィッカーマンの太い腕が振り下ろされる。それを回避するも、そこに周りのツルが迫る。刀で受け流し、ツルを蹴って他のツルの攻撃を回避した。
〈危なっ〉
〈アレでなんで無傷なんですかね?〉
〈ちょっとよく分かんない〉
うん、私も分かんないや。けど無事で良かった。
「そりゃ本体も攻撃してくるよな……っと!炎来るぞ!」
「はい!離れます!」
ウィッカーマンからまた炎が放たれる。素早く射線上から離れて難を逃れる。
「今の内だ!右の手前!」
「はい!」
ウィッカーマンが核を収容してる間に同じ要領で周りのツルを切り倒していく。それを繰り返し、何とか6本全てを倒した。後は本体のみ。
私はツルから退避する為離れていた。だから走って距離を詰める。そして数回攻防を繰り返した後、例のチャンスが訪れる。
「来た!炎の準備!行ってください!」
「おう!」
私はいつもより大きく前に踏み込んでから足を止め、黒崎さんはそのまま走る。
私の役割を果たす……!敵の防御を崩すんだ!
「『マナバレット』!」
射程を削り、威力と速度に魔力を集中させた弾丸が放たれる。それは核を覆った両手を砕く。核からは炎用の魔力が溢れ出す。
黒崎さんは複数のツルの猛攻を全て避け、地面を蹴って飛び出した。
もう彼を阻むモノは無い。
「天刃流……『叢雨』!」
繰り出された袈裟斬りは、激しく降る雨の如き勢いでウィッカーマンの核を真っ二つに斬り裂いた。
核がガラスのように弾け、魔力の青い粒子が舞う。そしてウィッカーマンを構成する木もまた、魔力となって消えていくのだった。
そして黒崎さんの近くにアイテムの格納された水晶を落とす。
私はそこに駆け寄る。
「やった!やりましたね!黒崎さん!」
「ああ!これもゆいの援護のお陰だ」
「い、いえ……特殊個体相手に無傷で済んだのも……黒崎さんの実力や作戦のお陰です。ありがとうございました」
「そうか?どういたしまして。でもゆいのウィッカーマンの知識とかあってのものだから、お互い様だぜ?」
「……そうですね。じゃあ2人の勝利、です!」
顔を合わせて微笑み、互いの活躍を称えて労い合う。
〈倒したああああ!〉
〈¥5000 ないすぅぅぅぅ!〉
〈¥10000 信じてた!〉
〈¥50000 すげえええええ!〉
「みんなも応援してくれたお陰だよ……!ってストチャいっぱい!?あ、ありがとう……!」
コメント欄はお祝いの言葉とストチャが送られ、色とりどりのそれが目まぐるしく流れる。
こ、こんな金額が送られるのも初めて……!怖い!怖いけどみんなの気持ちが伝わって……えへへ、嬉しい……!
〈¥20000 DXトレンド1位もおめでとう!〉
「え?トレンド1位?」
ウインドウを開きDX見てみると、私の実況ハッシュタグ#ゆいゆいストリームが日本で1位になっていた。
「あ、ありがとう……信じられないや……」
最早呆然となる。1週間前、初めてダンジョン入って四苦八苦してたのに……直近2日で凄いことになった……!
そうしていると黒崎さんが声をかけてくれた。
「ボスのアイテムは回収したから、ゆいは木の下のアイテム拾ったらどうだ?」
「あ、はい!そうします!」
黒崎さんに促され、光に照らされた木の元へ進む。そしてその根っこでできた穴から水晶を回収した。
「わっ!これも鑑定しないと分からないアイテムだ。どんなアイテムなんだろう……!」
「ほうほう?なら帰って見てもらうか。その後にアイテムの配分とかも決めよう」
「はい!そうしましょう!」
近くの転移陣に入り、私達はダンジョンから帰るのだった。胸に確かな充足感を抱いて……。
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