第16話 背徳の堕天使
……と、思っていた矢先。突然、雷鳴の様に響く大音量の釜声!
「まぁだ、終わってないわよぉ!!!!」
ジャンク通りの北端に俄かに立ち上る桃色の霧。
「何? あれ。変なもんがこっちに来るわ!」怪しい影を発見してルーシーが叫ぶ。
ジャンク通りに並んだ一同は同様に北端の霧を見つめながら、何やら不安を禁じえなかった。その静寂を打ち破るかの如く、突然!静かにそして厳かに響く不吉な音。
”ボボボーーボーボボ、ボーボーーーー、ボボボーボボボボボボェーーーー♪”
ホウクウドは眉を顰めると、 「何だ、あの尺八は?」
”ドンドドンドンドドン、ボボボボボボボボーーボボボボボボェー、ドンドドドン♪”
怪しい影は桃色の霧を引きずり音と伴に静かに厳かに南下してきた。
”ボボボボボボボボーーボボボェーーー♪ドンドドドン♪ドンドドン、ドンドドン♪”
怪しい影が徐所に全貌を明らかにしていった。
それは全体をピンクの薔薇で覆われた男御輿!
御輿の上部では、全身黒尽くめのサブロゥが尺八を片手に仁王立ち。
皆の不安は的中…… サブロゥ降臨!!
一同、唖然。空いた口が塞がらないとはこの事。
「はぁはぁ…… 皆さん、おひさ。サブロゥです」
ホウクウド叫ぶ。 「やはり、今回の事件はお前の仕業か?」
御輿の上からホウクウドを見下ろしながら、
「お久しぶりね。ホウクウド。貴方に会えなかった夜が辛かったわ……
それはそうと今日は皆さんに紹介するわね。あたしの可愛いメイドちゃん達。
あたしを加えて、 ”釜イダー5人衆” よ。ご贔屓にしてね♪」
男御輿を担ぐ ”ガチムチ” 、 ”角刈り” 、 ”髭” の屈強な4人の男達。
しかしなんと、彼らは全員、 ”六尺褌” をキリリと締め込んだ上から
”ピンクのメイド服” を着ていた。さながら…… ”ガチムチふんどしメイド”
これにはさしもの腐女子疑惑のルーシーでさえも、「キモすぎます……」
ホウクウドは若干、眩暈を感じながら叫ぶ。 「一体、何が狙いだ」
サブロゥはゆっくりとお銚子を3本取り出すと、それをホウクウドに投げつけた。
ハッシと受け取るホウクウド。
「これはサービスよ。
話すと長くなるから、それでも飲みながら大人しく聞いていて頂戴」
ホウクウドは青ざめた。何という恐ろしい攻撃。
これは、ひなびた漁港の場末のスナックにありがちな”ばばぁマダム”の愚痴モード。
大人しく聞いておかないと大変な事になる。
しかし、耐え切れず谷間さんが突っ込もうとするのを傍らで察したホウクウド。
すかさず谷間さんにお銚子を勧める。
一口飲んだ谷間さん。 「おや? これは…… 茎水の上物。うまー」
御輿の上のサブロゥ、斜め上を眺めながら回想モード。
バックグラウンドに微かに流れる ”愛○燦 美空ひ○り”
一同、互いに手酌で一杯やりながら傍聴体制。
お酒の飲めないルーシーはカルパスソーダ¥100。
「あれは…… 確か……
秋○が廣○の裏で秋葉で最初のジャンクショップを開いた頃かしら」
”お、始まったぞ。しかし、随分古い話だな……”
「そう、まだサ○ボも開店しない頃。
あたしは秋葉界隈をケッタマシンで走り回っていた。あの頃は好奇心だけが動力源。若かったのね。それから少ししてマイコンが生まれたの。
ラヂ館2Fに最初のN〇Cマイコンショップが出来て、今の祖父中古総合の場所にあった家電カ〇タの隣の田〇電気に凍死婆マイコンセブンが出来たわ……
まだパソコンは黎明期よ」
”何故、そんな古い話を……”
「その頃はUの場所にはとんかつ屋さんと喫茶店。ド〇キの場所には家電ミタミ。
黒9〇の場所にはトユムラ。ちょっと行くとマヨ電気があったかしら。
あ、いけない。その頃お世話に成った黄色い公園そばの肛門科を忘れていたわ」
”肛門とジャンクにどういう関係が?”
