第10話 逃亡者
昨晩、黄色い公園
「あぁ、今日もダンボール運びで儲かったけど。疲れたなぁ……
でも、もう少し貯めればジャマダの ”R8W” が買えるからなぁ。頑張らないと」
谷間さんはそういうと抱えていたリアカーのハンドルを地面に降ろした。
そういえば、チャーナちゃんは?
昼間、チャーナちゃんは秋葉のそこかしこを飛び回りながら、何処かでダンボールが
廃棄されるのを探している。そして発見すると谷間さんの携帯に連絡して、谷間さんがそれを回収に向かう。普段はこういったオシドリ連携プレーで効率よくダンボール回収をしているが、チャーナちゃんはたまに秋葉で珍しい物を見つけると持ち帰ってドラム缶で煮込むのが趣味になっている。
見ると、今晩もいつもの場所のドラム缶で一心不乱に何かを煮込んでいた。
「美味しくなーれ、萌え萌えドギューーーン♪♪」
谷間さんが気になって見に行くと、
「チャーナちゃーん。もう、ご飯にするよ…… あれ? 何だ、この臭いは?」
ドラム缶に近づくと、どんどん変な臭いが強くなる。
”チャーナちゃん、また変な物を煮ているんじゃ?”
「チャーナちゃん、何、煮てるの??? なんか、臭いよ」
すると、チャーナちゃん。 「煮てるの、豚。大きな豚、拾ってきたの」
谷間さん、臭いのを我慢してドラム缶を覗くと、確かに大きな豚が沈んでいた。
でも、これ、ニンニク臭いんですケド。
「チャーナちゃん、ニンニク入れすぎじゃない?」 「入れて無いよぉ」
谷間さん、お玉で豚を突付いてみると、突然!! 豚が起き上がった。
”ズザザザザザザザザザアーーー”
「ぶはぁーーっ…… 良か湯でごわした。旅の疲れが取れもうした」
そういうと、ドラム缶から出る豚。豚の身体からは美味しそうな湯気が立ち昇る。
「出来たぁ、 ”ゆでぶた” 、今晩のおかず」
喜ぶチャーナちゃん。でもそういう場合では無いと思う谷間さん。
「ちみは、誰だ????」
ゆでぶたは汗を拭き拭き、下駄を履いた。
「おいは、 ”ジロゥ” でごわす。遠く中国からやってきもうした。訳あって、
秋葉で女の子を探しておるところでごわす」
チャーナちゃん、いきなり、 「それ、あたしー??」
すると、ジロゥ、
「いや、 ”大きなウサギの耳を付けたメイド姿の小学生ぐらいの女の子”でごわす」
谷間さん、あたりを見回し、
「何か深い訳がありそうだね。
詳しく聞きたいから、おいらのダンボールハウスに行こう」
二人と一頭は、ダンボールハウスに入った。ジロゥは、事のあらましを話し始めた。
「おいどん達は中国で平和に暮らしていもうした。おいは ”料理ロボット”。
女の子は ”メイドロボット” で一緒の料理店で働いてたんでごわした」
びっくり谷間さん。 「ロ、ロボット?? ジロゥはロボットなの??」
すかさず、チャーナちゃん。 「あたしもロボットー」
話を続けるジロゥ。
「おいどん達は人間に奉仕するために造られたロボット。
悪いことをする様には造られていなかったはずでごわしたが、
ある日、謎の組織が現れて仲間のロボット達を次々と洗脳していったのでごわす。
洗脳された仲間のロボットはその組織の命じるままに悪事の限りを尽くす
破壊人形にされてしまったのでごわす」
怒る谷間さん、 「そんな非道いこと。おいらは許せない」
「謎の組織のボスはロボットを洗脳する時、”下呂の笛”という笛を使うのでごわす。この音を聞くとおいどん達ロボットは我を忘れて命令に従ってしまうのでごわした。
そこで、ただひとりこの笛が効かない女の子と、おいどんのふたりで謎の組織のボスの持つ ”下呂の笛” を盗んで逃げ出したのでごわす。
中国を脱出してこの日本に上陸したところまでは順調でごわしたが、組織の追手に阻まれておいどんと女の子は離れ離れになりもうした」
「ふーーん…… それで、その子を探してこの秋葉まで来たんだね」
「そうでごわす。女の子は中国で働いている頃から秋葉へ行きたがってもうした。
秋葉はある意味、おいどん達ロボットの故郷でごわす」
谷間さん、納得。でも、ふたつほど判らないことが。
「大体のことは解ったんだけど。ジロゥは何故、下駄を履いて変な鹿児島弁を話すの? あと、このニンニクみたいな臭いは何?」
すると、ジロゥ、遠くを見つめて。
「秋葉に来る途中で、公園に何かド偉い人の銅像がありもうした。
失礼ながらその情報をインスパイヤさせてもらったんでごわす。
あと、ニンニクの臭いは、偶然入った店で食べたラーメンのうまさに感動してから
日本の食文化研究のために色々な店で食べ歩いていたためでごわす。ちなみに、その店の名前をインスパイアして日本名を ”ジロゥ” にしますたでごわす」
”上野の西郷さんが履いているのは下駄では無くて草履なんだけど。
あと、あれは…… まぁ、美味しかったんならいいか。
微妙に突っ込みたいところはあるが、まぁ良しとしよう。”
それより、
「その ”下呂の笛” って、ジロゥが持っているの?
組織の追手はそれが目的だと思うんだけど」
ジロゥは困惑の表情。
「悪いことに、行方不明になったその女の子が持っているのでごわす。
早く、見つけないと……」
谷間さん、少し考えてから、
「おいらも明日秋葉中を歩くからその子を探してみるよ。
それと、ホウクウドさんにも一緒にその女の子を探してもらおう。
明日、ジャンク街を散策するつもりって言っていたし。
でも、たぶんその組織の追手も秋葉を探索しているかも知れないから、
暗号化した伝言を考えないといけないかな。
まぁ、いくつか適当に考えて杜のみんなに伝えておけばいいや」
谷間さん、一転して明るい表情。 「ジロゥ、泥舟に乗った気でいていいよ♪」
ジロゥ、深々と頭を下げ、
「頼み申した。
おいどんも明日、秋葉の飲食店をいくつか巡って探してみるでごわす」
「さぁ、そうと決まったら、今日はもはや茎水飲んで寝るしか」
夜は更けていく。
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