第26話 秋葉お買い物紀行
1999年7月、秋葉某所
”デンデンデンドロドロドロドロ……プゥオオオオオーーッ”
「ここは、何処??」
地獄の暗闇を抜けて、ひかり射す地上に出てきた3人。明るさに目が慣れてくると辺りを見回す。広々とした空間に様々な鉄道車両が立ち並ぶ風景。最初に気づいたのはジロゥ。
「ここは……交通博物館でごわす……なるほど。木を隠すには森の中でごわすな!」
「そうね。いきなり蒸気機関車が路上に出てきたのでは変。ここなら、自然ね」
レノちゃんも納得。
オロオロと火室から這い出るチャーナちゃん。
「立派なところですね」
3人はピョコタンと飛び降りる。
「ここは秋葉の最南端だからジャンク街まで北上ね。一応、言いだしっぺのあたしが仕切るからヨロ」 そう言うレノちゃんはリーダー孫悟空。
「じゃぁ、おいどんは道すがらこの時代の秋葉の食を堪能するでごわす。
楽しみでごわすな♪」 猪八戒のジロゥはグルメ担当。
「あたしは、戦闘力があるから皆さんのサポート兼ボディガード。……と、
谷間さんの買い物をしなくちゃ」しんがりを守るは河童の沙悟浄のチャーナちゃん。
変てこな3人の ”秋葉お買い物紀行” のはじまり……
すると、突然。
見覚えのある小学生女子がふたり。
キャピキャピとはしゃぎながら前方を通り過ぎる。
ひとりは、小学生とは思えない豊満な肉体を惜しみなく開放した服装。
もうひとりは、はちきれそうな胸を駅長スーツに無理やり押し込んだ服装。
良く見るとふたりは双子のアーリア系インド人女子。
「あ、あれは…… もしかしてもしかすると…… アンシーとナンシー♪」
そう、それは間違いなく、あのふたり、けれど幼い小学生。
どうやら交通博物館に遊びに来た様子。
もちろんレノちゃん達3人に気づく由もなし。
「お姉ちゃ~ん…… 待ってよォーーン♪」
キタ━━━━━━ !!!
やはり、来た!! 予想通り、ふたりの後からドタドタと走ってくる馬鹿そうな、
いや、純情素朴なあの方が。
天真爛漫。頬にピンクの渦巻きがある様な、ルーシー5歳(推定)。
チャーナちゃん、絶叫!「あ、兄貴ーーーー!!」
その声に鋭く反応するルーシー5歳(推定)。
ピタリと立ち止まると上目遣いで瞬きもせずこちらを見つめること30秒。
”ドタバタドタバタドタバタドタバタバタバタ……”
突然、駆け寄るルーシー5歳(推定)。内心ビビル、チャーナちゃん。
至近距離で食い入る様な視線でチャーナちゃんを見上げるルーシー5歳(推定)。
「可愛いお嬢ちゃん、 こんぬずわ…… お名前はなんての?」
チャーナちゃんが尋ねると、抜けるような声で元気溌剌!
「かっぱのおばぁあさん! コンニチワ! ”ルーシー” ♪ デース」
キタ━━━━━━ !!! ルーシー5歳(確定)
「お嬢ちゃん、小学生?」
力強く否定。 「いいえ! 来年の春に入学しマス♪」
キタ━━━━━━ !!! ”まだ、間に合う”
チャーナちゃんすかさず、
近くにあったパンフレットの白ページを破ると大きな文字で、
アンシー
ナンシー
ルーシー
と、書く。それをルーシーに手渡すと、
「いい?…… よく、聞いてね……
入学式の次にクラスメートの皆さんに自己紹介する時」
澄み切った瞳を大きく見開き、一心不乱に聞き入るルーシー。
「黒板に自分の名前を、こういう風に書いちゃ、絶対!駄目!!
いい、絶対!駄目よ!!」
大きくうなずくルーシー。それを見てちょっと安心、チャーナちゃん。
「いい?……
これ、一番上がお姉ちゃんの ”アンシー”。 次が ”ナンシー”。
最後がお嬢ちゃんの ”ルーシー” …… 解った?
大事なことだから2回、言うけど。絶対にこう書いちゃ駄目だからね!!
