第6話 フォレストダンジョン
第2層のフォレストダンジョンへ来た私達。ビッシリと木の根が張り巡らされた通路を歩いていく。
黒崎さんが前、私がその少し後ろ。刀使いの前衛と魔法使いの後衛なのでこれがベストな陣形だ。
それにしても……石造りの道と違って凸凹していて歩きにくい。でも黒崎さんは問題無さそうに悠々と歩いていく。
「ゆい、大丈夫か?」
「っ!だ、大丈夫です!」
突然振り返り、名前を呼んで心配してれた。不意打ちのそれに驚きつつ返事をした。
ふぅ……名前呼び、嬉しいけどちょっと心臓に悪い。ううん、私が許可したんだから慣れないと……。
そう思いながら気持ちを落ち着かせ、また前を見て歩く。すると少し違和感に気がついた。
あれ?
黒崎さんの背中が大きく映る。いや、別に急に大きくなったとかではない。それはもう巨人化じゃん。
ああ、そうか。足並みを揃えてくれてるんだ。慣れない足元に気を取られてる私を見かねて、わざわざゆっくり歩いてくれてるんだ。
初めてあった日に抱えられた時も優しく下ろしてくれたし……凄い紳士的というか。気遣いに溢れてる。
「ありがとうございます。ゆっくり歩いてくれて……」
「あんま離れると危ないからな。これぐらいどうって事ねぇよ」
「いえ……黒崎さんみたいにサラっとできる人居ないと思いますよ?」
〈それな〉
〈あら紳士〉
〈これはポイント高い〉
視聴者のみんなも同意している。こっちに気を使わせないような返しもまたカッコイイんだよなぁ……。
って、ちゃんと集中しないと!今はダンジョン攻略中なんだから……!
見蕩れている自分を叱咤し気を引き締め直す。そしてまた1歩1歩フォレストダンジョンの通路を踏みしめるのであった。
数分道なりに進むと、前方の曲がり角の方から物音が聞こえてきた。それにいち早く彼は気がついていたようで、私より先に足を止めた。
「いるな……6匹ぐらいか?」
「分かるんですか?」
「まあ大体な。ライト消して奇襲……できるか?」
「えと、やった事ないです……」
「そっか。ならこのまま行こう。俺が前に出る。後ろから援護頼んだ」
「はい……!」
小声で方針を決めた私達。ゆっくり音の方に近づく。すると明かりで気がついたのか、ゴブリン達が通路を曲がって飛び出してきた。
ライブラリーアイで確認する。
ゴブリンのレベルは5〜10。武器は全員棍棒だ。
〈きた!〉
〈2人とも頑張れ!〉
〈ファイトー!〉
視聴者の応援を受けながら私達は身構える。そして走り寄る6体のゴブリンへ向かって黒崎さんは飛び出した。
「はあっ!」
刀を抜き放ち、その刃を振るう。すると一振で前に出ていた2匹のゴブリンが斬り伏せられる。
「『マナバレット』!」
私も杖から魔力を放出する。それは黒崎さんの脇をすり抜けゴブリンを射抜いた。これで3匹撃破。そう思った時には返す刃で黒崎さんは残り3匹の敵を斬り裂いていた。
ものの数秒で戦闘は終わってしまった。
「うし、もう居ないな」
「そうみたいですね。アイテムを回収しましょう」
アイテムボックスを起動して吸い取る。ポーション2つの後は少額のお金だけであった。
〈ナイス〜〉
〈はやっ〉
〈いいね〉
〈初めての連携様になってたよ〉
「連携出来てた?ならいいんだけど……」
「ああ、出来てたと思うぞ。弾も一発、狙いも正確だったから狭い通路でも躱さずに済んだし。いい腕とはんだんだ」
「あ、ありがとうございます……えへへ」
〈流石ゆいちゃん〉
〈やりますね〉
〈さすゆい〉
視聴者や黒崎さんに沢山褒められてついニヤけてしまう。でもまだダンジョン攻略は始まったばかりだ。
歩き出す黒崎さんの後を追いかける。
「それじゃまた進みま……んぶっ!」
すると、私は何かにつまづいて顔から地面に転けてしまった。
〈ゆいちゃん!?〉
〈転けたぁ!?〉
〈大丈夫?〉
「いてて、大丈夫……」
ちょっとした痛みより転んだ恥ずかしさが勝る。魔力体だから痛みが小さいしね。
そのまま顔を上げた瞬間、奥の壁のツルが外れ、弓矢の仕掛けが見えた。そしてそれは瞬時に矢を放つ。黒崎さんはこちらを向いたままだ。
危ない!そう言おうとして口を開いた瞬間、彼は振り返る。
「ハァッ!」
そして刀を振るった。矢が到達するよりも速く。すると複数の矢は勝手にその勢いを殺して地面に落ちるのだった。
「風圧で……!?」
〈嘘ぉ!?〉
〈なにっ〉
〈なんだぁ!?〉
刃を振り抜いた時の風圧で矢の勢いを殺したのだ。あまりの凄さに口を開ける。視聴者のみんなも驚いており、またコメント欄が高速で動いていた。
「罠か……大丈夫か?」
「大丈夫です……それより、すみません」
私は立ち上がり頭を下げる。
「いや、罠に気が付かなかったのは俺も同じだし怪我もしてないから大丈夫」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
なんでもないと言って柔らかく微笑み返してくれた。懐が広い……。彼のいい所をまた見せられて眩しく思う。そして……逆にちょっと自分が情けなく感じる。
〈落ち込んでる?〉
〈大丈夫か?〉
〈ミスは誰にでもあるよ〉
「みんな……ありがとね」
「フフッ……なんかいいな。そういうの」
「え?」
「前は俺、ゆいに会うまで1人でダンジョン入っただろ?その時はまあワクワクもしてたけど、ちょっと心細かったんだ。だから視聴者と一緒に居られるって心強いんだなって思ったんだよ」
そう言ってはにかむ黒崎さん。
ちょっと意外だった。強くてなんでも出来そうな彼がそんな風に思ってたなんて……。
「もちろん、今ゆいが居てくれるのも心強いぜ」
「そ、そうですか……私も、黒崎さんと一緒で心強い……です」
「んじゃお互い様だな。支え合ってこう」
「は、はい!」
えへへ♪私も頼りにされてる……嬉しい。
優しく言葉もかけてくれる上に、私の配信活動も肯定してくれる。そんな彼を更に好きになるのだった。
そうしていると広間に出た。天井も高く、四角い建物が多くて街並みのようにも見える。
「広いな……どこに向かったものやら」
「取り敢えず調べて見ましょうか」
辺りを少しづつ調べる。建物の中は何も無いが、偶にアイテムが落ちていた。
「あっ。これ防具のスキルストーンです」
「おお、いいな。装備したらどうだ?」
「折角なので……そうします」
スキルストーンをスキルパレットにセットする。すると私の体に魔力が集まりネックレスになる。
「魔除けのネックレス……魔法攻撃を軽減してくれるみたいですね」
「なるほど。御守りみたいなものね。面白い。それに、青い宝石か着いてて似合ってる」
「ほ、ほんとですか?嬉しい……♪」
似合ってる……似合ってるって言われちゃった……!
思わず小躍りしてしまいそうだ。だが実際にするのは恥ずかしいので行動には移さない。でもまた頬が緩んでしまう。ゆるゆるだ。
「結構散策したし、奥の方行ってみるか」
「はい!そうしましょう!」
〈嬉しそうでなにより〉
〈可愛いを超えた可愛い〉
〈GOGO〉
視聴者の言葉も慣れたものだ。これくらいじゃもう照れませんよーだ♪だけどまだダンジョンも半ばぐらいの筈。忙しいのはこれからだ。
だから有頂天の心を抑えて彼の後を着いていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます