第25話 疑いの相棒
俺達は、侵攻を止めた祝いをする為に宴会を始めていた。
しかし、俺は食事はそこそこに終わらせ、1人高めの丘に座り空を眺めながらイズと話す事にした。
「俺は生まれ変わる前は平和な日本に居たただの学生だったはずだ。
なのに、この世界に来てからは、まるで戦い方を熟知しているかのように鬼に戦い方を教えたり、使ったことの無いスキルを元々使っていたかのように使いこなしたり、初めて命を奪ったはずなのに、後悔も虚しさも悲しみも気持ち悪さも感じない。
どうなっているんだ、俺は。
イズ……俺は、ミロクという生き物は誰だ?本当に俺なのか?」
俺がイズに聞くと、少しの静寂の後、イズが口を開いた。
《最初に言えるのは前世の学生だったマスターも、今のマスターも同一の存在でどちらもマスター本人です。
マスターの感じている違和感は、転生する際に、異世界に適応する為に神であるシンラ様がそのような設計で作ったからでしょう。
我々の世界では命を奪うのに抵抗があると、どれほど強い力を持っていても簡単に殺されたり、後悔をしてしまうので》
「…嘘は無いな?」
《……はい》
俺はイズの話を聞いて、嘘か確認するが、イズからの返事は淡白なものだった。
《マスター、これだけは信じてください。
私はマスターの味方です。
私はあなたを昔からずっとずっと愛しております》
イズの言葉の中に違和感が多少あるが、問い詰めても答えないと理解している俺は、頭を切り替えることにした。
「ミロク様」
俺が頭を切り替えようと思った時に、リル達が俺の後ろに立っていることに気づいた。
「この度は我々を助けてくださり、ありがとうございました。
もし、良ければ我々も配下の一員に加えさせて頂けませんでしょうか?」
ニアの言葉に俺は顔を俯かせる。
「俺は、お前達の族長を残酷な方法で殺したんだぞ。
恐れてはいないのか?
怖くはないのか?」
俺のそんな小さな呟きにニア達は頭を傾げる。
「あれは、私達を心配して怒ってくれていたんですよね?
それに、私達が出来るのであれば、あれよりも残酷に殺していました。
つまり、私の言いたいことは、あんな殺し方はこの世界にはありふれています。
それに、私達の為に手を下したのですから、恐れるはずがないです」
ニア達の真剣な瞳に嘘偽りないと突きつけられた俺は、少し安心したのか、悩みが無くなったように感じた。
「わかった。それなら俺の配下に加わってくれ」
俺がそう言うと、ニア達は跪き俺に頭を下げた。
「…イズ、お前が何を隠しているのか聞かないでおく。
お前にも事情があるんだろうし、話せないのなら気にしても仕方がない。
俺はお前を疑ったが、先程話した時に感じた敵では無いという俺の直感を信じる。
俺は、お前を疑わないよ」
俺はニア達が居なくなったのを確認すると、イズに向けて想いを素直に伝える。
《…ありがとうございます、マスター》
イズの感謝の言葉に少し微笑みながら、俺は自宅に戻る為に歩き出した。
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