第33話 秘境祭最終日
秘境祭の最終日となり、この世界を作った神シンラとその妻であった神イリスの神話を、俺達なりの解釈で描く演劇がブザーを鳴らしながら開幕した。
『何も無く、純白だった世界に1つの生命体が生まれた。
その者は灰色の髪に黒と白で左右で違う瞳を持っていた。
その者の名はシンラ』
ナレーションの言葉と共に、灰色の髪のウィッグを被った俺がステージに現れた。
「なんて寂しい空間なんだ。
何も無い…ここには俺一人だけ」
俺は、周りの光景を純白の何も無い場所だと信じ込み感情を込めていく。
『純白の世界でただ1人だったシンラは、その純白の世界を生き物と自然で溢れる美しい世界にしようと思い至る』
俺が手を前に伸ばすと、幕がおり、ステージが変わっていく。
『シンラの作った世界は、10の種族が存在し、緑に溢れ、海も流れる美しい世界であった』
幕が上がりステージの壁に世界と思われる球体が描かれていた。
『しかし、シンラ自身は純白の世界に囚われたままだった』
「俺の作った世界に、俺が入れないなんてな…
ハハッこんな虚しいことあるか?」
俺は、目から涙を流しながら美しい世界を見つめる。
『神は、理不尽に涙を流しながら、世界に訪れる災難や異変を出来る限り解決し、世界の維持に集中した。
その集中力は、何かを忘れようとしているようにも見えた。
しかし、世界は停滞する事は無くいつまでも進み続ける物で、いつしか世界はシンラの力を借りずとも困難を乗り越えられるようになっていった』
「この世界は、俺を必要ないと言うのか?
それならば、俺は何故産まれたんだ?
俺の存在の意味とはなんなのだ」
俺は絶望したような衰弱した顔をする。
『世界に絶望したシンラは、その壊れかけた心を少しでも楽にする為に、人形でも良いから自身と同じ空間に存在できる者を創り出した。
それこそが後に女神と呼ばれるイリスであった。
作られた存在であるイリスであったが、物としてではなく、しっかりとした生命体として産まれてきた』
リルが演じるイリスが登場し、俺を見つめる。
「あなたは?」
「…俺は、シンラ。
お前とあそこに見える世界を作った者だ」
俺は、初めてとも言える他人の肉体に触れる為、自身が生み出した目の前の少女の頬を触る。
『シンラは、生み出した少女に、イリスと名付け様々な事を話すことにした』
そこで再び幕がおり、ステージが変わっていく。
『シンラがイリスを生み出してから数十年が過ぎた頃、イリスのアイデアにより、自身の居る純白の空間を世界と同化することが出来るようになり、遂に求めていた世界の中へ来れたのだ』
「…俺がこれ程までに美しい世界を作ったというのか?」
俺は目の前に広がる美しい世界に、言葉が出なかった。
『そんな、シンラの元に様々な種族の代表が訪れた。
全ての者は、今降臨したこのお方が自身の創造主なのだと感覚だけで悟り、シンラの元へと集ったのだ。
そして、その者達は、シンラに絶対の忠誠を捧げ、それぞれの種族から選び抜かれた1部の者を集め、シンラを王とした国を作った。
その名も"共生国家アヴァロン"』
空に浮かび上がる国には、俺とイリスの他に10種族から1000人ずつ住むことになり、合計約1万程が住む国となった。
『シンラはイリスのおかげでこのような幸せな時間を送れていると気づき、アヴァロンが誕生してから100年の月日が経った頃にイリスと結婚する事を公表した』
俺とリルは、それぞれ衣装を変えて手を繋ぐ。
『しかし、そんな幸せなシンラに再び試練が舞い降りる』
「子供が出来ないだって!?」
「はい。申し訳ありませんマスター」
俺は、イリスの言葉にゆっくりと崩れ落ちる。
『子供を望んでいた二柱の神は、子供を作れない事実に絶望を感じていた。
そんな神をどうにか元気にしたいと考えた配下達は、様々な方法を考え、試す事にした。
そんな試行錯誤の中、1人の試した方法が暴発し、竜の形に似た化け物がアヴァロンを襲ったのだ』
「陛下!!化け物がアヴァロンへ襲いかかっているとのことです!」
イザナが衣装を着て、俺達に危険を知らせる。
「…俺が出ねば」
『シンラは、自身の子供とも言える存在を思い出し、絶望を振り払うと、アヴァロンに襲いかかる化け物を打ち払った。
その翌年…アヴァロンは、歓喜に包まれていた』
「皆よ、俺は昨日の化け物との戦いの際に気づいたことがあった。
それは、俺の子供は既に居たということだ。
その子供というのが、お前達レヴァントに住む10の種族の者達だ!
しかし、今回俺が願ったのはイリスとの子供だった。
故に、お前達を作った時のように俺とイリスの血を媒介にして産まれてきた、俺とイリスの子供を紹介する。
紹介しよう、俺の双子の兄のバンと妹のショウだ!」
俺は、赤子を抱えてそう宣言した。
『子供が生まれたシンラ達は、成長したバン達を見ると、10年の後姿を消した。
寿命という物があったのか、それとも隠れているだけなのか分かりかねますが、シンラ様もイリス様も我々を今も見守っているでしょう。』
そんなナレーションで演劇は終わり、俺達は頭を下げて見てくれたことへの感謝を伝え最終日は終わるのだった。
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