第25話 過去への旅立ち

黄色い公園ダンボールハウス


妙に脅えているチャーナちゃんに、谷間さんは何やらメモ書きを手渡す。

「チャーナちゃん。過去に行ったらさ、これ買ってきてよ」


”ノート用EDOメモリ 128MB”


「昔、一杯持ってたんだけど無くなっちゃって。これ、今じゃ手に入んないし。

店員にメモ書き見せれば解るとおもうよ。あるだけ買ってきてね……

あと念のため、 ”穢土村さ来” じゃ無いからね」


メモ書きを見ながら頷くチャーナちゃん。しかし心、此処に在らずの様子。

「……谷間さん…… あたし、どうしてもいかなくっちゃいけないかしら?」

確かに僅かの間、逢えなくなると思うとちょっと寂しい谷間さん。

「そりゃ、おいらだって寂しいけど。

でも、レノちゃんも大喜びだし、みんなwktkだから……」

ガッツポーズで応援! 

「チャーナちゃん、秋葉最強だから大丈夫だって!」

「そうね……」


1時間後、黄色い公園


全員集合。

レノちゃんは可愛いお出かけポーチ持参でピンクのフリフリ。

ジロゥは浴衣の着流しスタイルの下駄履き。

一方、チャーナちゃんは普段着の伝説のセーラー夏服。


これを見たナンシー長官、苦い顔。

「その服装じゃ、駄目だヨン♪ 全員、これに着替えるヨン♪」

と、言って用意してきた衣装を取り出して配る。渋い顔で着替えなおした3人。


「いやぁーーーん♪…… 何、これ?可愛く無ぁーーーーーい!!」

レノちゃんは胸に ”猿” の文字のついた拳法着。そして頭に金環。


「おいどんはこれでごわすか?」

ジロゥは胸に ”豚” の文字のついた商人着。

大黒天が着る様な袖と膝から下が膨らんだダブダブしたもの。


「あたしが一番、貧相だと思いますが……」 

チャーナちゃんは緑色のボロ服。胸に ”河童” の文字。


ホウクウド尋ねる。 「これって西遊記の妖怪3人組のコスプレ?」

「そうだヨン♪ いかにも ”妖怪” ってイメージにしないと地獄でチェックされるヨン♪」

レノちゃん、ご機嫌斜め45度。 「あたし、これで秋葉の街、歩くのヤー!!」

優しくなだめる谷間さん。 「秋葉ならコスプレって思われるからいいんじゃない?」


出発する前から波乱含みのご一行。

「で…… ”1999年7月” にSETしておいたけど、到着後5時間で自動帰還

するから乗り遅れたら駄目ヨン♪」

「ラジャー!!!」

とにもかくにも乗車する2人。

意気揚々と乗り込む2人と比べてあまり乗り気で無いチャーナちゃん。

見かねた谷間さんが手をとって、

「チャーナちゃん、早く乗った乗った。

時間旅行なんて誰でも出来るもんじゃ無いし。後でたっぷり話を聞かせてよ。

ねっ♪」

「うん…… 谷間さんがそう言うなら」


ホウクウド、意味ありげに笑いながら、 

「じゃ、当時の勇者殿に 『元気でいるよ』 ってヨロシク言っといてね、ウフフ」


辛抱できないレノちゃん、 

「チャーナちゃん!早く、乗ってよぉーーーーー!!!!」

3人が乗車したのを確認して、ナンシー長官、右手を上げてホイッスル!


「右ヨォーシ、左ヨォーシ、前方ヨォーシ!…… ダァ、閉まりまーす!

出発進行ぉーーーーー!!!  ピィリリリリィーーーー♪」


大きく手を振る3人。 「じゃぁ、逝って来るからねぇーーー♪」


”ガタ、ゴト……ガタ、ゴト、ガタゴトガタゴトガタンゴトンガタンゴトン……”


”ブゥゥォォオオオオオオオーーーー”


喧騒の中、黄色い公園の地下に沈んでいった汽車は闇を抜けて地獄の底へ。

その先には夢が散らばる時間の向こう……


「逝っちゃったね……」 「5時間後には還ってくるさ……」

すると、ナンシー長官。 「うにゃ。3分後には戻ってくるヨン♪」

谷間さん、ホウクウド、 「な、なんだってー!!」

「時差設定は自由だヨン♪」

ホッする2人。

「そうか…… おいら、暫く逢えないかと思っちゃった……

チャーナちゃん、面白い話を聞かせてくれるといいナ」


待つ事3分。地鳴りとともに再び地面から浮上する汽車……


”デンデンデンドロドロドロドロ……プゥオオオオオーーッ”


向日葵の様な笑顔全開で3人が飛び出して来るかと…… 思いきや、

いつまで待っても誰も出てくる気配が無い。 

満を持して中に飛び込む谷間さん。 


「チャーナちゃーーん、お帰りんこ♪ ……って、アレ???」

「どうした?谷間さん」  「どうしたんだヨン♪」


谷間さんが見たものは…… 

ボロボロになって床に横たわるレノちゃんとジロゥ…… だけ

火室の中を覗いても、チャーナちゃんの姿は見えない……


「…… ぅ…… う…… う、う、うーん」

少しして意識を取り戻したレノちゃん。

ふらつきながら立ち上がり泣きながらナンシーに抱きつくと


「うぁぁぁぁああーーん…… あたしが逝こうなんて…… 言わなければ!!!」


慟哭する谷間さん。


「う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーん゛

チ゛ャ゛ー゛ナ゛ち゛ゃーーん゛、何゛処゛ーー!!!」


谷間さんの声だけが響く黄色い公園の昼。

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