第17話 爆熱戦隊

黄色い公園


息を切らせながら谷間さんが尋ねる。 

「どうする? ホウクウドさん…… あのキモいの本気だよ」

葵さん、ルーシーも予想外の展開に戸惑っている。

「あんな格好しているけど、元ジャンカーの技術力を考えると油断できないよ」

「キモすぎて、理解不能よ。お釜のレベルじゃないわ」

しかし、一人冷静なチャーナちゃん。 「あれ、食べれる? 美味しい?」


ホウクウドは暫し考えていたが、ナンシーの顔を覗いて、

「どうだろう? ナンシー長官。今が潮時では無いだろうか?」

するとナンシー、明るい顔で快諾。 

「もう用意は済んでいるよん。いつでも、発進できるよん」

ホウクウド、了解。 「そうですか…… 良し! 全員集合」


一同、ホウクウドとナンシーを取り囲む。 「何だ? 何だ?」

ホウクウドは大きく息を吸って、大声で叫んだ。


「発動!! ”爆熱戦隊 アリエンワー”!!!!」


こめかみに青筋立てて振動している人間バ○ブの様なホウクウドを見て、一同。

谷間さん、 「ホウクウドさん、大丈夫っすか?」

葵さん、  「戦隊物の見すぎでは?」

ルーシー、 「頭、診ましょうか?」

チャーナちゃん、「それ、美味しい? まずい?」


ホウクウド赤面。 「いや、今のところ…… まだ、大丈夫。ちょっと興奮して……」

大きく深呼吸。冷静になって、改めて。

「それはともかく、順を追って説明しよう……

えーと、昨年からジャンク街、いや、どうやら秋葉全域で大胆な破壊活動が度々行われていることは皆も承知しているはずだ」

谷間さん、「うん。おいらも気になっていたんだ」

ホウクウド続けて。

「これは秋葉という世界的にも希有な地域を狙って暗躍している様々な悪の組織の

仕業であることが解っている」

葵さん、「奴らしつこいからね。牛とかマンモスとか」

ホウクウド頷いて、

「そこで,ジャンク街をフランチャイズにする我々で、それに対抗する組織。

つまり ”正義の戦隊” を結成することが決まった!」

ルーシー、動揺。 「えっ、 “正義の変態” ?」

ホウクウド構わず。

「実は今まで秘密にしていたのだが、ここにいる ”ナンシー長官” に独自に 

”戦隊ロボ” を開発してもらっていた訳だ」

ルーシー、不思議顔。「お姉ちゃん、ほんとなの?」

ナンシー、どや顔。「ほんとだよン! ”ナンシー長官” だよン」


まだ信じられない顔の谷間さん、 「我々って、ここにいるおいらたちのこと?」

ホウクウド、得意げに、

「そう、あと、ジロゥとレノちゃんにはサポートとして参加してもらうつもり」

葵さん、不安気に、 「それで、戦隊名が…… ”アリエンワ” ??」

ホウクウド、自信満々。

「そう。 ”爆熱の闘志を持つ5人の戦士たち” っていう設定」

そういうと、一枚の紙を取り出して、

「それぞれのコード名も既に決めてあるんだ。これからそれを発表する。

名前を呼ばれたら大きな声で返事してね」

「ほーーーい……」 一同、仕方なく。


「まず、リーダー、 ”通電レッド”。これは言いだしっぺ特典で、わし。

「次、 ”起動ブラック”、谷間さん!」 「ヘーい……って、ブラック?」

「次、 ”液晶ブルー”、葵さん!」 「了解しますた! 僕は、まともそうだけど……」 

「次、 ”全壊ピンク”、ルーシーちゃん!」 「はーい♪ でも戦闘力無いケド……」

「そして、最後は。 ”水害イエロー”、チャーナちゃん!」

「ラジャッ! ”滅私奉公” の精神で頑張りまっす!」

「以上……

でも、まだ変身アイテムとかスーツとか用意してないから自前でやってね」


ルーシー、質問! 

「他のみんなは自前で変身できるけど、あたしは元々、非戦闘員だから……

どうするの?」

すると、ナンシー長官、回答。

「ホウクウドさんの手持ちで、 ”ピンクの特殊ナース服” が用意されているから、だいじょぶよン♪」

ルーシー、とっても不安顔……


ホウクウドは更にもう一枚の紙を取り出すと、

「もう主題歌も作ってあるから、ちょっと練習してみようか」


すると突然、ジャンク通りから響く釜声。

「ちょっとぉ、いいかげん早くしてくれない? いつまで待たせるの? 

お釜は気が短いのよぉ」

足を組んで傍らのビルに腰掛け、お姉ポーズで細まきのタバコを燻らせている

キング・ゲイ・ダ


焦るホウクウド。

「ごめんね、ごめんねぇー。

じゃ、主題歌の練習は止めて、次はいよいよ ”爆熱マシン” の登場。

ナンシー長官、お願いします」

「了解したよン♪」 両手を高く掲げる、ナンシー長官。 

「カムヒアー! 爆熱マシン!」


すると、天地を揺るがす爆音とともに、遙か彼方から迫り来る ”5台のマシン” が

黄色い公園のアスファルトグラウンドに集結した。


”ドドドドドドゥドゥドゥオドドドルルルルルルルルルルルル”


一同、驚愕。ホウクウドも初めて見た ”爆熱マシン” に感動。

「さぁ、これが君達の操る爆熱マシンだ!!! ナンシー長官、説明を頼みます」

ナンシー長官、それぞれのマシンに歩み寄り、


「えーと、まず、谷間さん。この”黒いサイドマシン”が貴方の爆熱マシンだよン♪」

すると、谷間さん。 

「えー…… これって、おいらのサイドカー。いつのまに改造したの?」


「次、葵さんはこの ”青いケバブカー” だよン♪」

すると、葵さん。 「わーい♪ 僕のマシンは、ケバブ食べ放題!!」


「次はルーシー。この ”ピンクの救急車” だよン♪」

するとルーシー、ガッカリ。

「……想像通りね。どうせ、ホウクウドさんの趣味なんでしょ…… 

でも、ちょっと可愛いカモ♪」


「そして、最後はチャーナちゃん…… ”黄色い吸上車” だよン♪」

チャーナちゃん、大喜び!「やったー♪ 一番、デカイぞ! ごっつあんです♪」


喜ぶチャーナちゃんとは裏腹に、ホウクウドが呟く。

「これは…… ”吸上車”って、早い話、 ”バキュームカー” …… しかし、今時、珍しい……って? これが、最後? リーダーの爆熱マシンは?」

するとナンシー長官、あっさりと。 

「無い!! 見つからなかったよン。自前で頼むよン♪」

焦りまくるホウクウド。 

「自前って…… じゃ、あそこに置いてある ”赤い台車” で行くよ?」

そういうと、ジャンク店員が使う様な台車を失敬した。 「トホホホ……」


すると、再度、釜声で催促。 「ちょっとぉー、もう終わった?」


「良し! 細かいことは後、後…… 

じゃぁ、ナンシー長官。もう、合体出来ますよね?」

ナンシー長官、両手で大きな○。 「OKだよン♪」

ホウクウドの瞳に闘志の炎が宿る。 「総員! 各、爆熱マシンに搭乗せよ!」

あたふたとマシンに乗り込む一同。

叫ぶ、ホウクウド。 「全機発進! 五個一合体!!!」


”ドドドドドドゥドゥドゥオドドドルルルルルルルル…バオオオオオオーーーン!!”


それぞれを乗せた各爆熱マシンが同時に発進。

微妙な距離を保ちながらフォーメーションを構成。


谷間さん、 「うわぁー、カブとリアカーが分離して右腕に変形していくよ!」


葵さん、

「僕のマシンは右足みたい。後ろに、焼きたてホカホカのケバブ肉があるよ…… 

モグモグ、うまいー!」


ルーシー、

「あのー、あたしのマシン、左足になるのはいいんだケド……

さっきから、なんか後ろで変な ”うなり声” がするんですケド……」


チャーナちゃん、 

「タンクが胴体、運転席が頭っすね。うひょー、吸い込みホースが左腕っす♪」

すると、ナンシー長官。チャーナちゃんのマシンにだけ、秘密の通信。

「チャーナちゃん、聞こえますかだよン…… 実は、そのマシンには******」

チャーナちゃん、 「ラジャッ!…… ド凄ぇー」


しかし、ホウクウドのマシン、台車だけは何処にも合体しない。

それもその筈。ただの台車だから。

「くそぉ、これ走らせるのも、自分で押さなければならないのか?」

結局、背中の部分に手動で接続。 「意味あるの? これって」


何だカンダで紆余曲折の結果、5台のマシンがひとつになって、ようやく合体完了!

黄色い公園のド真ん中に立つその勇姿は、


爆熱の闘志を燃やす 鋼鉄(はがね)の巨人。 誕生ぉ! ”爆熱王” !!!!!


アリエンワーの5人は頭部の運転席に集結!……するはずが……

5人の真ん中には、今にも死にそうな見知らぬ爺さんが座っていた。

リーダー、ホウクウドは仲間外れの背中の台車の上。

こんな感じ。


背中 リーダー:通電レッド(ホウクウド)

運転席  向かって左から

右手担当:起動ブラック(谷間さん)

右足担当:液晶ブルー(葵さん)

ド真ん中:死にそうな見知らぬ爺さん

左足担当:全壊ピンク(ルーシー)

左手担当:水害イエロー(チャーナちゃん)


ゴネるホウクウド。

「何でやねん? 何で、リーダーが背中やねんて…… そもそも、その爺さん、

誰やねん??」

するとルーシー、必死の説明。

「だってぇー。あたしの救急車の後ろに、危篤状態のお爺さんが寝ていたんだモン。

ほっとけないでしょ!」

ナンシー、謝る。

「ごめんだよン♪ 各マシンは元々、

秋葉の路上にあったものを失敬して改造したから ”使用中” だったんだよン……」

それを聞いたホウクウド、ちと不安……

”と、いうことは、この ”バキュームカー” も ”使用中” だったの??”


すると、痺れを切らしたキング・ゲイ・ダ。

「ゴラァア! どんだけ人を待たせりゃ気が済むの? もう、寸止め状態じゃぁ」


チャーナちゃん、大音量で一言。

「おまんたせいたしますた! さぁ、始まりです。 今宵、魅惑のパラダイス!!」

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