「今はジャンク街と言えば、その辺りだけど昔はバッタ屋さんばかり。
まだ、秋葉は家電の街。でも、それからパソコンが出てきたの。
秋葉がパソコンの街に変わるのはあっという間ね。次々に出来るパソコンショップ。でも、まだメーカ製パソコン優勢。
自作が当たり前になってきたのはWindows95が出た頃
…… そう、ちょうど、あたしが…… 男の身体を捨てた頃ね」
”何を言っているんだ、こいつは????”
「自作が主流に成る頃、ジャンクショップも盛況になってきたわ。
あたしは毎週ケッタマシンでジャンク街を駆け回っていた。
秋葉ジャンカーとしてジャンクを謳歌していたあたし。
また一方、お釜として新宿2丁目で ”蝶よ華よ” と輝いていたあたし。
楽しかった…… でも…… ジャンカーの命も女、いえお釜の命も短かった……
その頃は…… もう、あたしの身体がジャンクになっていた……」
”????????”
「人は所詮老いるもの。それに耐えられなかったあたしは…… 人間を捨てた……」
”!!!!!!!!”
「一度、男を捨てたあたしが人間を捨てるのも訳は無い。
そして、組織の力によって新たに生まれ変わったのがこのサイボーグの身体よ!」
”えーー!! サブロゥって、サイボーグだったの?? まぁ、今でもお釜だけど”
「様々な過酷な理由で、私と同じく人間を捨てた者がこの4人のメイドさん達。
あたし達は皆、脳だけを頭のお釜に移植したサイボーグ……
チェインジ! 釜イダーー!!」
すると突然、
眩い光に包まれた5人の身体は……
頭に大きな釜を載せた全身黒塗りのロボット形態に変身した。
”これは、まさしく…… ハカ、いや、釜イダー5人衆!”
釜イダーに変身したサブロゥは憤怒の表情。
「けれど、そんなあたしが愛したジャンク街が…… 昨今、廃れてきている。
年々、ジャンクショップは減るばかり。人は自然に老いる運命にあるものだけど、
ジャンク街が廃れてジャンクになってしまうのは納得できない!」
”そうか……
サブロゥはジャンカーとしてこの街が変貌するのが許せなかったんだな。”
「だから、凍結するのよ…… 破壊するのでは無く、今の姿で残すの……
その為に、シャッター街にしようと計画した……
でも、それを阻止したのが、あなた達よ!!!!
……あなた達現役ジャンカーは、この街が変わるのが悔しくないの?
どうにかしようと思わないの?
毎週、のんべんだらりとジャンク巡回しているだけじゃない?
何が、 ”萌えー” よ。 何が、 ”萌え萌えドギューン” よ。
ジャンカーに萌え要素が必要なの?
男はいつでも ”質実剛健、漆黒の、大人の翼、TinkoPAT”……
”ピンクのVAIBO、萌えー” なんて馬鹿じゃないの?」
ホウクウドには、かなり思い当たる節があり、とても言い返せる自信は無い。
「でも…… もう、いらない…… こんな街、いらない……
ジャンク街は、あたしの思い出の中だけにあればいい……
破壊よ。こんな街、壊してやるわ……
ブチ切れたお釜の怖さを思い知るがいい!!!」
まさかの展開に慌てふためくホウクウド達。耐え切れず叫ぶホウクウド。
「先輩! それは、困る! 気持ちは解るが、壊されてしまったら元も子も無い。
ここはひとつ冷静に話し合いを」
しかし、逆上した釜イダー達をとどめる事は不可能。
「問答無用よ! 力には力で抗いなさい…… 全員、トランスフォーム!」
サブロゥがそう言い放つと、4人の釜イダー達は変形してそれぞれ手に足に。
そして、男御輿は胴体と頭部に変形。最後にその中にサブロゥが乗り込むと……
身長18m程の巨人が出現した。
秋葉の地に降臨…… ”背徳の堕天使 キング・ゲイ・ダ” !!!!!!
それは…… ミケランジェロのダビデ像を彷彿させる美形の白い彫像。
しかし ”角刈り”、しかも ”髭”…… 更には、キリリと締め込んだ ”六尺褌”。
人知を絶する造形美。
「ホホホホホホホホモホホモモモモモ! どう、この華麗なフォルム……
足元にひれ伏しなさい、拝みなさい…… そして、 ”女王さま” とお呼び!
ホッホホホホホ♪」
”これは、キモいどころの騒ぎでは無い” ホウクウド達は一目散に逃げ出した。
「全員! 黄色い公園に待避!ーーーーー」
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