第1話 転生
引きこもりの妹が急に外出した。
そして戻ってきた時には全国展開しているファストファションブランドのロゴが入った袋を持っていた。
袋は全部で2つ。そのどれもがパンパンで、ゴミの日に出すゴミ袋みたいだった。
急な外出。急な買い物。
家族皆、変だと思わずにはいられなかった。
「こんなに買って、どうしたの?」
母が代表して聞いた。
「というかお金は?」
と、私は聞く。引きこもりがお金なんてあるはずがない。
「カードで買った」
「カード?」
「それ私のじゃないの。服を買うっていうからカードを渡したのに」
まさか母のクレジットカードだったとは。
「皆のも買っといた」
そう言って妹は袋を1つ開ける。
「これお父さんのパンツと靴下。これはお母さんのパジャマ。で、お姉ちゃんの服」
(? お姉ちゃん?)
妹は私を名前呼びする。それがお姉ちゃんだ?
その異変に気づいたのは私だけではないらしく親も気づいていた。
戸惑いつつも私達は妹が買ってきた衣服類を受け取る。
「もう1つの袋は?」
「そっちは私の」
私のにしては多くないか? それにポーチのようなものがたくさんうっすらと見えた。
だが、その場は誰も突っ込まなかった。
◯
その後、妹は日雇いの派遣をして、小金を稼いでは通販サイトやファストファション店で衣服やアクセサリー等を買った。
それは日増しに増していき、とうとう妹の部屋を埋め尽くし、今は一人暮らしして使われていない弟の部屋にまで侵食した。
「ちょっと、あんた、買いすぎよ! どうすんのこれ?」
「大丈夫。ちゃんと売るから」
「売る?」
なんと妹はウルcowというフリマアプリで買ったものを売り始めたのだ。
「売るんだったら買わなくていいじゃない」
「ただで売ってるわけではないから」
「それでも微々たるものでしょ?」
と、私が言うと妹はほくそ笑んだ。
「何?」
「これを見て」
妹が私に差し向けたのはスマホだった。
画面には商品の画像と値段が表示されている。
商品はポーチで値段は3000円。その商品名の隣りには赤文字で『sold out』と書かれている。
「もしかしてこれ、あんたが売ったやつ?」
「そう。500円で買ったやつ」
「えっ!?」
「すごいでしょ?」
確かに500円で買ったものが3000円で売れたのだ。それは素直にすごい。
「これさ、この前あんたがお母さんのクレジットカードで買った時のだよね?」
「あ、覚えてた。そうだよ。その時にいっぱい買ってね。それが全部売れたの」
妹は嬉々として言う。
「……へえ、すごいわね」
「でしょでしょ。それ以外にもいっぱい売れたの」
「で、あなた何者? 私の妹ではないわよね」
妹が急に感情を無くした顔つきになる。
「あの子は私をお姉ちゃんとは言わないのよ。それにクソ生意気で普段は私と決して目を合わせない子よ」
「あれ? そうだっけ?」
そう言って妹は首を傾げる。
その都合が悪くなるととぼける仕草は同じだった。
でも、何かが違う。
なんていうのか……その、オーラ的な?
「それに急に転売だなんて。そういう趣味はなかっだしょ?」
むしろ転売ヤーは嫌っていたはず。
妹は観念したように息を吐く。
「まあ、いっか。いつかは話そうかなと思ってたし」
「誰なの?」
「実は私、現代転生した日野富子なの」
妹はまっすぐとした目で答える。
その目には虚偽はないようだ。
けど、現代……転生した日野……富子?
「は?」
「戸惑うのは無理もないわ。私も記憶が戻ったときは現世の記憶と前世の記憶がごっちゃになりパニックなったわ」
「戸惑うではなくて、理解が出来ないの」
「バカなの?」
「殺すぞ! もう一回転生させるのぞ!」
「理解って何がよ?」
「だから現代転生って何よ?」
「異世界転生の現代版よ。私は500年以上前に生きていた日野富子の転生体よ」
妹は偉そうに説明する。
「まず日野富子って誰? 500年以上前というなら……鎌倉?」
「室町時代よ?」
「徳川のやつ?」
「それは江戸時代」
「豊臣?」
妹は大きく溜め息をつく。
失礼ね。私、歴史は苦手なの。
「もういい。足利よ。私は8代将軍足利義政の妻よ。義政は今でいう銀閣寺を建てた将軍よ」
「へえ」
「つまらない反応ね」
「金閣寺なら嬉しかった」
「はいはい。ま、そういうことだから」
「そういうことって言われてもね」
「信じない?」
「うーん?」
「仕方ない。本物だということ証明するわ」
妹は前世の記憶、そして室町時代のあれこれを語る。
「どう?」
「さっぱりわからない。私、歴史って苦手なの」
「なら転生ゆえにチートスキルがあるから、それを見せよう」
「へえ? 何?」
「次の
妹は手を広げる。
「この部屋にある買った物を1ヶ月以内売って見せましょう」
◯
妹が宣言した通り、部屋にあった物は全て売り切れて莫大な金を手にした。
「どうよ。すごいでしょ?」
鼻高々に妹は言う。
「すごいよ。やってることは最低だけど」
ということは本当に前世が日野富子なのか? ちょっとにわかに信じきれないが、今はそういうことにしておこう。
◯
あとで日野富子を調べてみたら大悪女じゃねえか。しかも守銭奴で室町の終わりの始まりを作った奴とかだし。
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