第11話 下呂
現在、黄色い公園
「ふーーん。そんなことがあったんだ。
でも、谷間さんの暗号伝言、適当すぐるんですケド。
おかげで指名手配になっちゃったし」
すると女の子の様子を見ていたルーシー 「あっ、この子。気が付いたみたい」
すっかり顔色が回復した女の子、大きなまつげがパタパタと瞬き、パッチリとした黒目がちの眼が虚空を見つめた。そして、左右に動いてあたりをキョロキョロ。
「うーーん。ここは? 」
大喜びのジロゥ。上から女の子の顔を覗き込むと、
「やぁ、良かったでごわす。料理ロボの、おいどんでごわす」
すると、女の子。 「あっ、豚! じゃなくて、料理ロボね。お久」
このやり取り、ルーシー、ちと疑問。
「ねぇ、貴方たちロボットには名前が無かったの?」
「おいどんたちは、中国では職種と内部CORE名で呼ばれていもうした。
ちなみに、おいどんの内部COREは秋葉製ジャンクの ”TinkoPAT X32” なので、 ”料理ロボX32号” が正式名称でごわす」
ホウクウド、それで納得。
「そうか。秋葉のジャンクノートが巡り巡って中国でロボットの内部COREに
使われているので、それで秋葉が君達の本当の故郷なんだね」
「ま、そういうことでごわす」
そこで、ルーシー、女の子の顔を見つめて、 「じゃぁ、貴方も今は名前が無いの?」
女の子、 「うん。あたしはメイドロボで、内部COREは……」
すると、突然!!!
今まで近くのベンチでいねむりをしていた老人が、にわかにスックと立ち上がり
風の様な速さでホウクウドたちの傍に近づくと、
「お執りこみのところ、失礼するが…… これは、返していただこう!!!」
そういうと、女の子の胸元にぶら下がっていた ”ホイッスル” を掴みとると、
俊足で谷間さんのダンボールハウスの上に駆け上がった。
不意を衝かれた女の子は胸元を確かめると、悲痛の叫び。
「きゃあぁ!!!とられちゃったぁ!!!それは、 ”下呂の笛” なの」
老人を睨みつけるジロゥ。 「うぬぅ。さては、きさまは……」
同じくホウクウド。 「何だ? ちみは」
老人は身を纏っていたマントをゆっくりと脱ぎ捨てる。
そこに現れたのは、長い銀髪を垂らした痩身の男。しかし、瞳の奥には不気味な光を湛えていた。
「なんだ、ちみはっていいますた? そうです、わしの名は 傀儡師 ”下呂”。
破壊人形たちを操っている組織の元締めじゃよ。以後、お見知りおきを」
そういうと、下呂を名乗る老人は不適な笑みを浮かべて、
「そうじゃ、この笛が壊れていないかここでひとつ、確かめて見るかの」
瞬時、黄色い公園に鳴り響く甲高い ”下呂の笛”。
”ピーピリリイイイィィィィイーーーーピピー♪♪♪”
すると、突然。何処からか現れた ”サンバGIRL” と ”サンバ隊”。
”サンバ♪ サンバ♪、サンバ♪ サンバ♪、踊ろよ、サンバ♪”
”ピーピリリイイイィィィィイーーーーピピー♪♪♪”
陽気なラテンのリズムに心が躍る、身体が踊る。ジロゥは堪らず、
「わー、これは堪らんでごわす。身体が、身体が言う事を効かない!」
踊りだすジロゥ。ついでに、一緒に踊りだす、ホウクウド。
冷静なのはルーシーと女の子だけ。
「ねぇ! 何故、貴方はジロゥの様にコントロールされないの?」
ルーシーが尋ねると、女の子は、
「あたしの内部COREは ”純正 TinkoPAT ” それと比べると、X32は、製造元が切り替わるギリギリの時期に造られたので、不安定な ”良品回路” が組み込まれているの。だから、笛の音にコントロールされてしまうのよ」
「じゃぁ、ホウクウドさんが踊っているのは何故?」
すると、女の子はあっさり、冷静に。 「あれは、唯の ”馬鹿” でしょ」
ルーシー、大いに納得。確かにホウクウドは踊りながら少しずつ ”サンバGIRL” の一群に接近している。あれはコントロールされた動きでは無い。
”サンバ♪サンバ♪、サンバ♪サンバ♪、踊ろよ、サンバ♪”
”ピーピリリイイイィィィィイーーーーピピー♪♪♪ グゥエーーップ!!”
大盛況のサンバカーニバル。黄色い公園はラテン一色に塗りつぶされようとしていたが、突然、不意に音楽が途絶えた。ようやく身体の自由を取り戻したジロゥ。
ホウクウドは去っていく ”サンバGIRL” を未練がましく見つめていた。
ダンボールハウスの上の下呂は下を向いてしゃがみ込んでいる。
「うぇうぇうぇぇぇ…… いかん、いかん。
ただでさえ胃の弱いところに中華食べ放題でパンパンになった腹ごなしに公園のベンチで寝ていて直ぐに、ホイッスルを吹きまくるなんて無理じゃった。
気持ち悪くなるはずじゃ。うぇーーっぷ」
ホウクウドは思わず。 「汚ねぇなぁ、あいつ」
すると、最初から青白い顔色が更に青くなった下呂は、
「うぇーーっぷ…… 仕方が無い。お前らごときに勿体無いが、お見せしよう。
我が組織で開発した ”最強最悪の破壊人形” を」
そういうと、両手を高く掲げ、叫んだ。
「いでよ!! 最強破壊獣 ”グレイマンモス” !!!!」
”パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、オーーーーーン”
地響きを鳴らし迫り来るそれは、でかい、でかすぐる。全身灰色の剛毛で覆われた象? いや、マンモス? 21世紀の現代に蘇った2足歩行のマンモス。
「ウワァ!! なん、何だ? こいつは。でも、マンモスってとっくに絶滅したはずですケド?」
有頂天で得意顔の下呂。
「うはははははっは。驚いたか? 我が科学力の粋を尽くした
”orz計画(有機再製Z計画:Organic Reproduction Z Project)”
の成果なのだ。シベリアの永久凍土に眠っていた冷凍マンモスを素体として造り上げた有機体ロボット。お前ら、機械人形は壊れたら修理する必要があるが、こいつは素体を有機体にすることで修理いらずの自己再生を可能にした。つまり、 ”使い捨て” の機械人形とは違うのじゃよ。まぁ、お前らは元々はジャンクだったのだから最初から ”使い捨て” じゃが。うはっははは」
これには、ルーシー、ご立腹。
「非道い! 壊れて使えなくなったロボットを直しもしないで使い捨てなんて。
ロボットが、可愛そうだと思わないの?」
それを聞いて、女の子、眼がウルウル。
「あたしたち、ジャンクあがりのロボットのことをそんな風に思ってくれる人、
初めて見ました。あたし…… 秋葉に来て本当に良かったと思います」
すると、下呂、痺れを切らして、
「ええい、お前らごちゃごちゃとうるさいのぉ。グレイマンモス! さっさと、
蹴散らしてしまえ!!」
マンモスの雄叫び。
”パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、オーーーーーン”
あせるホウクウド。
「やばいぞ。あの巨体で突っ込んでこられたら、ひとたまりも無い」
すると、今まで黙っていたジロゥが、
「おいどんは元々料理ロボなので戦うのは苦手でごわすが……
今はそうも言ってはおられん!
ホウクウドどん、おいどんの戦闘スタイルをお見せしもうす」
ぐわっと、仁王立ちのジロゥ。両手を顔の前でクロスさせると、
「ちえんじ、すぃっちょん! わん、つう、すりゃぁ!!」
ジロォの身体が左右にぶれ、二つの残像が互いに交差して一つの実体に変化する。
そこに現れたのは、全身漆黒に染まった奇妙な姿。
右側が豚、左側はキャベツともやしと麺が入り混じった、左右非対称な造形。
しかし、その二つの瞳は炎の様に赤く、内に秘めた闘志に燃えている。
”漆黒のボディに、真っ赤な瞳”
そう、この組み合わせは確かに、往年の名器 ”TinkoPAT” を彷彿させるものであった。言いようの無い感動にホウクウドは思わず。
「非対称なアンバランスで構成された、未完成な完全体……
これはまさしく……奇怪ダー!!」
戦闘開始!!
「うぉぉぉぉぉおおお」 唸りながらマンモスに戦いを挑むジロゥ。
パンチ、キック、パンチの嵐。
しかし、でかいジロゥよりも更にでかいマンモスは微動だにしない。
「くそぉ、おいどんの攻撃がまるで通じんでごわす」
”パオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ、オーーーーーン”
一歩、また一歩。マンモスは抗うジロゥを押しのけ、歩み続けた。
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