第三章 光のどけき春の日に
第13話 秋葉悪役会議
2010年初春 肉ビル最上階
広い会場に設置された各テーブルには、様々な高級料理が並んでいた。
しかし、テーブルを囲んで雑談を交わす各々の面持ちは一様に暗く澱んでいた。
「うぉっほん! 皆様、ご静粛に」
壇上に立つ恰幅のいい紳士がそう言い放つと、会場は静まり返った。
「それでは、2010年 ”秋葉悪役会議” を開催致します。一同、画面にご注目願います」
壇上の巨大スクリーンに秋葉の街並みが映った。
「えー、本日お集まりいただいた悪役幹部の皆々様方には慎んで新年のご挨拶を申し上げます。思えば天地開闢以来、皆々様方におかれましては秋葉のみならず、宇宙の長い歴史の光となり、また影となってご暗躍なされていること、改めて申し上げるまでもございません」
いい終えると映像が秋葉の歴史年表に替わった。
「さて、江戸の大火より始まったこの秋葉原ではございますが、進駐軍の闇市からの電気街発祥、また昨今の ”萌えー文化” の発生など、破壊と再生を繰り返し枚挙に暇が無く常に変化し続けてきた街であります」
次に、 ”超越人” の映像。
「しかし、近年目の上のたんこぶとなった ”超越人” が台頭し ”秋葉明神” と伴に結託することによって、我々悪役との力の拮抗が生じ変化の大きな潮流が一時停滞してしまったことはご承知の通りであります」
次に、石川五右衛門の映像。
「しかしながら、つい200年ほど前から ”超越人” は、とんと姿を見せなくなりました。 ”浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ” とは良く言ったもので、これ幸いとそれからはや200年、我々はこの秋葉の地に新たな変化の潮流を招きいれるため準備に準備を重ねて参りました。すなわち再生のための意義ある破壊をもたらすべく努力してきました」
次、ジャンク街の映像。
「そんな我々の努力を無に帰す様な気運がこの秋葉の一角から生まれ、そしてそれが広がっていったのです。それが ”ジャンカー” と自称する者達であり、彼らの拠点がこの ”ジャンク街” です。 ”ジャンク” とはゴミです。本来は破壊によって生じた産物で、廃棄されるものです。我々、破壊活動に日夜邁進するものにとっては、いわば成果です。つまりゴミが増えれば増えるほど嬉しい訳ですが、彼ら ”ジャンカー” はそのゴミを勝手に再生してしまうんですからこれは堪ったもんではありませんよ、ねぇ奥さん。
しかも、あいつら掻っさらったゴミを集めて ”ゴミハウス” まで造って喜んでいる者もいるってんですから。神も仏もあったもんじゃ無いですよ……
いや、私情が過ぎました。失礼」
次、店内でジャンクを漁っているホウクウドの映像。
「見てください、これ。そして目に焼き付けてください。我ら悪役が天地開闢以来、延々と繰り返してきた意義ある破壊活動を妨げる者達の姿を」
次、店内でお宝ジャンクをGETしてガッツポーズのホウクウドの映像。
「ふざけていますよね。ゴミですよ、ゴミ」
次、朝の6:30から、店頭に並んでいるホウクウドの映像。
「他にやることが無いのでしょうか?」
次、秘密工作員が極秘入手したホウクウドの ”ゴミハウス” の映像。
「何が楽しくてゴミの中に埋もれているのでしょう? 正気の沙汰とは思えません」
ここで壇上の紳士は会場からひとりの幹部を呼び寄せた。
「さてここで、昨年秋に秋葉大量破壊作戦を実行した幹部の一人から事例報告を承ります。 どうぞ」
紹介されて壇上に上がった老人はうやうやしく一礼をすると話し始めた。
「ご紹介に預かりました、魔獣担当の魔王 “丸福” です。私が実行した作戦については皆様、既にご存知のことと思いますが、巨大な黒毛魔獣による大量破壊でした。