あと、 ”ア” と ”ナ” と ”ル” は、はっきり大きく書いたら駄目!!」
何度もうなずくルーシー。 もう、これで大丈夫
「河童のお姉さんと、約束よ。忘れないでね♪」
ルーシー右手を挙げて、
「はーーーーーい♪
かっぱのおばぁあさん、大事なことを教えてくれて、アリガトォ♪」
良い子全開で大きくお辞儀。
すると、お姉ちゃん達が、 「ルー!!何してんのぉー。 次、行くよーーー」
ルーシー、しっかりとパンフレットの白ページを握り締め、
「お姉ちゃんが呼んでるんで戻りマス。かっぱのおばぁあさん、サヨーナラ♪」
振り返り駆けていくルーシーの後姿を見ながら、安堵に浸るチャーナちゃん。
手を振りながら涙ぐむ。
「……これで、いいのよ、これで…… きっと、未来を救えたはず」
駆けながらルーシー、心の中で。
”……そうか、あたしの名前ってこう書くのね……
まだ、カタカナ覚えてないから知らなかった……ヨシ!一杯一杯、練習しよっと♪”
次の日からルーシーのお絵かきボードには、何度も何度もこう描かれた。
アンシー
ナンシー
ルーシー
その様子を傍らで見ていたレノちゃんとジロゥ。
「チャーナちゃん…… 何か余計なこと、してない?」
「過去に介入するのはまずいでごわす」
去っていくルーシーの姿から視線をはずさず。
「でも、兄貴の未来があまりにも不憫なので」
さて、
5時間というタイムリミットがあるので、気を取り直して先を急ぐ3人。
「さっ、次よ、次!!」
交通博物館を出て万世橋方面に向かう。
「肉ビルはあいも変わらずでごわすな」
「ジロゥ、ここは高級だからパスするわ」
「仕方ないでごわす」
3人は万世橋を渡ると交差点に達した。昌平橋方向を見ると、 ”米軍基地”。
昭和通り方向を見ると遠くに ”味の六花選”。
食欲の権化、ジロゥのセンサーが妙な店を発見。
「六花選が閉店したのは、2009年だから良く知っているでごわすが………
あそこに知らない店があるでごわす」
「じゃ、逝ってみる?」
交差点を右折。ガード下へ。
実はこのガード下には、当時メモリが安い外人さんのジャンク屋があったのだが、
今の3人は、 ”謎の店” に気を取られてスルー。
「 ”龍世” っていう焼肉屋ですね…… いい臭いがしますよ」
グルメ担当のジロゥが単身、乗り込む。数分後出てきて、
「いやぁ、うまかでごわす。 ”カルビ丼” ¥380 にスープバーとサラダバーを
つけても ¥500 そこそこ。2010年には無くなっているのが実に残念!」
「昔の秋葉にもおいしいお店があったのね…… じゃ、次ね♪」
更に昭和通り方面に歩くと、
「あっ、ホテルの前に、ケバブワゴンがあるでごわす。当時はこんなところで
やってたでごわすな」
「ケバブは2010年でも食べられるから却下」
更に逝くと、
「あれ?? ”秋淀” へ抜ける道が無いよ?…… もちろん、”秋淀” も無いし」
「この時代の昭和通り方面は閑散としていますね。戻りましょうか?」
「戻って、電気街口に逝くでごわす」
戻って右折。電気街口に到着。
「あれーーーーーっ??? 冥土さんがひとりも居ない風景??」
そう。この頃はまだ冥土さんも絵売りアンもまだ不在。
駅前は秋葉翁で盛り上がっていた。
「 ”秋葉デパート” には旨そうな店が満載でごわすな」
「ジロゥ、探索してきていいわよ!
あたしとチャーナちゃんは、秋葉翁を見てるから」
意気揚々と秋葉デパートを探索。
一階のド真ん中に丼屋さんハケーーン!
” ”伊ロ波” でごわすな。ドレドレ。カツ丼(¥480)と キジ丼(¥580)(その後、トリ丼に改名)が旨そうでごわすな。両方、食べるでごわす。モグモグ。カツ丼のタレは完璧でごわす。キジ丼は本当は醤油のみ(生地)で焼いたとり肉丼
でごわすがこれは唐揚げ丼でごわす。でも、チョット辛目のタレが食欲をそそりもうす。両方とも短時間で食べられる様、味噌汁なしでごわすが、タクワン2切れが
ついて嬉しかでごわす。 うまか!!!”
完食したジロゥは、次から次へと食べ歩き。
”ここの激辛カレーは本当に辛いでごわす。
更にハバネロソースの大瓶がカウンターに常備されているのが嬉しいでごわすな。”
”ここの お好み と タコ焼き と 焼きそば は独特でごわすな。
ソースが泥ソースの様に濃厚”
”この 2色ソフトクリーム¥190 は絶品!!! 夏場の定番でごわす”
更にチョット外に出て、
”この緑色のチャーハン(¥680)も,うまかでごわす。もやしそば(¥390)も中々。 ”ミスターtin” でごわすな”
また中に入って2Fに上がると。
”2Fにも食堂があるでごわすが、食料品のお店もあるでごわす。
秋葉デパートだから当然でごわすな。さて、戻るでごわす”
電気街口に戻ると、レノちゃんご機嫌斜め。目の前には真っ黒に塗られた秋葉翁。
「遅いわよ、ジロゥ!食べすぎよ。
待ってる間に秋葉翁に落書きしてたらこんなになっちゃったわ」
「すまんでごわす……
1Fには、うまかものが一杯で。2Fから上は食料品店などのデパートでごわした」
すると、突然!
