第12話 ゆきうさぎ

戦うジロゥを目の当たりにして、ホウクウドは心を決めた。

まだ、誰にも見せたことの無いもう一つの戦闘スタイル。

それは、パワーMAXの ”大熊猫” の戦闘スタイル。


「ジロゥ、俺も加勢するぞ…… パワーMAX、 変身!」


全身に描かれたパンダは唯のペインティングでは無かった。

変身の掛け声とともに、みるみるうちに実体化したそれはホウクウドを包み込み、

大きなパンダ(大熊猫)の形態に変化した。


説明しよう

ホウクウドの変身能力。実は彼の肉体には ”黒豹”、 ”神鳥”、 ”巨鯨” などの5匹の聖獣、魔獣が融合している。これを、”聖魔融合”という。この内 ”パワーMAX” の場合に実体化するのが ”パンダ(大熊猫)” の形態である。ちなみに股間に融合しているのが、 ”やる気MAX” の ”オットセイ” であることは秘密である。


ホウクウドの変身したパンダを見て、ルーシーと女の子、思わず感涙。

「かーわーいいー(ハァト)」

若干照れる、ホウクウド。

”意外に女の子に受けるもんだなぁ…… 

これで秋葉を歩けば冥土さんが寄って来るかも。うひょ”


それはともかく、今はマンモスをやっつけなくては。

「良ぉし! ジロゥ、今いくぞ!!」 マンモスに突っ込むホウクウド。

流石にパワーMAXの ”パンダ形態” ではあったが、やはりマンモスは強大。

ジロゥが左足、ホウクウドが右足を必死に抱えて、なんとか歩みを止めているのが精一杯。とても、攻撃する余裕は無い。歩みを止められて、荒れ狂うマンモス。


”パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、オーーーーーン”


しかし、

不安に駆られるルーシーたちの元に、今、まさに頼もしい仲間が舞い降りた。 

”BlueEagle” 葵さん。 「やぁ、間に合った」

涙目のルーシー。 「葵さん、来てくれたのね!!」

「うん。黄色い公園で、変な ”サンバカーニバル” が行われているって聞いて、

おかしいと思ったんだ」


必死に右足を支えるホウクウド。葵さんが来たことに気づいて、

「葵さん!! こいつの弱点を探してくれ!!」

葵さん、了解。すかさず発動、 ”Eagle EYE ”。

葵さんの探索装置がマンモスの全身を透視する。


”何、何、えーと。こいつの内部COREは何処にあるんだ…… あ、あった。

あれは、 ”TinkoPAT G40” そうか、あのパワーの源は、 ”Pentium4” だったのか……でも、それなら爆熱仕様。強力な冷却機構があるはず。

それを、探してみよう……

放熱は、あの巨大な耳…… あ、鼻だ!鼻がエアーダクトになっていて冷却用の空気を取り込んでいるんだ。あれを止めてしまえれば、倒せるかも?”

「ホウクウドさん!! 

鼻が冷却用エアーダクトです。冷却用空気の吸引を止めてください!」


ホウクウド、了解! しかし、この状況では、ビュンビュン振り回す鼻を掴むことさえ出来ない。 「葵さん、無理だ。 こいつを押さえるだけで精一杯」


”どうすればいいんだ。

僕のスピードでもあの高速で振り回している鼻を追いきれない。うーん”


”パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、オーーーーーン”


すると、ルーシーに抱きかかえられていた女の子。

「足さえ壊れていなければ…… あたしのスピードなら、あの鼻を掴めるのに」


それを聞いて、ニッコリ満面の笑みを浮かべて、ルーシー。

「それって、マジデスカ? 大丈夫、あたしが今すぐ治してあげるから。

ちょっと、待っててね」

そういうと、すかさず詠唱。女の子の身体はエメラルドグリーンの光に包まれた。

ビックリする女の子。でも、自分の身体がどんどん治っていくのを感じた。

「凄い! あちこち壊れていた部分も、全て治っていく。信じられない?」


ルーシー、フーッと深いため息。女の子の身体を包んでいた光が消えた。

「もう、治ったわよ。バッテリーも完全充電。パワーMAXのはずよ」

女の子ピョンと飛び起きて、その場で数回ジャンプ。

可愛い ”うさ耳メイド” の衣装が翻る。

「本当! 完全に治ったわ。良ぉし、これなら ”変身” できる」

「えっ、 ”変身” ??????」

女の子、両手を組んで胸に当て、両目を閉じてお祈りポーズ。 


「チェィンジ!!!」


目のくらむ様な白い光に包まれた後、

そこに立つのは全身艶々ピカピカのミラージュブラック。

頭にはピンと立った大きな ”うさ耳” 。

そして、やはり大きな瞳が爛々と赤く燃えている。


ルーシー、感激の嵐。

「”ミラージュブラック” のうさぎさん!! 大きな耳に、真っ赤な瞳…… 

判ったぁ! ”TinkoPAT s30” ね。 大きな耳が特徴よ」


凛々しく立つ、うさぎさん。ちょっと、威張って。

「正解。 あたしの内部COREは、 ”s30”……完全無欠の純正TinkoPATなの」


すると、ルーシー立ち上がってふわふわ綿毛の白いコートを脱ぎ、

それをうさぎさんに着せると、

「あたしのだからちょっと大きいけど…… お願い、これを着て戦って。

貴方の綺麗な ”ミラージュブラック” に傷が付くと大変だから」


全身、真っ白な冬毛に包まれた小さなうさぎさん。 

「ありがとう、ルーシーお姉さん」


感動の嵐に包まれるなか、ひとり冷静な葵さん。

「僕がマンモスの周りを飛んで攪乱するから、隙を付いて鼻に攻撃してね」

そういうと、飛び上がってマンモスに向かう。


うさぎさん、大きく深呼吸。 「行きまぁーす!」

その場で一回ジャンプするとうさぎさんの姿が消えた。

いや、あまりに高速で移動したので消えた様に見えたのだった。


”ピョンピョンピョーン♪ピョピョンピョーーーーーーン♪♪”


マンモスの周りを華麗にうさぎさんが跳ねる。あっちにピョン、こっちにピョン。

うさぎさんの身体から舞い落ちる綿毛が宙に散ってヒラヒラ…… まるで粉雪の様。

「ええーい!」速くて見えないが、不意を付いてマンモスの鼻を掴んだうさぎさん。それをそのまま固く結んでしまった。鼻を結ばれて吸気不能。

マンモスは顔面真っ青。目を白黒。


”ぶふぉぶふぉ、ぶふぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお”


膨張するマンモスの身体が限界に達した瞬間、爆発! 四散するマンモスの肉体。


”ちゅどどどどどどどどどどどどどどどどぉーーん”


ホク、ジロ、葵さん  「やったー!!! ワショーイ!!」 

ルーシー、うさぎさん 「チームワークの勝利よ!!」

あごがはずれて30cmぐらい落ちる下呂 「ほげーっ?? マ、マンモスが?」  


♪ランタ タンタン♪ ダンボールハウスからこっそり逃げようとする下呂。

それに気づくジロゥ。 

「きさん、何処へ行くでごわす? 

このままおいそれと逃がすと思うとでごわすか?」

怒りに燃えるジロゥ。 

「きさんを逃がせば、また不幸なロボットが増えるでごわす。

ここは、おいどんの必殺技できっちりとケリをつけるでごわす」


ジロゥは両手に下駄を持ち、それをクロスさせると下駄は中華鍋とお玉に変わった。


「必殺! 電磁調理器エンド!!!」


説明するでごわす

おいどんの必殺技 ”電磁調理器エンド” は、昨今流行の電磁調理器では本当にうまい中華は作れない(個人の感想です)との固い信念を元に生み出されたものでごわす。つまり、一番大事なのは火力(個人の感想です)。この爆発的な火力を推進力として敵に接近して、接触する瞬間、両手に持った鉄製の中華鍋とお玉で粉砕する。

中華4000年の秘伝でごわす。


だがしかし、

宙を飛んで、下呂に向かって一直線。の、はずであったがどうも色々食いすぎて重量OVER。思えば、廃丼大盛り とか 特大ケバブ とか、博多とんこつラーメン替え玉2玉 とか…… しかも、全部食い逃げ。

重すぎて高度を保てないジロゥは谷間さんのダンボールハウスを直撃した。

同時に、上にいた下呂を巻き込んで崩壊するダンボールハウス。


”ちゅどどどどどどどどどどどどどどどどぉーーん”


瓦礫の中から立ち上がる下呂とジロゥ。

「な、な、な、何だぁ? このニンニクの腐った様な臭いは……

わし…… もう、我慢できない…… うぉえっぷぅう」


”グゥエロロロロロロロロロロロロロロオオオオオォォォォォォ”


間欠泉の様な勢いで噴射される…… 下呂。

それを、頭から全身に浴びるジロゥ…… 思わず、貰い下呂。


”グゥエロロロロロロロロロロロロロロオオオオオォォォォォォ”


下呂と貰い下呂のアンサンブル……  これ以上はもう描写できません。


数分後


「あっ、空から何か白いものが降ってきたよ?」  チラチラ舞い落ちる粉雪。


ホウクウドはルーシーの傍で空を見上げているうさぎさんを見て、

「見てごらん、ルーシー。うさぎさんがまるで、 ”雪うさぎ” みたい」

自分のことを言われたうさぎさん、はにかんだ笑顔。

ルーシーは?マーク。 「”雪うさぎ” って、何デスカ????」


「あぁ、ごめんね。 ”雪うさぎ” っていうのはね。

今、降っている雪を楕円の形に集めて、それから赤い ”ナンテンの実” を目、 

”ナンテンの葉” を耳にするんだ。そうして出来たのが ”雪うさぎ” ってわけ」


ルーシー大きな目を一杯に開いて聞いていたが、横にいるうさぎさんを見て、

「本当! ”赤い瞳の雪うさぎ” ってカンジ?」


そんな話とは関係なく水飲み場では、葵さんがジロゥに水道放射。 

「ジロゥ…… まだ、臭いよ」


ルーシー、うさぎさんを上から下まで見下ろして、

「でも、名前が無いのは変じゃない?

ジロゥも自分で勝手に日本名を付けたんだから、うさぎさんも付けたら?」

うさぎさん、遠慮がち。 「あたし、ロボットだから……」

「同じロボットの ”チャーナちゃん” っていうのもいるシー。いいんでネ♪」


ホウクウド、ご提案。

「中国から来たTinkoPATだから…… ”レノちゃん” ってどうかな?」


ルーシー、しばし考え中。

「…… ”レノちゃん” ……

可愛くていいカモ?…… じゃぁ、今日から レノちゃん ね♪」

レノちゃん、 「はい♪」


「レノちゃん、これからずっと、あたしんちに来てよ。一緒に暮らそ♪」

「かしこまりました、お嬢様…… よろしくね♪」

すかさずジロゥ、 「おいどんも一緒にご厄介になりもうす」

すると、ルーシー、 「臭いから……や!」

そこで、葵さん、

「ジロゥは、僕のところで面倒みるよ。

同じ ”ラオタ” としてロボットがどうやってラーメンを食べるのか興味があるし」

ジロゥ、渋り顔。 「仕方なかでごわす。三食ラーメン付きでお願いもうす」


「ヘックション! ぶるるるるー。雪が降ってきて寒くなってきたから、もう帰ったほうがいいね…… なんか股間もスースーするし」


夕方、黄色い公園


「今日は、ダンボールも集まらないし、 ”うさ耳メイドさん” も見つからないしでいいこと無かったな。おまけに雪まで降っているし。もはや茎水飲んで寝るしか」


リアカーを引いて帰ってきた谷間さん、

リアカーの上には伝説のセーラー服を着たチャーナちゃん。

チャーナちゃん、ダンボールハウス跡地を指差し、 「谷間ー、家が無いよー」

ダンボールハウス跡地を見つめる谷間さん。奥歯ガタガタ。

「…… 下呂温泉、ピーヒャラララぁあああああああ!!!!!!!」


そんなことはお構いなくチャーナちゃんはあるものに気づいた。

「お肉ぅ。お肉が一杯、落ちてるぅー」

盛んにマンモスの肉を拾い集めて次々とドラム缶に投げ込む、大喜びのチャーナちゃん。 「今晩は、 ”お象煮” 大盛りだぁーーー」

それを聞いて、傷心の谷間さんがポツリ。 「そうか、もうすぐお正月なんだな……」


その夜、黄色い公園


「美味しいねー♪」


「こりゃ、美味しいなんてもんじゃねぇ! チャーナちゃん、あんた天才だよ。

まったりとしてコクがあって、それでいてしつこくなく、なんちゅうか?

積み重ねられた歴史の重みを感じさせる味ですな」


チャーナちゃん、大喜び。 「わーい♪ ほめられちった」


「いやはや、年の瀬も押し迫って、 ”今年はいいこと無かったなぁ” なんて思っていたとこ。最後の最後で、チャーナちゃんのおかげでこんな旨いものに出会えるとは…… おいら、幸せ♪」


チャーナちゃん、大はしゃぎ。 「谷間ー、もっと食えー♪」


「なんていうかあれだねぇ。このお肉も旨いが、このスープがまた凄い。

ベースになっている ”鳥皮” から染み出る ”チー油” のコクと香り。

家系とんこつラーメンの免許皆伝だよ…… チャーナちゃん! 

来年は一緒にラーメン屋を開こうね♪」


チャーナちゃん、絶好調。 「谷間ー、残すなー、全部、食えー♪」


スープを飲み干した谷間さん、喉の奥になにやら異物感……

「かぁぁあーーっ、ペッ!! 何だ、この ”縮れっ毛” は???」


ふたりの夜は更けていく。


同時刻、萬世署


「また、お前か……」


「だから刑事さん、今回は違うんですよ」

「何が違うんだ!駅前で全裸になってたのはお前だろが?」

「だから、今回は変身するまで履いていた ”鳥皮のパンツ” が無くなっちゃったんですよ。不可抗力なんです」


刑事さん、苦い顔。

「”変身” だの、 ”鳥皮のパンツ” だの。お前、やばい薬でもやってるんじゃないだろうな?」

「そんなもん、やってませんって。信じてくださいよ」


すると突然、若い刑事さんが、

「デカ長、大変です! 容疑者の携帯していた ”ピンクのVAIBO” の中から、

”25歳OLの 無修正 猥褻 高解像度 画像”が 数千枚も確認されました!!」


刑事さん、滝の様な汗……

「お前…… カツ丼から年越しそばからおせち料理から七草がゆまで、フルコースを楽しめるな…… ただし、留置所でだが」


ホウクウド、天を仰いで。 「助けてぇー、アンシー」


無情にも夜は更けていく。

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