第30話 魔神覚醒

3人とホウクウド(推定)はブゥドォーに気づかれぬ様にスタコラとジャンク通りを南下して黄色い公園南側に。

黄色い公園の銀杏並木は4人の足音を打ち消すような蝉時雨。


「ねぇ、ブゥドォー、いる?」

ホウクウド(推定)、指差し答える。 

「うん。あれがブゥドォー。 案の定、寝てるね」


指差す先には、うず高く積み上げられた破損PCの山。

一見すると単なる ”護美捨て場” の様な光景だが、良く見ると微かに波打っているのが見える。

「一日の大半は、ああやって寝てるんだけど…… 

時々、起きて人型に変形するんだ」


ブゥドォーを起こさないように慎重に黄色い公園の一角に辿り着くと、


「”升田剣” と書かれたあたりはこの辺だけど……

校歌が彫られた石碑があるだけで、剣が刺さっていないわよ」

すると、チャーナちゃん、 

「レノちゃん待って!!

あたし、この辺にドラム缶を置いてるんだけど、どこかに台座があるはず……

確か、この辺…… あっ、あった!!」


確かにそれは、公園の ”森の奥に隠された秘密の台座”。 

「良く来る黄色い公園に、こんなものがあったとは意外でごわす」


台座を調べていたホウクウド(推定)、何かを発見!

「ここに、古~い刻印があるよ。ちょっと、読んでみると……


”升田剣を求めし者。智慧と力と?気を合わせ三角を現せ。さすれば升田剣顕現す。赤き衣を纏いし時の勇者、自ずから剣を抜き放ち秘めたる御?玉にこれを突き刺せば

数多の奇跡の御技尽きる事なき湧水の如く溢るるものなり。

これ即ち得素得裸衣と申す。 聖魔融合の秘法なり。”


と、あるよ…… でも ? のところは欠けてて読めないケド」   

熟考するレノちゃん 

「なんか…… 微妙なんですケド」

「ちなみに ”南総里美八犬伝” では ”妖刀、村雨丸” というのが出てくるけど、 

”殺気を持って抜けば水気を生ず” とあるよ。なんか関係ありそう……」

「”得素得裸衣” ってどう読むんでごわすか?…… えすえらい??」


するとすかさずチャーナちゃん! 

「ピコーーン♪ わかりますた。二つ目の?マークは ”金” 」

下ネタ回避に情熱を捧げるレノちゃん。これを制して、

「ちょっと待って。最初は ”智慧と力と?気” を合わせる必要があるのよ。

これをクリアーしないと」

するとすかさずチャーナちゃん!

「”智慧” はレノちゃん。 ”力” はジロゥ。

残りのひとつは ”妖”気 のあたしじゃないかしら?」

レノちゃん、渋々。

「普通は、智慧と力と ”勇”気 なんですケド…… ま、いいか!

駄目元でやってみよ♪」


3人は石碑を囲んで互いに手に手をとって三角形に並んだ。

目を閉じ暫し念を送る……

すると、台座に陽炎の様なシルエットが浮かぶと徐々に実体化。

見る見るうちに、台座に突き刺さる ”黄金の剣” が一振り。


「うひゃぁーー!!! 本当に 升田剣が顕現したぁー!! ……君たつ、何者?」

驚くホウクウド(推定)。3人も驚愕。 

「やってはみるもんね」


「ホウクウド(推定)どん、早速引き抜くでごわす」

言われてホウクウド(推定)、升田剣の柄を握って力を込めて、

「おうりゃあーーー!!!…… 駄目みたい」

升田剣は微動だにしない。

 「どっかひっかかってるんじゃない? 古いから」


変わってジロゥ。 

「おいどんが力任せに引き抜いてみるでごわす! ぐぬぬ~!!」

渾身の力で引っ張ってみてもやはり同じ。

「勇者であるはずのホウクウド(推定)さんでも力任せのジロゥでも駄目。 

万事休すね。台座の刻印では ”赤き衣を纏いし時の勇者”ってあるから

何か条件があるのかも」

「ホウクウド(推定)どんは甲冑姿だから違うでごわすな」


チャーナちゃん、升田剣を手に取り切っ先を調べて、

「皆さん、この剣。別に引っかかるようなところはありませんよ」

縦横無尽に振り回してから再び台座に納めて、

「左程、重いものでも無いですケド…… どうして抜けないんですかねぇ?」


一同、腕を組んで熟考…… 

「チャーナちゃん?…… 今、何をしたの?」


問われてチャーナちゃん。再度、升田剣を手に取り、

「いや、こうしてちょっと抜いて調べてみたんですケド…… 

別に変なところは……」


一同、驚愕!!! 

「な~んんんでぇー?? チャーナちゃん、引き抜けるのぉーー??」


チャーナちゃん、団栗まなこを白黒  

「いや、これ、ズルッと抜けちゃって…… マズいっスカ?」

レノちゃん一同、夏の夜の夢の如く 

「チャーナちゃん?…… あなたって…… 一体、何者??」

返り血を浴びて緑のボロ服が赤く染まったチャーナちゃん、訳わかめ

「…… ごめん…… ちゃいな」


それはともかく。


さぁ、いよいよ本日のメインイベント 

”電脳魔神ブゥドォー VS 勇者ホウクウド(推定)” 

が、始まります。


3人は公園の特等席にレジャーシートを広げると早速、靴を揃えて座り込み。

世話好きなチャーナちゃん。

「あ!あたし、飲み物を買ってきます。何がいいかしら?」

「あたしー、プリンシェイクゥー♪」

「おいどんはビールとおでん缶がいいでごわす。

チャーナどん、この財布を持ってくでごわすよ」

「了解しますた」

財布を受け取ると、ピロロロっと空中浮遊。ジャンク街上空から自販機を探す。


しかしこの当時。ジャンク街周辺でビールを買うのは困難であった。

酒類の自販機が無かったからである。

勿論、コンビニなんて駅前ぐらいにしか無いので ”赤塚酒店” で買っていたのだ。でも土曜日曜は確か休みだった様な記憶。とにかく苦労した。

仕方が無いのでガード下の ”ハナムサ” まで足を伸ばしたが、

その途中で ”愛姫農協” のボンジュース¥80を買ったりした。


それでも何とか食材を揃えたチャーナちゃん。ピロロロっと黄色い公園に降下。

「まだ、バトルは始まってませんか?」

「大丈夫でごわっす。ホウクウド(推定)どんは戦の前の腹ごしらえと、

面酢゛倶楽部にもつ丼を食べに逝ってるでごわす」

「あら、良かった」

チャーナちゃんはそれぞれに飲み物を配る。自分はジロゥと同じビールとおでん缶。


ようやくホウクウド(推定)も戻ってきて、

「ねぇねぇ、もつ丼って豚バラの唐揚げものってるんだねぇ~!」


すると突然!

今までけたたましく鳴いていた蝉時雨がピタリと止んだ。

どこからか生暖かい風が ”ヒュゥ~ッ” と。 

どうやらブゥドォーが目を覚ました様子。

這いよるように集合するジャンクPCの山  

”ガチャガチャガチャ……”


静まり返ったあたりに響く物音。

”シャカシャカシャカ……” レノちゃんがプリンシェイクを振る音。

”プシャ♪グビグビ ゴキュゴキュ” ジロゥがビールを飲む音。

”プシャ♪ チャポチャポ…… ピュルッ!ポタッ…… ゲフンゲフン”

焦っておでん缶を開けたチャーナちゃんがハンペンを地面に落とした音。


高まる緊張。升田剣を手に身構えるホウクウド(推定)


不死の王…… ”電脳魔神ブゥドォー” …… 覚醒 ……


黒灰色のジャンクPCの瓦礫で形成された禍々しき人型は、体のあちらこちらから

ネジの頭やコンデンサなどが突出した痛々しく巨大な ”幼児” のかたち。

瞳の無い灰色の、のっぺりとした眼球の下には小さな鼻と真っ赤な舌が見え隠れする薄い唇。ふたつの大きな耳があどけない幼子の顔立ちを示している。

胎児の様に背を丸めて俯いていたその頭がいきなり ”グルリ” とこちらを向くと、


「…… 誰?…… また…… 僕のこと虐めに来たの?」


抑揚の無い乾いた電子音に底知れぬ不気味さを感じる一同。


「ブゥドゥー! 今日こそ、お前を破壊する!」

雄雄しく答えるホウクウド(推定)…… けど、ガクガクブルブル


横一文字に伸びた唇の両端が吊り上がるブゥドォー。

「…… 可笑しいよね…… 僕、最初から…… コワれテいルのに……」


ガクガクブルブルガタガタブルガタガクガクガクガクガク


”シャカシャカシャカ……” 「ジロゥ、あれロボットかな?」

”グビグビ ゴキュゴキュ” 「と、思うでごわすが……」

”……チャポチャポ……チャポチャポ……”

そんな事はお構いなく、竹串で懸命におでんの具を探るチャーナちゃん。


”プシャ♪ グビグビ♪” 「でも…… この時代にあんなの造れる?」

”グビグビ ゴキュゴキュ” 「人が造った物とは思えないでごわす」

手を止め、暫し考え込むレノちゃん。 


「……と、いうことは…… ”自然発生” したってわけ??」


すると突然。奮起一念!ホウクウド(推定)、青筋立てて言い放つ。

「秋葉を護るは勇者の使命!! 人心を惑わすお前を成敗する!!」

升田剣を真っ向に構え、屁っ放り腰でブゥドォー目掛けて突進する。


”ドドドドドドドドドドドドド、プリッ♪”


「さぁ、いよいよ開戦ね♪」 

プリンシェイクを握る手に力が入るレノちゃん。

チャーナちゃんも暫しおでんを探るのを止め注視する。


「あれ?ホウクウド(推定)さん、どうして変身しないんですかねぇ?」

「そういえばそうね…… 

いつもなら全裸になって、 ”**MAX!” とかいうのに…… 変ね」

「らしくないでごわすな」


そう、何故か正々堂々肉弾戦に挑むホウクウド(推定)

突っ込んでくる益田剣を見て微動だにしないブゥドォー


”うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーー!!”


激突!!! ”グァアアガガガガ~ンンン”

ホウクウド(推定)、会心の一撃! ブゥドォーの額が割れ、大きな亀裂が走る。


”ガンガンガンガガガッガガガガガ~ン!!”


ホウクウド(推定)の猛攻。火花を上げ飛び散るブゥドォーの電子部品。


「意外ね、効いてるわよ!」

「結果が判ってるだけにあまり早く終わるのはつまらんでごわすな」

「ブゥドォー、やられ放題ですね……」


”ヴヮッキッ! ズワシャ~!!”


左肩に深く食い込んだ升田剣はそのままブゥドォーの左腕を根元から切り落とした。


ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア / \ ア / \ ア

息があがるホウクウド(推定)。しかし、ブゥドォーのダメージは計り知れない。


一方的な猛攻で決着がつくかと思えた、その矢先……

満身創痍のブゥドォーは何事も無かった様に呟く。  

「……で?…… もう、終わりなの?」


すると突然。

全身の亀裂から黒い煙が滲み出る様に噴出すると見る見るうちに亀裂が塞がり

元の黒灰色の皮膚に復元した。更には左肩の切断部から噴出した煙は飴細工の様に

のたうつと新たな左腕を形作った。


「どう思うジロゥ?」

「あの再生能力はアリエンワでごわす」


確かにレノちゃんやジロゥの ”チェインジ” はパーツの配列パターンをAからBへ換えるだけ。いわば変身。ところがブゥドォーはジャンクPCを素材として新たな

左腕を復元している。これは生物の持つ再生能力である。


「と…… いうことは、

ロボットというよりは ”機械生命体” と、いうべきなのね?」

「そうでごわす…… 新たな種の誕生と捉えるべきでごわすな」


それはともかく、使い辛い竹串に四苦八苦のチャーナちゃん。

竹串を手の中でクルリと1回転。すると、竹串は割り箸に変化した。

ドヤ顔のチャーナちゃんを見てレノちゃん。 

「”奇怪生命体” ね」


すると突然。ホウクウド(推定)、升田剣を下段に構えると低い姿勢で力を溜める。

「こうなったら…… 必殺技で一気に破壊するしか無い! いくぞ!」  

大きく弧を描くようにゆっくりと、自らを中心として升田剣を回転。

”グルグルグルグルグルグル……” 

そう、これは ”回転斬り” だ。


”うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーー!!”

高速回転を伴ってブゥドォーに突撃!

しかし、これを見たブゥドォーは大きく右手を突き出すと、

「僕…… もう、飽きちゃったよ♪」

”ビヨヨヨヨヨ~ン” と伸びる右手がホウクウド(推定)の頭部を一撃。


軸心を失ってバランスを崩しながら右往左往。

そのままあらぬ方向へ迷走し、な~んと、銀杏の木の根元に激突。

「わぁああああああああああああーー!!」 ”ズガガガガーン”

気絶するホウクウド(推定)…… まるで、いいとこ無し。


「あれ? もう終わっちゃったの?」

「勇者がブゥドォーを退治する筋書きだったはずでごわすが?」

”パクパクモグモグ”  「おでん缶、おいし♪」

おでん缶にご満悦のチャーナちゃんを除くとあっけない幕切れに欲求不満のふたり。


「あっ、でも見て! ブゥドォーの指が伸びてる」

両手の10本の指が10本のUSBケーブルに変化。

スルスルと伸びていくとホウクウド(推定)の体に巻きつく。


「ウフフ…… 僕、まだ生まれたてだから何も知らないの……

だからおじさんの記憶をちょっとだけ貰うけど、いいかな?…… 

でも返事は聞かないよ」 

左右の灰色の眼球がスロットマシーンの様に回転する。


「ふ~ん、記憶を奪うってこういうことね。

どうやら気絶しているホウクウド(推定)さんから個人情報を抽出している様子よ」


”チーン♪” 眼球の回転が止まり、USBケーブルが引き戻される。

しかしブゥドォー、渋い表情。

「ウ~ン…… おじさんの記憶って……

何処で何を食ったら旨かったの不味かったのって、そんなのしか無いよ……

全然、役に立たないね。もう、こんなのいらないから消しちゃうよ…… プツン」

哀れ、削除された数時間分の記憶。


「ふぁああ~ああ…… つまんないから、僕もう寝ようかな……」

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