第2話 すり替え

「車出して?」


 休日、リビングでゴロゴロしていたら妹に急に運転役を頼まれた。


「え!?」

「運転。免許持ってるでしょ?」

「あんたも免許もってるでしょ」


 運転とか言ってるけど、どうせ本音は荷物持ちでしょうに。


「ちょっと遠いのよ。それに荷物も多いし」


 ほら。荷物持ちだ。


「1人で買いに行きなさい」

「すでに買ってるの。あとは宅配便受付ロッカーへ取りに行くだけ」


 宅配便受付ロッカーはスーパーやドラッグストアに併設している宅配便のロッカーである。自宅で受け取りが出来ない場合などにロッカーへ宅配便を入れてもらい、あとで取りに行くというもの。


「それなら私は必要ないでしょ?」


 取りに行くだけなら私は必要ない。


「だから荷物が多いの」


 妹は手で荷物の量をアピールする。

 どんだけ買ったのよ。


「あら、外に行くのなら、ポン酢を買ってきてちょうだい。今日、安いのよ」


 母がスーパーのチラシをテーブルに置き、『一人一品、ポン酢268円』の箇所を指差す。


「今日、お鍋だから買ってきて」


 仕方ないので私は運転役をすることになった。

 妹が指示した宅配便受付ロッカーは遠かった。


「ねえ、近所にあるよね? どうしてここなの?」

「ちょっとね」


 そう言う、妹はサングラスに野球帽を被っている。

「その格好なに?」

「ご近所の方に見られたくないから」

「嘘つけ! こんなところにご近所もくそもねえだろ!」


 宅配便受付ロッカーから戻ってきた妹の手には2つのダンボール箱が。

 どれもそれほど大きくはない。


「次はここの宅配便受付ロッカーに」


 妹は後部座席に2つのダンボールを置いた後、運転席の私に言う。


「まだあるの?」

「うん」

「なんで同じところにしないの?」

「ロッカーが満室だったの」


 妹は目を逸らして言う。

 こいつ、嘘ついてるな。


 そして次の宅配便受付ロッカーのあるドラッグストアに向かう。


「はい。着いたよ」

「次はお姉ちゃんが取りに行ってくれない?」

「はあ? ふざけんな!」

「お願ーい。あとでマ◯ク奢るから」


 妹が可愛くお願いをしてくる。


「どうせそれもハ◯ピーセット狙いだろ!」

「ち、違うよ。昼マ◯クだよ。Lサイズにしてもいいからさ」

「仕方ないな。約束だからね」

「わーい。ありがとう。あっ、それとサングラスとキャップ被ってね」


 妹が私にキャップを被せ、サングラスを渡す。


「ご近所いないよ」

「念には念をね。これ暗証番号ね」


 暗証番号が記載されたページ画面のスマホを渡される。


「それと住所と名前が違うけど私のだから気にしないでね」

「えっ!?」

「ほら、早くしないと昼マ◯クの時間過ぎちゃうよ。スーパーにも寄らないといけないんだよ」


 私はサングラスをかけて宅配便受付ロッカーに向かう。


 暗所番号を入力して宅配便取り出す。

 妹の言う通り、宅配便の住所と名前は出鱈目だった。


  ◯


 宅配便受付ロッカーの後、スーパーに寄り、ポン酢を買った。その後はマ◯クに寄って私は昼マ◯クのビッグマ◯クのLセット、妹は親達の分と称してハ◯ピーセットを3つも注文した。

 やはりハ◯ピーセットのおもちゃ狙いじゃねえかよ。

 家に帰って、家族皆でマ◯クのセットを食べる。


  ◯


 妹が何を注文したのか気になったので、部屋を訪れた。


 妹の部屋は棚と収納ボックスばかり。そのどれもがウルcowやお店で買ったアクセばかり。


 テーブルの上には先程のダンボール箱が開けられていた。


「ちょっと! これ本物?」


 私はダンボール箱の中身を見て驚く。


「本物だよ。ほら証明書付き」


 宅配便受付ロッカーから取りに行ったダンボールの中身はブランド品だった。


「このブランド品は何?」

「ウルcowで買ったやつ」

「なんで買ったの?」


 すると妹は狡賢い顔つきになった。


「な、なによ?」

「わからない?」


 私は首を横に振る。


「初心者狩りよ」


 妹はニヤけた笑みをする。


「はあ?」


 初心者狩り?

 何それ?


「これ何かわかる?」


 妹はとあるバッグを私に向ける。


「それは……んん?」


 私はダンボールの中に入っているバッグを見る。


 同じだ!


「あんた、同じやつ買ったの? 馬鹿じゃないの?」


 すると妹は人を小馬鹿にしたような溜め息をつく。


「まだまだだね」

「何よ!」

「見分けもつかないわけ?」

「えっ?」

「これは偽物。で、こっちは本物」

「えーと……つまり、本物が欲しくて買ったってこと?」

「半分正解」

「もう半分は?」


 妹は偽物と本物をすり替える。


「わかる?」

「…………もしかして返品?」


 当たるなと願いつつも──。


「正解。すり替えて返品。本物は私の手に。そして偽物は出品者の手に」

「それ犯罪だから!」

「すり替え防止タグを付けてないのがいけないのよ」


 妹は意地悪い顔をする。


「そんなことしたら捕まるわよ!」

「大丈夫よ。捨て垢だし。それに住所も名前も出鱈目」

「あっ!?」


 それでダンボールの住所と名前が違ったのか。それに少し遠くの宅配便受付ロッカーに指定したのも、取りに行く時に帽子とサングラスもそういうわけか!


「まさかそれでブランド品を売るつもり?」

「ええ。そして私はすり替え防止タグを使うけどね」


 最低だ。

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