しかし、先程のジャンカーの一味、及びその仲間と思われる面々によって惜しくも阻止された次第です。思えば、長年我々を苦しめた、あの ”超越人” が顕現したのがそもそもの敗因でした。あ奴が現れなければジャンク街の完全壊滅が完遂できたかと思うと残念無念で仕方がありません。なお、黒毛魔獣の製作費が当初の予算を大幅にオーバーしたこと、及び、最終的にはキモオタどもに完食されてしまったことが反省点といえます。おかげで今後5万年間の長きに渡って肉ビルで土日に皿洗いのバイトをやらなければならなくなりました……」
「ありがとうございました。それでは次に、遠く中国からおいでになられた同士による事例報告を承ります。 どうぞ」
壇上に、銀色長髪、痩身の老人が上がると一礼して話し始めた。
「中国支部にて破壊ロボット部隊編成、及び総指揮の任務を授かっております、
傀儡師 ”下呂” と申します。皆さん、よろしく。私は直接作戦に携わるのでなく言わば組織の裏方でした。しかし、昨年末のある不手際により計らずともこの秋葉にてジャンカーどもと開戦する運びとなりましたが結果は惨敗。開発中であった ”破壊獣グレイマンモス” を完食され、さらに貴重な ”下呂の笛” を紛失してしまうという散々な結果に終わりました。色々な要因はありましたが、やはりジャンカーどもの団結力を見縊ったことが敗因といえましょう」
「ありがとうございました……
昨年はこのような残念な結果が続きましたが、今年はこれらの失敗を糧として頑張っていきたいと思います。それにはやはり、大きな阻害要因たるジャンカーどもへの早急な対策が今後の大きな課題となります。ジャンカーどもを根絶し、さらにはその発生源であるところのジャンク街の完全壊滅を見据えた新たな施策を講じたいと思います。それでは皆様、これから暫くの間、自由討論と致しますので……」
すると突然、
全身黒尽くめの男が壇上に駆け上がると、 「ちょっと、待ちなさいよぉ」
一同、何事かと注目。司会役の老紳士、一瞬キョどって、
「あ、貴方は確か、 ”サングラス軍団” の新軍団長 ”米屋のサブロゥ” さん
でしたね。何か?」
「”サブちゃん”って呼んで♪…… それより、昨年秋にもうひとつあったでしょ?」
「と、いいますと?」
「先の軍団長の三平さんが、ヲノデンロボを使っていいところまで行ったじゃない。あの作戦よ。あの時ジャンカーどもは格安新品や中古に群がって、もう少しでジャンク街に閑古鳥が鳴く一歩手前までいったのよ。三平さん、あの時言ってたわ。
”破壊するだけが悪役の仕事” じゃないって」
拍手を打って老紳士、
「あぁー、あれあれ。忘れていました。地味ーな作戦でしたが、あと一歩でした」
サブちゃん、ご満悦。
「そうよ、思い出してもらえたかしら? 実は、あたし、あれからいい作戦を思いついたのよ……」
身を乗り出す老紳士 「と、いうのは?」
サブちゃん、諸手を組んで誇らしげに一笑。
「ホホホホホモホホホモホモホモホモ……
この会場にいらっしゃる悪役幹部の誰ひとりとして気づいていない、
”ジャンク街の盲点” を突くの。しかも合法的にね。ホモホモホモ……」
サブちゃん、こっそり老紳士に耳打ち。
すると氷解した老紳士、慢心の笑みを湛えて、
「な、なるほど……それは、面白い。是非、やっちゃってください。盲点を突いて」
会場の一同、何だか解らないが妙に興奮。賛同して拍手喝采。
気運を感じ、サブちゃん絶頂。
「みなさま、ジックリとご覧あそばせ♪
もう全力で…… 突いて、突いて、突きまくっちゃうから♪ ハァハァ」
一同、お釜の痴態に引きまくり。
しかし、そんな空気の読めないサブちゃんは益々エキサイト。
「見て、こんなあたしを見守っていて……サブちゃん……思いっきり……イキます」
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