第29話 田代通り~ジャンク街

さて、それはともかく。3人は田代通りへ。

「でもレノちゃん、

せっかく苦労して取ってきたのに捨てちゃうなんてもったいなくありません?」

チャーナちゃん、未練たらたら。

「いいの!…… あれ、きっと偽物だから。

だって、勇者にしか抜けない剣なのにチャーナちゃんが持っているのっておかしくネ?」

「そう言えばそうですケド……」


田代通り。 

”神太食堂” から ”じゃん2” までは今と変わらないが、

豚骨ラーメン屋の場所は1Fから全部 ”トレイ” のゲーセンだった。

そして、その先の角はバッタ屋さん。

角を左折して今はロイホの入り口があるあたりには ”顔“ と ”じゃん亭”。

この当時、 ”じゃん亭” が週末に行う ”ジャンク市” が毎回大盛況であった。 

”じゃん亭” のジャンクは動かないというのが定番にも関わらず、ジャンカーが

多く集ったのには訳がある。それは激安だったから。

メモリ、CPUや光学ドライブは ¥100、母板は ¥500ぐらい。

その他、PCパーツジャンクが溢れていた。

またそのジャンク市のやり方も独特で、店員さんがシートで蓋をしたコンテナを

20個ぐらい路上(車道)に置き、合図とともにシートを取り外すとまわりの

ジャンカー達が一斉にジャンクに群がるパターン。

週末の ”印旛” の開店時をもっと規模を大きくした感じ。

母板を取り合って綱引きすることはザラで、突き出た部品の足で指先を切り、

GETした母板が血染めになっていたこともあった。

正に肉体派ジャンカーの祭典であった。


3人は丁度、今、そのジャンク市が始まろうとする瞬間に遭遇した。

「ねぇ、路上に人だかり。みんなボックスを取り囲んで右往左往してるよ」

「ジャンク市が始まるんでごわすな…… 壮観な光景でごわす」

「眼を血走らせた野獣の様なおっさんの群れ…… 凄すぎます」


今まさにシートが取り外された!!! 動き出す野獣の群れ。

すると、突然!


「あっ! ごんすさんだ♪」


田代通りの方から、

ハイネの詩集を片手にセーラー服のごんすさんがジャンク市会場に乱入。


”バキボキ…… ボキボキボキボキボキ、バゴーーン”


足元のジャンクなど気にも留めないごんすさんは水かきの付いた大きな足で

それら全てを踏みにじって通過した。

見る見る内にジャンクからゴミに変貌するお宝の数々。

怒り心頭のジャンカーが、ごんすさんに抗議するが ”秋葉最恐女子高生” は聞く

耳を持たない。ジャンカーの一人が迂闊にも、

ごんすさんのセーラー服を掴んで引っ張ってしまったから、惨劇の幕が開く。


”グギャギャグゴグゴグゥオオオーーーン、ゲフンゲフン”


あたり一面に放射能火炎が放出され、逃げ惑うジャンカーたち……


「この当時から、ごんすさん、変わらないね♪」

「まさに秋葉最強のひとりでごわす」

「……いずれ…… 雌雄を決する時が…… 来るのね」


すると3人の背後から、秋葉最強のもうひとりが。

「ふぉっふぉっふぉっ、ごんす君は今日も元気じゃのぉ♪」

「あっ!秋葉翁!」


全身に ”肉” と描かれた秋葉翁が立っていた。


「いや、何…… 中央通りで、 ”日本刀を振り回す全身血塗れの不審者が出た” 

と聞いたので来てみたんじゃが……」


無理やり話題を逸らすレノちゃん。

「ねぇねぇねぇ!!

…… 何で、ごんすさんの事、知ってるのぉ? 優しく教えて(ハート)」

「いゃ。わしゃぁ秋葉の古参じゃから…… 

んでも、ごんす君はもっと昔からおったらしいがのぉ」

驚くジロゥ! 

 「それは初耳でごわす! ごんすさんって一体、何者なんでごわすか?」


秋葉翁は腕を組んで眼を閉じると。


「解らん…… 

じゃが昔、本人に聞いた話じゃが、何でも6600万年前から地球におるんじゃと」


ビックリ仰天! 確かに、あの容姿から只者では無いと感じてはいたが……


「それも凄いんでケド、秋葉翁、ごんすさんの言葉が解るんですか?」

ニンマリ笑って、

「そりゃぁ、わしのファンには女子高生も多いんでのぉ。

極自然と覚えてしまったんじゃ。人気者は辛いのぉ、ふぉっふぉっ」


それはともかく。


「それでのぉ。ごんす君の話じゃったが。

本人も良く解らないんじゃが、 ”胸にポッカリ空いた大きな穴を埋めるもの” 

を探して世界中を旅してると言っとったのぉ」


納得する思春期のレノちゃん。

「それでハイネの詩集を手放さないんですね…… 浪漫だわ♪恋する乙女の浪漫よ」

チャーナちゃん、突っ込む。

「労咳(ろうがい)ですか? それは難儀ですね。専門医にご相談してみれば」

激怒するレノちゃん。

「うら若き乙女の浪漫を理解できないチャーナちゃんこそ ”老害” じゃないの?」

「ぶわっはっはぁはぁはぁーーー!! おもろいのぉーーー」


”さて、あまり老人に付き合っていても仕方が無いのでこの辺でって、あっそうだ!”


「そう言えば、秋葉翁は秋葉の古参だから、もしかしたら知っているかも?」

「って、何じゃ?」

「マスタソードって何処にあるか知りません?」

「知らん…… じゃが!」

「じゃが?」

「聞いたことはある……

”ジャンク街のお寺と教会と、そして神田明神は何か重要な物を守っておる” と」

「ふ~ん…… やっぱり、ジャンク街ね。ジャンク街へGO!!ね♪」


3人は秋葉翁と別れ、再度ジャンク街を目指す。

ホコ天を横断して ”祖父2”、サ○ボを左に見つつお寺の前。 

「普通のお寺だけどね……」

そこからジャンク通りを北上。教会前の交差点。 

「ここも普通の教会ね……」


教会の対岸の角には ”面酢゛倶楽部”。小腹の空いたジロゥが吟味。  

「ここもラーメンより、もつ丼の方がうまかでごわす」

そう、ここの名物はもつ丼。

2010年同じ場所の2Fで、このもつ丼は今も食べられる。

その対岸の角には名前を失念したがジャンク屋。

ここは店頭のジャンク箱に、たま~にお宝があった。

なお、このビルの3Fについては ”不明” ……

交差点の左側少し入ったところ。

2010年には ”夫” のサーバ店があるところにあったのが ”メタ風船”。

ここの2Fには美味しいジャンクがかなりあったので巡回ルートだった。


3人はそこから更に北上。左側を見ると、

「あ~? QCもいいコネも無いね」

「エンターがあるばかりで、ちょっと寂しいでごわす」

「この時代、ジャンク通り北端はこんなもんなんですね……」


すると、突然!

そば屋 ”竹月庵” から出てきた甲冑の人。 「ここにも……無いよぉー!!」

「あ~、さっきのホウクウドさん(推定)」

「やぁ、君たつ、やっぱりまた、逢ったね♪」

「おそば、食べてたんですか?」

「いや、あの…… 食べたことは食べたんだけど……

ここのもりそばがメガ盛りなんで、

もしかしたら、もりの盛りの中にマスタソードの手懸りがあるかなぁ? なんて」

「で、どうだったでごわすか?」

「うん、美味しかった♪…… いや、ここにも無かった」


レノちゃん、さっきの秋葉翁のヒントを伝えると、

「う~ん…… お寺と教会と、神田明神かぁ……

でも、その3点で出来る三角形に囲まれているのは…… 黄色い公園だね」

「じゃぁ、黄色い公園に行ってみる?」

「いや、ブゥドォーがいるからね。先にマスタソードを手に入れなきゃ」

「そうね……」

「もう少し、探してみるか」

「でも、ジャンク通りはもうこれで最北端でしょ?」

すると、ホウクウド(推定)、 「まだ、あるよ。ついて来て!」


3人は一緒に北上。大通りに出ると左手を見て、 

「あのジョナサンの上にPC網があるよ」

驚く3人。 

「ほんとでごわす。あんなところにPC網があるでごわすか?」

「本当。PC網は秋葉の北西から南東に引っ越したのね」


1999年当時の ”PC網” はN○CのPC98シリーズのジャンク宝庫。

普通のDOS/V機は少なかったのであまり立ち寄ることは無かった。

しかしその後、今は無きミツウロコビルの4Fを経て ”秋淀” 前に引越したのだ。


ホウクウド(推定)は左折して、ジャンク通りの一本隣の道に入った。

「この道が ”真ジャンク通り”。色々なジャンク屋があるよ」

3人は言われるままついて行くと、

「ほんと…… ”FOPPER” に ”マクセス” に…… 

あれっ? ”Riボン” の場所に ”QC” があるよ♪」

「ほんとでごわす。こんな小さな店だったんでごわすな」


小さくても貴重な店。この当時、不治痛関係のパーツが手に入る店だった。

しかもたまに不治通製の超高級サーバ用母板がジャンク扱いで放出されたので

その筋のジャンカーは狂喜したものだ。


「この道のドン詰まりは、もう黄色い公園。

でも右側に、真ジャンク屋の ”退寮エレクチオン” があるよ」


この ”退寮”。最もジャンク屋らしいジャンク屋。

値段は決して安くは無いのだが、何があってもおかしくない店。

当時は ”退寮に無ければ ホウクウド の家を探せ。それでも無ければあきらめろ”

と言われていた程、さまざまなジャンクの種類と物量を誇っていた。

ホウクウド(推定)はここをマスタソードの手掛かりを聞く最後の砦と考えていた。


3人+ホウクウド(推定)は ”退寮” へ。  

「こんぬずわ! マスタソード、ある?」


忙しくジャンクを弄っていた店主は、重い腰を持ち上げると、

「よいしょっと…… え~と…… それは、確かこの辺に」


パッと顔をほころばせるホウクウド(推定)  

「あ! あるんだ。流石、退寮!」

しかし、振り向く店主。 

「ごめんね~♪ 売り切れみたい…… ”ロ○のつるぎ” じゃ駄目?」


うな垂れるホウクウド(推定)…… すると、朗報!

「あっ! これこれ…… 

“マスタソードの隠し場所” って書いてある古文書があるケド……いる?」


飛びつくレノちゃん!!  

「それ、それ! それが欲しかったのぉーー(ハート)…… おいくら?」

店主、古文書をレノちゃんに手渡すと、

「いやぁ~! 

可愛いお嬢ちゃんにねだられたら、おじさん、大サービスしちゃぅよぉ~

…… ¥58Kです(キリッ)」


顔色が変わるレノちゃん。低い声で、 

 「…… チャーナちゃん…… やっちゃっていいから」

「ラジャッ!」  

チャーナちゃん、すかさずミサイル攻撃! 爆発炎上する退寮


3人+ホウクウド(推定)は店を出て公園前

「いいの? こんな展開で?」

レノちゃん、キッパリ。 

「大丈夫、2010年にはこの店、無いから」


それはともかく。早速、古文書を広げてみると       


| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

| 厠       金玉          |

|         動物      遊具  |

|         水道          |

|黄色滑台 池               |

|銀杏  銀杏   銀杏   銀杏   銀杏|

|                     

|                     |

|*****           滝沢馬琴 |

|升田剣**                |

|*****___    _________|


「何と無く黄色い公園だって、わかるケド。 読みたくない文字が……」

「その文字がある場所は、今は電話BOXがある場所でごわす」

「…… ”滝沢馬琴” って……何?」

ホウクウド(推定)が、フォロー。

「実はこの黄色い公園は、江戸後期の有名作家”滝沢馬琴の住居跡”でもあるんだよ」


レノちゃん、ビックリ。

「じゃ、この古文書ってその有名作家が書いたの?」

「もしかすると、もしかするでごわすな」

「滝沢馬琴と言えば ”南総里美八犬伝” が有名だね。

不思議な玉を巡って繰り広げられる数奇なドラマって感じかな?」


すると、チャーナちゃんすかさず、  

「玉と言えば、この冒頭の……」

下ネタを制すレノちゃん。 

「それはともかく! 左下の升田剣ってマスタソードでしょ?」

「いかにも!で、ごわすな。

でも、ここに行くためにはブゥドォーの目の前を横切らなくてはいかんでごわすが」

ホウクウド(推定)、黄色い公園を見回し、

「奴は今、この古文書でいうと右側の銀杏の向こう側にいるね。

でも、昼間は大抵寝てるんだ」

「…… 銀杏の向こうっと」


「安全の為にジャンク通りを南下して遠回りした方が良かでごわす」

「ダンボールハウスはここで、ドラム缶はここ……」


「そうだね。ブゥドォーに気づかれると厄介だから」

「ここは、こうして…… あと、駐車場と畑と……」


「……って、チャーナちゃん、さっきから古文書の裏に、何、描いてるの??」


慌てて古文書を後ろに隠すチャーナちゃん。 

”オロオロ……”

容赦ない、レノちゃん。超スピードで廻りこんで古文書を取り上げると、


| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|   ̄ ̄ ̄ ̄| ̄   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|

| 便所  | 濃厚熟女 |        |

|_____| ラーメン |  子供部屋  |

|       ̄ ̄|   |        |

|黄色滑台 大浴場|台所 |ダンボールハウス|

|________|___|        |

| ***        |  /|\   

| *畑*   駐車場  |   ̄| ̄   |

| ***   リヤカー |  谷|茶   |

|ドラム缶        |__間|穴___|

|________   __________|


「な~に?…… これぇ?」

「…… しょ、将来設計です…… ポッ(ハート)」  

思わず顔を赤らめるチャーナちゃん。

「ふぅ~ん…… ”濃厚熟女ラーメン” って、な~に?」

「昨年の暮れに谷間さんに好評だった ”鳥皮とんこつ” の家系ラーメン屋を

開店する予定です」

「おいどんがマスターでごわす。wktk」

レノちゃん、古文書をくるくると丸めると懐にしまって、

「まぁ、それはそれとして…… ジャンク通りを南下するわよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る