第18話 天使昇天
さぁ、いよいよ戦闘開始……
全員が強化スーツに変身する中、あたふたと ”ピンクのナース服” に着替えるルーシー。そしてそれを背後から怪しい視線で覗く ”全裸” のホウクウド。
更に、
いまにも死にそうな危篤状態の爺さんはとりあえず ”プチプチでグルグル巻き”。
チャーナちゃんは何故かゴム手ゴム長でツナギの ”清掃員スタイル”。
ジャンク街の一角が張り詰めた空気に満たされる。
と、同時にスピーカーから流れる重厚なパイプオルガンの音色。
”ヴォーヴォーヴォヴォーヴォーヴォ、ヴォヴォヴォヴォ、ヴォヴォッヴォーーー♪”
身構える爆熱王。
それをしたたかな視線で見据えながら、静かに立ち上がるキング・ゲイ・ダ。
「……しかし、見れば見るほど、不細工なロボットね……
バキュームカーなんて、昭和30年代じゃない?……
あたしの様に美し過ぎるのも罪だけど、貴方達みたいに不細工なのはもっと罪。
笑えるわね……」 挑発するキング・ゲイ・ダ!
するとチャーナちゃん大激怒!
「ジャかわしいわい!!……
オドレら、こん ”南極乙王” を馬鹿にしくさるとダチかんぞ!! ゴラァ!」
慌てるホウクウド ”チャーナちゃん、ちゃう。これ、爆熱王……”
「ホホホホモホモモモモ、お馬鹿さんね……
上等よ!さぁ、何処からでも!!かかっておいで!」
シャキーーン! ファイティングポーズを採るキング・ゲイ・ダ!
鋭く分析、ホウクウド。
”あ、あれは、立ち技最強のムエタイのポーズ!…… こいつは半端無く強いぞ。
まずは様子を見ないと……って、あれ?”
右手担当の谷間さん、いきなりアクセル全開!
「先手必勝! ”爆熱パンチ” だぁ!」
説明しよう
”爆熱パンチ” とは右手のリアカーに積んであったダンボールを燃やして発生させる炎のパンチ。爆熱王の必殺技の一つである。
「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおーーーーっ!!」
突進! 爆熱王。
真紅の炎に包まれた右拳が抉り込む様にキング・ゲイ・ダの顔面に炸裂!!!
……するはずだったが、当たる直前!
逆にハイキック?を受け、大きく体制を崩す爆熱王。
”グァシャ、ペチーーーーン♪”
一同、唖然…… ”何だ?? 今、何があったんだ?? これは夢か?”
そう、それを目撃した誰もが皆、同じことを言うだろう。
キング・ゲイ・ダの放ったはずのハイキック?をはっきりと見たものはいない……
”どんなに速いハイキックでも見えないなんてことはあるのだろうか??……”
すると突然、葵さんが思い出した様に叫んだ!
「ホウクウドさん、あれです。 ”屁こきキック” 」
それを聞いたホウクウド。 「な、成る程…… あれか」
説明しよう
かつて一世を風靡した3D対戦格闘ゲーム。このゲームで発見された技で、P、Kとボタンを押した後、瞬時にGを押すことで、パンチの後に発生するキックの動作をキャンセルすることができたのだ。これによって対戦相手はロスフレームの無い見えないキックを食らうので、次の攻撃が有利になる。これが ”屁こきキック” である。
ホウクウド得意げに。 「 ”屁こきキック” 、見破ったりーー!」
すると、あっさりキング・ゲイ・ダ。
「あら?…… あたしは、2D対戦格闘ゲーム派よ」
ホウクウド赤面。
「あれ?そうなんだ。じゃぁ、 ”ミカ” 使うんで、今度ゲーセンで対戦しませう」
キング・ゲイ・ダ、吐き捨てるように。
「 ”ミカ” 使いのおやじなんて変態だから、いやよ!」
ホウクウド更に赤面。
そんなどうでもいいことは置いといて、キング・ゲイ・ダの攻撃!
内股でにじり寄るキング・ゲイ・ダ
すかさず爆熱王の胸元に飛び込み、そこから更に跳躍!
”これは? 往年の名キックボクサー、沢〇忠の必殺技! 『真空跳び膝蹴り』 か?”
咄嗟に上体を逸らして必殺の膝を避ける爆熱王…… しかし、またも直撃!
”グァシャ、ペチーーーーン♪”
大きく仰け反りバランスを崩すもかろうじて踏みとどまる。
”何故だ? 確かに膝の直撃は避けたはずなのに? …… 見えない膝?”