チャーナちゃんの目が輝くと。
「そう言えば、谷間さんに頼まれていたもの…… 確か、 ”穢土村さ来” ??」
慌てて受け取ったメモ書きを探すが見つからない。
「あーー! 置いてきたセーラー(夏服)に入れっぱだった……
ついでに、財布も」
慌てるチャーナちゃん。オロオロしても仕方が無い。
意を決して秋葉デパートに突入!
「あ、チャーナちゃん! お金だったらおいどんが立替えてあげもうすのに……」
聞く耳も持たず一路、2Fの食料品店へ。
…… 数分後、2Fの窓ガラスを破って外に飛び出すチャーナちゃん
”パリーーーン♪……ゴロゴロゴロ”
胸に何か小さな物を抱えているご様子。
すると、1Fの出口からおっさんが飛び出すと、
「ゴラァ! 万引きするたぁ、ふてぇ野郎だぁ。取っつかまえて荒川に流すぞぉー」
絶対絶命!!!チャーナちゃんが捕まってしまう。
すると、突然。
キョどる3人の横を、一台の ”真っ赤なカマロ” が風の様に横切る!
”ブロロロロロロロ!!! キ、キ、キキキキィイイイーー!!! バタン!”
”アルマーニの背広” を軽やかに着込み、
髪をオールバックに決めた ”ナイスガイ” が登場!
「君たつ、いたいけなご婦人に手荒なまねは止めたまえともうす!!!」
道端に転がるチャーナちゃんに優しく手を差し伸べる、その顔は……
な、なんと!!
「た、た、た、た…… 谷間すゎーーん????」
「大丈びですか? 河童で巨乳のお姉さん♪」
ニッコリ笑った笑顔に、 ”ダイアモンドの様な白い歯” が輝く。
何ということだろうか?
チャーナちゃんのピンチをこの時代の ”谷間さん(推定)” が助けてくれるのか。
差し伸べられたその手を握り締める際、
チャーナちゃんの豊満な胸の谷間から ”穢土村さ来” が転がり落ちる。
”ゴト!……コロコロコロコロ……”
谷間さん(推定)は、もう一方の手でそれを拾い上げるとチャーナちゃんに手渡し、
「はい…… これは大事な物でせう。無くさないでくらさい♪」
「はい……(ハート)」
すると、谷間さん(推定)。
懐から分厚い小切手帳を取り出して、おっさんの目の前にそれを一枚破り捨てると、
「さ、拾いたまえ。好きな額を書いてたもれ!!」
おっさんは、いそいそと拾い上げると風の様に去っていった。 「毎度ォーーー」
3人を包む感動の嵐。
目前のあまりにも爽やかな谷間さん(推定)の姿に、
日夜ダンボール収集に明け暮れる未来の谷間さんの姿がとても重ならない。
チャーナちゃん、恐る恐る尋ねる。
「た、谷間…… 谷間さんですよね?? 本物の」
すると、谷間さん(推定)。胸元から ”ゴールドの名刺入れ” を取り出し、
「申し遅れ申しますた。こういう者であるます」
”谷間酒造株式会社 代表取締役 社長 谷間 増蔵(ましぐら)”
キタワァ 谷間さん(確定)!!!!!
しかも、 「シャ、シャ、シャ…… シャッチョ~サン♪」
キョどるチャーナちゃんに仰け反るレノちゃんとジロゥ。
「谷間さん、社長でごわしたか?? びっくりしたかーでごわす」
「公園暮らしって、世を忍ぶ仮の姿だったって訳??」
谷間さんはさっきの 小切手帳 と 名刺 をチャーナちゃんに手渡すと、
「これで何か美味しいものを買ってくらさい。
ぼきは ”おおきんもち” なので、困ったときはここに訪ねて来ると吉……
それでは、また後ほど」
そう言って、 ”真っ赤なカマロ” に颯爽と乗り込むと風の様に去っていった。
小切手帳 と 名刺 と ”穢土村さ来” を抱えて呆けるチャーナちゃんを、
からかう様にレノちゃんが、
「チャーナちゃん、将来は ”社長夫人” かもね。 ”玉の輿” ってこの事?」
「た、たま、玉…… 腰の玉」
でも、気になるジロゥ……
「 ”谷間酒造” って、あんまり聞いたこと無いでごわすなぁ」
すると、突然。
「あーーーーっ!!! 谷間さんの顔みて思い出しますた」
「どうしたの?チャーナちゃん?」
斜め45°の虚空を見つめるチャーナちゃん。
「頼まれたのって、 ”穢土村さ来” じゃ無くて ”ノート用EDO128Mメモリ” だったぁ!」
「じゃぁ次はパーツ街ね」 3人はパーツ街を目指す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます