第27話 パーツ街
電気街口から中央通りを渡るとパーツ街。
しかし、その途中の左側ミツウロコビル4Fには、まだ ”PC網” は無かった。
5Fには ”テイクオブ”、隣のラディオ会館の5Fには ”第一点” があったが
今の3人は華麗にスルー。秋葉デパートの1Fを通り過ぎ外に出ると膨大な空き地。
ここが後のダイビルやUDXになるかと思うと感無量。
中央通りに向かう途中で何やら人だかり。
「何?? AKPのライブやってんの?」
人だかりの中央では小さな紙人形が踊っていた。
「あ!…… あたし、知っています。 ”ジョニー君” ですね」
そう、この当時秋葉のそこかしこで良く見た ”ジョニー君” 。
「でも、ジロゥ…… 感じる? この不快感……」 苦悶の表情のレノちゃん。
「そう言えば、さっきから嫌な感じがするでごわす。ここは早く通過するでごわす」
足早に通り過ぎる3人。
ジョニー君を操作する銀髪、痩身の老人が密かにその後ろ姿を一瞥したのには
誰も気づかなかった。
それはともかく。
中央通り ”セカ” 前の横断歩道を渡ると、右側に ”ラヂオデパート” 。
左側には、 ”カレチキ” と思いきやこの当時はバラエティショップがあった。
もちろん ”ケンダ” もまだ無い。 ”浜○” 前の交差点。先を見ると ”石○”。
横のゲーセン位置には ”サトヲムセン”。3人は右折して北上。
右側には ”第一点” の場所に ”祖父”。
左側の ”だる○の目” の場所には牛丼屋の ”どんど”。
ジロゥ、鋭く反応。
「ここに牛丼屋があるとは意外でごわす。では、一寸」
数分後。
「いやぁ、牛丼屋とは名ばかりで、
牛丼よりカツ丼の方がうまいとはビックリしたでごわす」
すると、レノちゃんご提案。
「あのさ、このパーツ街一帯は小さな店がギッシリ集まっているようだから、
デカいジロゥは不向きね。目の前の ”赤塚” でチャーナちゃんと一杯やってて。
あたし飲めないし。その後、 ”ザ・コン” で落ち合わない?
あたし、超スピードでこの辺見てくるから」
「了解でごわす。じゃ、チャーナどん一緒に」 昼間から ”赤塚” に入るふたり。
レノちゃんは持ち前の超スピード全開。左折して ”おら” の小道へ。
「あれ? ”おら” …… 無いわね。ネットワーク関係の店があるわ」
あたりを見回すと ”アキバサター” の場所に ”祖父6” が。
勿論、萌えギュンの店もケバブもまだ無い。
でも、萌えギュンの上の階に見知らぬ店、”TAHO” が。
実はこの店が下に下りてきて出来たのがたぶん ”おら” であったが、
”TAHO” の頃は新品、中古専門店。ジャンクを扱い出したのはケバブの前で
路上ジャンク市をやってから。
「ふーーん。 ”おら” が無ければ面白くないわね。次、逝こ」
レノちゃん後戻り。でも、 ”祖父6” の2Fには時々面白いものがあったのに……
もう一本、北の通り。
ここは今は ”秋〇” 、 ”戦国” 、 ”イオスシ” ぐらいしか無いのだが……
この当時はある意味、真のジャンク街。
両側を見渡してレノちゃん驚愕。
「わぁー! ”祖父” が2店もあるし、知らないお店が一杯あるわ、面白そうね」
まず、左側。
”祖父モバイル” の横の狭くて急勾配の階段を上ると左側に ”湘〇”。
右側にもジャンク屋。実は更にこの上の同人ショップでも稀にジャンクノートが
置いてあったことはあまり知られていない。
狭い ”湘〇” の店内を一周。この当時はアッパルの製品がメイン。
でも、高スペックのグラボのバルク品があったりした。
メモリとHDDが安いのは今も同じ。
この急階段の隣にも階段(後の ”猿テク” へ行く階段)があってその2、3Fにもジャンク屋があったのだが軽くスルー。
「正に穴場ショップって感じね。狭くて妖しくて素敵」
次、向かいの ”祖父5”。ここは中古専門なのであまり用が無かったのだが、
1Fの中古PCパーツや時々2F、3Fで出る珍品PC(ほほえみ君とか)があるので
巡回ルート。 「でも、 ”祖父” ばっかりあるわねぇ。 ”祖父” 乱立時代?」
次、隣の隣もまたまた ”祖父”。 ”祖父7”。ここはジャンクノートのメイン会場。
2010年の ”祖父2” と同じ様な位置付け。
店頭にはジャンク箱が並べられてバッテリなどを中心に小物ジャンク多数。
しかし、メインは店の最深部。
鰻の寝床の様に細長いこの店は奥に行くほどジャンク度がUP!
最深部のジャンク箱にはお宝満載。秋葉巡回のメインルートにしていますた。 「す、凄い!ジャンクノートが一杯あるわ。しかも結構安いし」
レノちゃん、しばしジャンク箱に付きっ切り。
でも時間が惜しいので次。
次は向かいの ”マックソロード”。
この店は中古GAME中心なのだが1FにはPCパーツコーナーがあってジャンクも
チラホラ。2,3FにもX68K本体や昔のPCパーツなどなど。
ここも必ず立ち寄る巡回ルート。
「GAMEが一杯あって凄ーーーい!
でも、 ”メッサセンオー” の手提げ袋に包んでくれるのが、ちょっと問題ね。
エロゲー買いに来たみたい」
次、向かいの ”あぷ” 。
ここも度々ジャンク祭り会場。DERRジャンクの聖地。良くお世話になりますた。
「ジャンク一杯ありそうなんだケド。入口に群がるおやじがキモいのでパス!」
レノちゃん ”秋〇” 横の通りを右折して ”ザ・コン” 前の大通りへ。
そこで右折。オーディオ関係の店の前を通って待ち合わせの ”ザ・コン”へ向かう。
一方、 ”赤塚” で飲むジロゥとチャーナちゃん。
赤塚名物の鳥モツ煮が絶品。思わず酒が進むふたり。
「あら、あたし…… 酔っちゃったみたい…… ポッ」
「チャーナどん、昼間から飲む酒は効くでごわすな」
千鳥足で店を出るふたり。
真っ直ぐ行けば ”ザ・コン” なのにふらふらと右折して中央通りへ出てしまうと、左側に小さなラーメン屋が。
「ここは ”松薬” でごわす。2010年にも残っている秋葉の老舗のラーメン屋でごわすが、何だか様子が違っていもうす。
チャーナどん、締めにラーメンでも食べもうすか?」
「あら、いいわね。食べますわ」
出てきたラーメンを食べてみると、
「おや、この麺が今と違っていもうすなぁ。何というかキシメンの様な平打ち麺。
澄んだ醤油スープに良く合うでごわす。うまか」
「そうね。ラーメンというか ”中華そば” と呼びたい優しい味ですね」
ポカポカと優しい気持ちに包まれて店を出るふたり。
中央通り沿いを北上してSARPの前を左折。
”ザ・コン” に向かうと、左側に ”和歌松”。
「おや、 ”和歌松” がこんなところにあるでごわす。
ここは後でレノちゃんと合流した後、立ち寄るでごわす」
そして ”ザ・コン” へ。
”ザ・コン” ……
2010年の今でこそ廃屋と化しているが、当時は秋葉を象徴するモニュメント。
他に高いビルが無かった秋葉の電気街のド真ん中にそびえ立つパソコンの殿堂。
昔は病院だったそうだが……
だがジャンカーにとって2Fのトイレぐらいしか利用価値が無かったのは今は秘密。
「あっ、レノちゃんがもう居ますわ」
ほろ酔い気分のチャーナちゃんは顔色が桜色。
ここでレノちゃん、ご提案。
「ねっ、ここで谷間さんに頼まれた例のEDOメモリ、サクッと買っちゃったら?
本格的にジャンク街に入る前に」
「それはいい考えね。善は急げって言うし……」
エスカレータで上の階へ。
「本当に1Fから最上階まで全部パソコン関係ばかりで圧巻でごわすなぁ」
「2010年は ”秋淀” があるけど当時はここに来れば大抵の物はGET出来た
そうよ。ただし、新品だけど」
3人はメモリを扱っている階に到着。
ソソクサとカウンターへ急ぐチャーナちゃん。
「あのぉ、ノート用のメモリが欲しいんですケド……」
若い女性とみて早速応対する店員。
「はいっ! どの様な仕様でしょうか?」
「え……と。 ” EDO128MB” です」
「はい。何枚、ご必要でしょうか?」
ちょっと考えてからチャーナちゃん。
”確か、谷間さん、あるだけ買ってって言ってたわ”
「あのー、あるだけください!」
店員、ガラスケースを調べて、
「今、ここにあるのは10枚程ですが」
すると、元気にチャーナちゃん!!!
「いいえ……
今、現在、世界に流通している ”ノート用EDO128MB” を全部ください。
キリッ!!」
仰け反る店員。
「お客さん、ご冗談を仰っては困ります。アハハ……」
すると、強い目力のチャーナちゃん。
「……本気です」
「マジっすか??
そりゃ、うちが本気になれば代理店を通して幾らでも手に入りますが、
それには時間と…… あと、膨大な費用がかかりますが?」
あくまでも強気なチャーナちゃん、豊満な胸元から小切手帳を取り出すと、
「これでお願いいたします……」 ”ドサッッ!”
ブ厚い小切手帳に圧倒された店員。
「わ…… 解りますた。では、何処にお届けすればよろしいでしょう?」
チャーナちゃん、豊満な胸元から一枚の名刺を取り出すと、
「全部、ここへ届けてくらさい」
” 谷間酒造株式会社 代表取締役 社長 谷間 増蔵(ましぐら)”
店員、内容を確認して、
「了解しますた……
でも、大丈夫ですか? 会社ひとつ軽くブッ飛ぶぐらいの額になると思いますが」
大きく胸を張るチャーナちゃん。
「安心してくらさい!…… 谷間さんは ”おおきんもち” れすから……
ウィー、ヒック♪」
窓際で景色を見ていた2人のもとへ堂々とした足取りで戻ってくるチャーナちゃん。
「終わった?」
「 ”完全に” 終わりますた…… ウィー、ヒック♪」
「じゃぁ、ここからの景色を見て……」
眼下に広がる1999年のジャンク街……
目の前の “乳部” は1F。同じビルの2F、3F、4Fは “夫”。
”ベルばら” は無く、日通と銀行。
“祖父本店” と “総合” の場所には “ヤマキワ”。
遠く見える “トンキ” のあるはずのところには “ぞねミナミ” 。
”黒99” の場所には ”ぞね” ……
「2010年と全然違うねぇーーー」
「いやはや、これは変わりすぎでごわすなぁ……」
変わって無いのは小学校とお寺と教会と黄色い公園だけ……
「栄枯盛衰、ただ春の夜の夢の如し と、言いますわね」
すると、そこへ恰幅のいいご老人が登場。
「ぶわっはっはぁ、面白いことを言っておるのぉ」
ビックリした3人。振り向くや否や。 「あ、あ…… 貴方は秋葉翁!!」
さっき迄、電気街口で全身黒塗りで踊っていた、秋葉翁であった。
「いかにも、秋葉翁じゃ……
先程から、そちらはまるで未来人の様なことを話しておるので、そこでちぃと
聞いておったのじゃ」
すかさずレノちゃんが答える。
「そうよ! あたしたち、2010年の未来から来たんだから(エヘン)」
おもいっきりドヤ顔全開。
すると、秋葉翁、大笑い!
「2010年とな? ぶわっはっはぁ……わしは、この世におらんかもしれんのぉ」
チャーナちゃん、説明。
「いいえ。ご健在です…… ボケて、たまに危篤状態ですが」
「ぶわっはっはぁはぁはぁーーー!! おもろいのぉーーー」
すっかり、打ち解けた3人と秋葉翁。
「して、何用で1999年のこの時代に来たんじゃ?」
「実は、昔の秋葉の街並みを見学しに来たんでごわす。
ついでに、 ”電脳魔神ブゥドォー” と当時の ”勇者” との戦いも……」
すると、突然。
今までの柔和な好々爺の顔つきが一変し、険しい王の苦悩を露にした。
「……うぅむ。ブゥドォーに関わってはいかん!! ”あれ” は危険じゃ……」
そう言うと、秋葉翁は黄色い公園を指差し、
「見るが良い。あの黄色い公園の上空に灰色の雲が浮かんでいるのを」
3人は指差す方を眺める。確かに暗雲が立ち込めている。
「あの下でブゥドォーは今も増殖を続けておるのじゃ」
好奇心旺盛。レノちゃんが尋ねる。
「ねぇ、 ”電脳魔神ブゥドォー” って、何?? 何者??」
斜め45°を見つめる秋葉翁。思い出す様にゆっくりと語り始める。
「そう、あれはいつの事じゃったか……
黄色い公園のそばにある、とあるジャンク屋が発端じゃった」
3人はごくりと生唾を飲み込み、その不思議な話に耳を傾けた。
「そこは目を覆うばかりに悲惨なジャンクPCを並べていたのじゃ。
あるものは上半身を無理やり剥ぎ取られたもの。
また、天板から底板まで串刺しになっているもの。
母板のそこかしこをドリルで穿孔されたもの。
水没、焼損したジャンクPC云々……
正にジャンクの墓場といってもおかしくないほどの店じゃった」
元々、ジャンクノートをシステムCOREに持つ3人は想像すると恐怖に身がすくむ思い……「ゴクリ…… そ、それで……」
「風の無い新月の夜。
たまたまその店の店主が深夜遅くまでPC修理をしていたところ……
店の奥のジャンクPCの溜まり場から…… 微かに……
”おんぎゃぁ、おんぎゃぁ” と、赤子の泣く様な声が聞こえたと言うのじゃ」
「ひぇぇぇえええええーーっ!!」
余りにも不気味な話にレノちゃんは逃げ腰。ジロゥも鳥肌。
しかし、ひとり冷静なチャーナちゃん。
「子泣〇爺ですね。黄色い公園では良く会います」
レノちゃん、突っ込む。
「チャーナちゃんの妖怪友達の話なんか今、関係無いでしょ。
今、話しているのはブゥドォーのことなんだから」
構わず続ける、秋葉翁。
「不審に思って店主がジャンクPCを見に行くと……
何と!…… それらが、一体となって ”ズリズリズリ” と動き出し、
店を出て黄色い公園の方に這っていったのじゃ……」
「そ、それが…… ”ブゥドォー”って訳??」
秋葉翁は頷くと、視線を黄色い公園に向けた。
「そう。
それは打ち捨てられたジャンクPCの怨念の為す業か、はたまた妖かしの所業かは
定かでは無い……
しかし、ブゥドォーは黄色い公園周辺に捨てられるジャンクPCや近隣の店の
ジャンクPCを引き寄せ、少しずつそれらを取り込みながら今も増殖を繰り返して
いるという訳じゃ」
「でも、それだったらただ ”不気味な存在” ってだけで無視しておけば
いいんじゃないの?」
レノちゃんが尋ねると、苦虫を噛み潰した表情の秋葉翁。
「いやぁ、そう言うわけにもいかんのじゃよ……
奴は黄色い公園に立ち寄った人を襲ってはその ”記憶” を奪っておるんじゃ!」
「き、記憶??…… 何のために?」
「解らん……
しかし、数時間程度の ”記憶” なので別に実害は無いのじゃが人を襲うようでは
放ってはおけん!」
すると、秋葉翁は、 ”じゃん本店” と ”ぞね”(今の黒99)の間を指差し、
「そこでの… あそこじゃ…… あそこを見なされ。
あの ”喫茶い○い” から降りる ”秋葉地下迷宮”。
そこでレベルを揚げた自称、 ”秋葉の守護神” を名乗る何人もの勇者達が
ブゥドォー討伐に向かったのじゃが……」
「どうだったの??」
「皆、ボロボロになって戻ってきた……
何でも、物理的に破壊しても瞬時に再生してしまう ”不死身の肉体” じゃとか……
まさに、 ”不死の王”。ノストラダムスの予言にある ”恐怖の大王” とはおそらく奴のことに間違いない……
そしていつしか、 ”電脳魔神ブゥドォー” と呼ばれるようになったのじゃ……
まぁ、名づけたのはわしじゃが」
3人は互いに顔を見合わせ、
「ふぅ~ん…… そんなに強い奴だったんだ」
「でも、ホウクウドさんの話では当時の勇者に倒されたって言ってたでごわすが?」
「この時代のホウクウドさんを探して聞いて見ればいいんじゃないですか?」
とりあえず ”ホウクウド” について聞いてみると、秋葉翁の答えは、
「そんなもんは知らん!
秋葉の守護神、勇者の中には ”ホウクウド” というものはおらんぞ」
首を傾げる3人。先を急ぐ3人は、秋葉翁に別れを告げるとザ・コンを降りて外へ。
「まぁ、ジャンク街をうろついていればいずれホウクウドさんには逢えるでしょ……
さぁ、いよいよジャンク通りを北上するわよ!」
するとジロゥ。
「レノどん。
ちょっとその前に横の地下松を見に行くでごわす。おいどんら、TinkoPATの聖地でごわす」
そう、この当時の ”地下松” では貴重なTinkoPATのパーツ類が販売されていた。
”地下松” オリジナルパーツもあったりして重宝していたのである。
3人は ”地下松” へ降りていくと、ガラスケース内を眺めて、
「まだ、この頃は240シリーズがメインね。あたし、s30は再来年よ」
「おいどん、X32はまだまだ先でごわすな」
「VAIBOは無いんですね……」
実は ”地下松” の対岸、
ジャンク通りの入り口の左側に位置するビルの2Fには ”超九電脳” があった。
ここはTinko PATのジャンクパーツを探すには重宝したのだが、いささか価格が
高かったのが難点。この店は名前を変えて別のところに移転。2010年にも現存している。
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