一瞬、動揺して動きの止まった爆熱王。
その機を逃さず、キング・ゲイ・ダは爆熱王の頭部、運転席を両腕で抱え込む。
次の瞬間、爆熱王の顎に無数の打撃が打ち込まれる。
”グァシャ、ペチーーーーン♪、ペチーーーーン♪、ペチーーーーン♪……”
”いかん! ムエタイ奥義 『膝地獄』 だ。何とか振り切らなくては……って、何?”
何ということだろう? キング・ゲイ・ダの両足は地についたまま。
何か見えない ”別のもの” が爆熱王の顎を下から殴打している。
”ペチーーーーン♪、ペチーーーーン♪、ペチーーーーン♪、ペチーーーーン♪……”
物理的ダメージは大したことは無いのだが…… キモい、確かに、キモい……
何か得体の知れない精神的なダメージを感じる。
すかさず叫ぶ、葵さん!
「ホウクウドさん! ルーシーが…… ルーシーが、キモすぎて失神してます」
ホウクウドは本能的に危険を感じた。
「葵さん! ”ミートバルカン” だ! この状況を回避する!」
葵さん。アクセル全開!
「了解しますた。ゼロ距離で、 ”ミートバルカン” 発動!」
説明しよう
爆熱王の右足のケバブカーに内蔵されているロースターが高速回転することで熱く焼けたケバブ肉を高速で射出する。これが、爆熱王の必殺技のひとつ ”ミートバルカン” である。
”ブロオロロオロオロオロロオロオローーーーーーー♪”
次の瞬間!
爆熱王の右膝から射出された爆熱のケバブ肉がキング・ゲイ・ダの腹に炸裂!
「ウァツチチチチチイチチチチイーーーー」
その熱さに思わず後退、退くキング・ゲイ・ダ。
「ハァハァ……
思ったより、やるわねぇ。爆熱王…… いいわ、ご褒美に教えてあげるわ」
パイプオルガンの音色が止まり、あたりに静寂の帳が落ちる。
「あれは、あたしが格闘家として、単身、タイに遠征したとき……
ひとつはムエタイの奥義を極めるため。もうひとつは、男の身体を捨てるため……」
”えぇっ? 米屋じゃ無かったノ???”
「しかし、その結果…… 捨てることによって新たに得たムエタイの究極奥義!!
……それが、この見得ざる ”おとこのたましい” 」
足元に視線を落とす、キング・ゲイ・ダ。 「なして私は、こんなに強いの?」
ホウクウド呟く。 「大丈夫け?」
谷間さん復唱、 「”おとこのたましい” って何??」
葵さん復唱、 「”男魂” でしょ?」
目覚めるルーシー、 「だ…… 男魂♪」
絶叫するチャーナちゃん、「だんこん!!……って、食えるの?」
青ざめるホウクウド。
”そうか。そんな、恐ろしい武器を持っていたのか。
例えるならば、 ”失われし見えざる男魂” ……
これ以上、あの攻撃を受け続けると心が折れる。 よし!”
「みんな! どうやら接近戦は不利のようだ。ここは距離をとって戦うぞ!!」
全員、 「ラジャッ!」
大きく後ろに跳躍する爆熱王。キング・ゲイ・ダと爆熱王。その距離、約50m。
しかし、爆熱王には遠距離攻撃可能な装備がある。
ホウクウドの頭の中には攻撃のイメージが湧いていた。
「チャーナちゃん、今度は君の番。
左手の吸い込みホースを開放して ”スパンキングストーム”。
そして、谷間さん。右手の ”爆熱キャノン” で弾幕を張って奴の接近を防ぐんだ。
ふたりの息のあった攻撃を頼む!」
チャーナちゃん、谷間さん同時に 「ラジャッ!」
説明しよう
チャーナちゃん担当の左手は普段は吸い込みホースがコイル状に巻かれて内蔵されてるが、これを開放することで最大到達距離が50m以上の張り手攻撃が可能になる。
つまり、鞭の様に縦横無尽に繰り出される張り手の嵐。名づけて ”スパンキングストーム”。一方、谷間さん担当の右手から高速に射出される炎上ダンボールの砲弾。
名づけて ”爆熱キャノン”。 爆熱王の遠距離攻撃の要である。
チャーナちゃん、アクセル全開! ハンドルを右に左に急旋回!
「 発動 ”スパンキングストーム” !」
”ビヨヨヨヨオヨヨヨーーン、ブルン!!”
吸い込みホースは負圧に耐えられる様に内部には太いワイヤーが巻かれている。
その強靭なしなりを利用してフライフィッシングの要領で左手首を何度も加速する。
”グゥィン……グゥィ……グゥィン……グゥィン……”
「うまいぞ!チャーナちゃん」
そして、大きく弧を描いた左手が音速を超えたスピードでキング・ゲイ・ダを直撃!
”バチコーーーーーン!!!”
皮膚を引き裂かれるような響きとその威力に悶絶するキング・ゲイ・ダ。
「ァァァアアアーーーーーン♪」
間髪を入れず容赦なく何度も打ち込まれるスパンキングの嵐!
”バチコーーーーーン! バチコーーーーーン! バチコーーーーーン!”
「ァ…… ァ…… アアアアァァ…… アアアーーン♪」
チャーナちゃんの巧みなハンドル捌きによって予測できない軌跡を描いて打ち込まれるスパンキングは回避不能。キング・ゲイ・ダの彫像の様な白い肉体に次々と赤い手形が刻印されていく。苦し紛れににじり寄るキング・ゲイ・ダ。
しかし、その傷跡を狙って正確に打ち込まれる ”爆熱キャノン”。
”ドドドドドドドドドドド……”
右に左に、左に右に、翻弄されて揺れ動く ”背徳の堕天使” ……
いつしか、バックグラウンドに流れる ”梅沢富○男 夢芝○”
絶え間ない猛攻に遂にはその場で膝立ちになり両手で頭を抱えたまま動かない
キング・ゲイ・ダ。
興奮して叫ぶホウクウド。 「よぉし! 効いているぞ! このままいけるか?」
しかし…… 葵さんのイーグルアイは別の結論を示していた。
「……いぇ、ホウクウドさん。あいつ、喜んでいます」
”ァアン♪ ァアアン♪ アアアアアアアーーーーーーーッ …… ウットリ”
「攻撃止めぇーーっ!」 叫ぶホウクウド。
チャーナちゃんも谷間さんも操作の手を止めて、キング・ゲイ・ダを注視する。
すると、組んだ指の間から潤んだ視線でそっと覗くキング・ゲイ・ダ。
「……もう…… お終い?…… いやぁーん、いけずぅ♪……もう少しだったのに」
”うわぁ…… こいつ、トンっでもない…… ド変態だ!!!!アリエンワ!”
すっかり興ざめ。火照った顔で溜息。
「……ふぅ、貴方達とのじゃれ合いも、もう飽きてきたわ」
すると突然!ルーシーがその変化に気づいて叫ぶ。
「ねぇ、見て! 体についた手形の跡が…… 膨らんでいるわ!」
そう言えば、少しずつではあるが無数に刻まれた赤い手形の跡がその形のまま隆起している。熱病にうなされたかの如く定まらぬ視線で宙を見て呟くキング・ゲイ・ダ。
「……あたしは、地上に落ちた最後の堕天使……
しかし、造物主デミウルゴス様の命を受け、今再び、天上界へと舞い戻るの……」
ルーシー、絶叫!!!
「キャーーッ?!…… あれ、腕よ…… 腕が生えてるぅ???」
無数の赤い手形はそのまま無数の腕に変化した。
キング・ゲイ・ダの全身に生えた無数の蠢く腕。
そして、それはイソギンチャクの様にのたうちながら、全て背中に移動していった。
あたかも千手観音の如くゆっくりと立ち上がるキング・ゲイ・ダ。
どや顔を見せつけながら、
「あたしの本当の姿……
地上に堕ちる前の神々しく美しい、あの肉体に戻るの……」
そういいながら大きく双腕を広げると、背中の腕が合体融合。
遂には ”光輝く6対、12枚の白い翼” に変化した。
”ヴァアアアアサアーーーッ!!”
一斉に ”12枚の翼” を広げて立つキング・ゲイ・ダの肉体。
それは、惑う事なき大天使の姿。
……しかし、角刈り。 しかも、髭。 そして、あいも変わらず 六尺ふんどし。
「……大地を這い廻る糞虫たちよ。 天を見上げて己が罪の深さを嘆くがいい。
今、敢然と神の裁きが下された…… ”天使昇天” 」
キング・ゲイ・ダはつま先立ちのポーズで、ゆっくり、静かに、上昇を始めた。
バックグラウンドに流れる……
ヴィオロンの溜息、 ”秋の歌(落葉)ポール・ヴェルレーヌ”
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