第7話 特殊個体

 引き続きフォレストダンジョンの奥へと進んでいく私と黒崎さんの2人。今はやや広い場所でトレントという黒い木の怪物を見つけて戦闘が始まった。


 トレントは大きさは木そのものであり、その幹におどろおどろしい顔のように見える穴がある。ゴブリンよりも低く、聞いてるだけで呪われそうな声には威圧感がある。


 そして全てLv10。種族としてもゴブリンより強い。


「援護任せた」

「はい!」


 黒崎さんが突撃する。私は後方からサポートだ。


「オオオオッ」


 木の枝がツルのように伸びて黒崎さんに襲いかかる。それを彼は刀を振るって切り落とす。だが近づかせまいと4体のトレントはその枝を伸ばして黒崎さんを足止めする。


 なら、私が!


 トレント達の側面になるように移動し杖を構える。魔力を先端に集めていく。そして溜まってから4つに分割、周囲に展開する。


「『マナバレット』!」


 そして4つの魔力弾は一斉に放たれる。気を取られてるいた木の怪物はそれに直撃して怯む。そのチャンスを逃す黒崎さんではない。


「せりゃ!」


 4つ、連続の剣閃を繰り出し全てのトレントを斬り裂いた。ガラスが砕けるようにその身が爆ぜる。青い魔力の粒子が舞い、水晶となって落ちた。


「やった!」


〈2人ともナイス!〉

〈突発のパーティとは思えない連携!〉

〈カッコイイ!〉


 コメントのみんなと一緒に喜ぶ。アイテムを回収しながら黒崎さんもこちらを見て微笑む。


 私、役に立ってる!みんなも楽しんでくれてる!


 その充実感が胸を埋めて心地いい。そしていつも通りドロップ品を確認する。


「この黒木くろきの根ってのは何に使うんだ?」

「合成ですね。ギルドの合成課に行って材料とお金でアイテムやスキルストーンになったりします」

「なるほど。じゃあ集めるか。半分ずつな」

「はい、ありがとうございます」


 戦闘後はこうしてアイテムを整理したりする。色々教えられるから楽しいし、黒崎さんは話をちゃんと聞いてくれるから教えがいがある。


 休憩をして進み、戦闘しては休憩してまた奥へ進む。これがダンジョンの探索。


 ダンジョンに入って1時間。

 遂に大広間に来た。その中は美しい大樹が1本生えており、天井からの柔らかな光を受けて佇んでいる。


「綺麗……」

「すごいな」


〈やば〉

〈幻想的だ……〉

〈こんなとこあるんだ〉


 その美しさに私も黒崎さんも視聴者も息を呑む。たまにこういうのが見れるのもダンジョンの醍醐味だ。そうやって眺めていると、木の根で出来た穴蔵に水晶があるのが見えた。


「見てくださいアレ……!きっとレアなアイテムですよ!」

「そうかもな。じゃあ調べてみるか」


 そうして私達はその木に向かって歩き出す。だが直後、不穏な木々のざわめきが聞こえた。


「なに……!?」

「ゆい、あれを……!」


 黒崎さんが指差す方向……美しい木の手前を見ると、地面の根をかき分けて黒い木の根が現れる。それは色んな場所から伸び、木の前で集まっていく。


 それは大きな人型の檻を形作った。


「オオオオッ!」


 人型の檻を構成する木々がざわめき、雄叫びのようにも聞こえる音を発する。私がそれを注視すると、ライブラリーアイによる情報開示が行われる。


 ウィッカーマンLv25


「これは……ウィッカーマンです!しかもLv25!?こんな浅い階層で!?」


 普通なら第4層に出てくるレベルだ。ボスはその階層でも一際強いが、先程のトレントに比べて15も高いのはおかしい。


「ウィッカーマンって書いてるな……ウィッカーマンってなんだ?」

「人を閉じ込めて焼き尽くすボスです!1回だけ配信で見た事あります!殴ったり木の根を伸ばして攻撃、体力が少なくなると炎を吐いたりします!」

「なるほど……そしてLvも高い。ならこいつがダンジョンの主でお宝の守り手って訳か」

「そうですね……」


 でも……なんだろう?名前が赤い?


〈特殊個体!?〉

〈裏ボス的な奴じゃん〉


 そのコメントを見て思い出す。ダンジョンには通常のボスの他、特殊個体と呼ばれる敵が居る事がある。そして正規のボスより断然強い。


「そうだった!特殊個体って言って、普段より強い敵です!注意してください!」

「前のトロールとかよりも断然強そうだしな。了解した」


 どれだけ強くても相手がボスならやる事は1つ。黒崎さんは刃を抜き放ち、私は杖を構える。


「協力して倒しましょう……!」

「おう!」


〈今回はウィッカーマンの特殊個体が相手!〉

〈黒崎さん、ゆいちゃんファイトー!〉

〈やったれ!〉


 滅多に見れない特殊個体との戦いに皆が興奮する。その声援を受けて私達は目の前の巨大な人形に立ち向かうのだった。


「援護頼んだ!」

「はい!」


 いつも通り黒崎さんが敵に向かって駆け出していく。私もまたその後方支援だ。やや側面に動き、杖をウィッカーマンに向ける。


 魔力を集め、3つに分割狙いを付けて射出した。それはウィッカーマンの大きな腕に当たる。しかし大して怯まず、ダメージは軽微だ。


「全然効いてない……!」


 ウィッカーマンは迫る黒崎さんへ腕を振り下ろした。それをヒラリと躱し、すり抜けざまに足を斬り裂いた。青い魔力が僅かに漏れる。だがその切り口から木の根が高速で伸びる。


「おっと」


 黒崎さんはそれを身を傾けて回避、一度後退する。私はそれをマナバレットを放って援護する。ダメージは大して無いが意識は少し逸らせる事ができた。


「大丈夫ですか!?」

「ああ、それよりアレを見てくれ」


 黒崎さんの視線の先には足が再生しているウィッカーマンの姿が見えた。


「回復……!?」

「ちょっと魔力が漏れたのは見えた……内蔵魔力ってのは減ってるんじゃねぇか?」

「っ!確かに……内蔵魔力を減らし切るか、再生できないぐらい破壊するか、核を壊せばどんなモンスターでも倒れます」

「核の場所は分かるか?」

「確か胸だったと思います」

「分かった。胸に攻撃だな」


 冷静に観察し、言葉を交わし、知識を総動員して方針を決める。そして再び攻撃に移る。再び距離を詰める黒崎さん。私もまた杖を構える。


「『マナバレット』!」


 魔力を集中し、放出する。今度は分割無しの大玉だ。胸を狙った攻撃だったが、ウィッカーマンが腕を盾にして遮られた。だがその腕は抉れる。


〈効いてる!〉

〈効いてるぞ!〉

〈いけるね!〉

〈がんばれ!〉


「うん……!」


 盛り上がりを見せる視聴者。確かな手応えを感じた私はもう1発放つ為リキャストタイムを待つ。


 その間に黒崎さんは足元まで接近する。ウィッカーマンは周囲の木の根を操りけしかけるが、それでは黒崎さんを止められない。


 ツルを躱し、或いは切り落とし接近する。腕の振り下ろしが来るが、それを飛び越えて胸に飛び込んだ。


「天刃流……『|天雷〈てんらい〉』!」


 縦に振り下ろされた刃はウィッカーマンの胸を斬り裂いた。魔力が大量に漏れる。


「やった!」


 私は思わずガッツポーズをする。しかしまだ終わりでは無かった。


 開いた胸からツルが蠢き、槍のように突き出した。黒崎さんは飛び退く事で難を逃れた。1歩遅ければ串刺しになってしまっただろう。


「核まで届かなかったか。思ったより分厚い胸板じゃねぇか」

「黒崎さんの刃でも……!?」

「でも切れたし魔力は結構削れたと思う。大体の厚さが分かるなら大丈夫。もっかい行くぞ」

「は、はい!」


 私は裏ボスの強さに驚愕するが、黒崎さんは相変わらず不敵に笑う。


 黒崎さんとの初めてのダンジョン攻略。そしてそのボスだもん。ならこれぐらいやってもらわないと歯応えがない……よね。


 みんなにも、黒崎さんにもいい所見せたい。だから……私ももっと頑張る!


 己を奮い立たせ、ウィッカーマンに立ち向かうのだった。

 

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