第4話 ずっと傍にいろ

ある日の朝、また僕は翔が化粧をしている姿に見とれていた。


「……」

「なに?そんなに気になる?」

「いや、女が化粧すんのと変わんねーんだなって」

「変わんないよ。結局元の顔に塗り重ねてくんだから。」

「…でも綺麗だな。」

「ありがとう。」


「おまえにはあってるよ。今の仕事。」

「うん。楽しいよ。」


翔は、自分の仕事に誇りを持ち、また楽しく過ごしている。


「…なぁかけ。」

「なに?」

「今日、駅で待ち合わせしない?」

「お誘い?」

「そう。」

「そのままホテル連れ込まれたりして。」

「連れ込まれたいか?」

「どっちかっていうと、凌太の腕引っ張って連れ込みたい。」

「今からでもいいぞ。」

「今はしない。あ・と・で。」

「はい…」


日々翔に飲み込まれていく。溶けていく…。







――――――――――――「翔!!」


仕事が終わって翔を駅で待っていた。



「凌太!!…」


ホームから出てくると、やつは駆け寄って来て僕に抱き着いた。


「おかえり…」


全身で翔の匂い、感触、息遣い…翔の全てを全身で感じ取っていた。


「かけ、お腹減ってないか?」

「減った。もうペコペコ。」


「……」

「なに?また僕に見とれてる?」

「ちょっと黙ってろ。」


もう周りの目なんて気にせずに翔にキスした。


「凌太、お腹減った!」

「分かった」


『おあづけ。先に飯を食わせろ。』そう言う意味だった。


そのまま翔の手を引いてよく行くご飯屋へ。

凄く落ち着いてて、静か。

僕らにとっても落ち着く空間。


「……」

「何食べる?」


僕はずっと翔の顔を見ていた。


「どうしたの?」

「…あ、いや、なんでもない。」

「…そういうこと。」


翔は長い足で僕に触れた。


「…ごめん。」

「そんなに僕を抱きたい?」


静かにうなづいた。


「あとで。今はご飯。」

「…わかった。」




――――――――――――――――――。


食べ終わって店を出て、物陰で直ぐにキスした。


「…凌太。そんなに僕が好き?」

「当たり前だろ。こんな綺麗なヤツどこにもいない。」


そう囁いて翔の首筋を指先で撫でると、

僕に抱き着いた。


「…不思議なんだ。私、体は男なはずなのに凌太といると女なんだ。でも体を変えたいわけじゃない。私はこのままでいい。」

「お前はそのままでいい。お前が生きやすい様にいればいい」

「ありがとう。」



「……」


僕はゆっくり翔の右腕を下ろして右の薬指に指輪を付けた。


「え?…」

翔は驚いていた。


「呼び方なんてなんでもいい。傍にいろ。このままずっと。」

「私でいいの?」

「お前がいい。翔がいい。」

「…ねぇ、私、最近考えてたことがあって。」

「なに?」

「名前を変えたい。」

「何に?」

「『かける』は『かける』でいいんだ。でもね。漢字をね、『架』にしたいんだ。『橋を架ける』の『架』ね。」

「いいじゃん。可愛い。」

「本当?」

「うん。可愛い。」

「ありがとう。」


この日は一緒に暮らし始めて丁度一ヶ月を迎えた日だった。


「かけ。」

「ん?なに。」

「今日で一ヶ月。お前がうちに来てくれて。」

「もうそんな経つんだね。」

「あっという間だぞ。一年なんて。」

「大事に過ごして行こう?」

「そうだな。」


僕は翔を抱き寄せた。


「かけ…俺、寂しかった。小さい頃からずっと。お前と会えない日が本当に寂しくてたまんなかった。」

「僕もだよ。凌太が居ないと不安だった。あの日、僕が高2の時、久しぶりにあの公園で凌太を見付けてもう絶対離したくないって思った。」

「…だからキスしたのか。」

「そうだよ?唾つけときたかったから。」

「思いっきりもらった。」

「…凌太が言うとなんかいやらしいんだけど。」

「…もっといやらしいことするか?」

「いいよ。」


―――――――――――――――。

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