第6話 憑霊:【雷獣】の概念霊
パソコンモニタだけが光源の暗い部屋であった。
モニタを眺め頭を掻く人物に、後ろから別の人物が話しかけた。
「進捗はどうだ?」
「あ~、七割から八割。ただ、これ以上は無理って言うか、やめた方がいいですね」
「ふむ?」
話を促された方は億劫そうに続ける。
「アプリの性能試験は完了。知名度を上げるってのも十分に伸びたと思いますがね。機関へのダメージはこれ以上は無理ですね」
「情報も抜けないか」
「前にも報告上げたでしょう?あのチーム。正確に言えばあの二人のガキ。アレに5割潰されてます」
「聞いてはいる。だが、参號級だろう?」
「そうですね。評価上はそうなってますし、実際に術評価もその程度なんですが、なんか妙に強いんですよ」
おそらく上司にあたるであろう人物は少し考えてから口を開いた。
「そういう霊奏師は時々いる。家格のせいで昇級できないとか、霊力以外の部分で強いとか。そういう類を意図して当ててきているということか」
「単に便利使いできる奴を使い倒してるだけじゃないですかね。まー、どういう経緯があるのか知りませんけども、このままだと削れもしないし情報が増えるとしても微々たるもんでしょう」
「そうだな……そろそろ新しい段階に入るか。使えそうな組織の選定に移れ」
「りょーかいしました」
面倒そうに、それでもモニタに向き直る部下を見下ろし、上司は黙り込んだ。
◆ ◆ ◆
霊奏学園は全寮制の学園である。全寮制である以上、各御家庭で作った弁当を子息に持たせるということもなく、自然と給食か食堂が必要になる。霊奏師は戦う職業であり、その訓練生である生徒も日々過酷な訓練を行っており、自然と育ち盛りの大食漢が多くなる。
そういった経緯もあり、日光霊奏学園は三つの食堂を用意して生徒の胃袋と対峙していた。
そのうちの第二食堂(通称2食)。その片隅を、三人はいつもの席としていた。
目立つ三人ではある。三人とも無官の家の出身。憑霊をもつ霊奏師。長身の美形、人相の悪い小男、痩せぎすの女児。それらが話すわけでもなく、食事やスマホの視聴などを勝手に行っていた。
周囲からの浮きっぷりは避けられているというよりも腫れもの扱いである。そういった腫れもの同士が集まって、何となくチームのようなものを作っている。少なくとも本人たちはそう認識していた。
「お前らがメイジマッシャーの後継者か」
「……誰だ、それ?」
オキルが振り返る。
見知らぬ少女であった。身長はややニレンより高いか。手足は長く、しなやかな筋肉が乗っているのが制服越しに見て取れる。外国人の血が入っているのか、肌は黒く。それを目立たせるように髪は短く刈り込んでいた。オキルの受けた印象は総じて『アスリートの類』であった。
さりげなくかき揚げ蕎麦の器を机に置き体ごと向き直る。ニレンも食事(アジフライ定食ご飯大盛り)の手を止めている。モトコはようやく自分たちが話しかけられたことに気が付いたようで今更動揺していた。
「とぼけるな、あの佐藤トーマの弟子だろう」
「オレは確かに佐藤師匠の弟子だけど、メイジマッシャーってのは初耳だ。つうかなんだそれ。資格か何かか。取ると給料増えるのか」
「ふ、自分の師がどう呼ばれていたかも知らんとはな……これは見込み違いか」
何か自分の中で結論を出している少女を見ながら、オキルはニレンに話を振る。
「ニレン、知ってた?」
「彼の玄妙なる賢者は自身を語らぬ……」
「佐藤先生の、教師になる前の仇名だよ。本人嫌ってるっぽくて言わないけど」
口をはさんだのはモトコだった。
「霊媒師との戦いで格上殺しを繰り返した、その功績で弐號級昇格。付いたあだ名が
「誉を秘するか……どうやら策謀の罠のようだな」
「本人に聞いたけど『仇名とかシンプルに恥ずかしいわ。不良漫画じゃねえんだぞ』って」
「え?師匠、自分の概念霊に仇名付けてんのに!?」
「あれは『佐藤』と『砂糖』で被るから仕方なくって言ってたけど……」
「うっそだろ、アレぜってー仕方なくとかじゃねえってノリノリだって」
「その心根には喜悦の調べが混じる……」
「貴様ら、私を無視して話をするな!」
親しい教師の陰口大会で盛り上がりかけてた三人に、少女は声を荒げる。しかし返ってきたのは面倒くさそうな冷淡な返答だった。
「無視してないだろ。むしろ要件があるならとっとと話せよ。昼休みは有限だぞ」
オキルの言う通り、オキルは一度も少女から目を離していなかった。
あらゆる挙動を見逃さないように。
「フン!!参號級如きが数だけは多い雑魚を叩きのめした程度で思い上がるなと警告しに来たのだ!!」
「ほう。戦乙女よ。さらなる調べを言祝げ」
「ニレン、ちょっと黙って聞いてやれ。慣れてない奴にお前の言動はキツイ」
「これが、
素直に引き下がるニレンを横目に、少女は苛立ちを隠さずに続ける。
「ふざけた男だ……。ともかく!!貴様らのような偶然霊力を拾ったような無官の連中が大きな顔をするな!!霊奏師とは由緒ある家が代々受け継ぐものだ!!」
宣言した少女の後ろに雷光を纏った獣の姿が現れた。
「次の任務には、この本物の霊奏師、立花クロユキと【雷獣】が出る!!まがい物は引っ込んでいるんだな!!」
『ライジュウウウウウ!!』
宣言を受けたオキルは「その声は、大丈夫なんか。いろいろと」と思いつつも目を逸らさずに答えた。
「任務だってんなら、報酬程度には働くさ。あんたの邪魔はしねえよ」
「フン、腑抜けが」
言いたいことを言い終わり去っていくクロユキが十分離れるまで、オキルは目を離さなかった。
ああいう手合いが意味もなく突発的に殴りかかってくることに、慣れ過ぎていたからだ。
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