第9話 うさぎとぶた

ふたりは微妙な距離を置いて、ジャンク巡りを再開した。

「中央通り沿いはお巡りさんが居て危ないので一本隔てたDOS/V通りを歩こう」

この通りの右側に ”杉本” 、末端は ”アク”。

遙か先は、 ”ジャンクの杜” へと通じる道。


ホウクウドは杉本の店頭でルーシーを待っていた。

「ルーシー来てごらん、ここはジャンクで一杯だよ」

ルーシー、 ”杉本” の店内を見渡すとちょっと不満そう。

「うーん…… ここは、ちょっと違うんですケド。

何ていうのか、さっきの ”印旛” みたいに、声が聞こえないの」

何やら不思議な事を言っておられる。確かにここはパーツ系のジャンクが豊富。

ジャンクパソコンはあまり無いかな。


「パソコンって他の電気製品と違って、CPUとメモリとHDDが入っているだけなんだけど ”意識” の様なものがあるように思うの」

「え? 意識?……

そう、長い間使っていた道具には日本では付喪神(つくもがみ)が宿るっていうね」

ルーシー、まじビックリ。大きな眼を更に大きく開けて、

「ま、まじデスカ? じゃぁ、あたしに話しかけてくるのはその神様かしら。

これも神降ろしの力?」


ちょっと考えてからホウクウド、

「いや、違うと思うよ。ルーシーが感じるのはパソコンだけでしょう? 

付喪神っていろんな道具に宿るみたいだから。それにパソコンってまだ生まれたての道具。付喪神が宿るには九十九年かかるそうだから無理でしょ」

「ふーん…… じゃぁ、あの声って何なのかなぁ」 とっても、不思議なルーシー。


それはそうとさっきから股間の鳥皮がネチョネチョして気持ちが悪い。

やっぱり、生の鳥皮はよそうと思うホウクウドであった。


さて、 ”アク” の前まで来ると、左に曲がってジャンク通りに戻るか。

と、思いきや、なんとルーシーは右に曲がった。

どうやら、お目当ては ”ガタポン会館” か? ”ルーシー腐女子説” 更に濃厚。


すると、突然、前方から大きな音が、


”ガラガラガランガラガラガランガラララッラランガランガランタッタッタ”


間髪を入れず。 「く、食い逃げですたぁい!!!」 と大きな叫び声。

どうやら、食い逃げは博多とんこつラ-メンであったようだ。

その直後、 ”アク” 前から中央通りを見ていたホウクウド達の目の前の歩道を通過する異様な物体。豚? いや、直立歩行する豚? しかも、下駄を履いて大きな音を鳴らしながら走っている…… 何? あれ。それは一瞬の出来事。 

”下駄を履いて走っていく大きな豚”


「ねぇ、ルーシー…… 見た? 今の」

ガタポン会館店頭にいたルーシーは、もっと近距離でみたはずだ。

「確かに、豚よ…… ”大豚ダブルヤサイニンニクマシマシアブラカラメ” 」

”ルーシー、それはもしかしてジロリアン???”


それはともかく。

いまだに良く判らん谷間さんの伝言。謎のお釜サブちゃん。そして今の連続食い逃げ犯、下駄豚。何か大きな謎が。秋葉の何処かで何かが密かに動いている気配。

縦糸と横糸が複雑に絡み合う中、ジャンク巡りの終着点は?


「戻りましょう、ホウクウドさん」 そういうとルーシーはUターン。

「ガタポン会館は行かないの?」

「なんかこっちはヤバイような気がするの。変な豚もいたし」


戻ってジャンク通りを右に曲がれば ”QC” 方面。

ジャンク街の北限 ”R庭” まで行けば取り敢えず終了。後は、電気街の方まで南下するだけ。電気街の方が冥土率が高いので ”うさ耳メイドさん” に遭遇する可能性は高い。 「よーし。いよいよ、ジャンク街北限を目指そう」  

ふたりはジャンク通りを右折。


でも、ルーシー、熊カスに注目してるじゃん。

可愛い子だと一杯おまけしてくれるかも? 

そういってるそばから、もう熊カス袋を抱えてご満悦。ルーシー食べ歩き? 


ちょっと行くと、 ”いいっ!コネクト” 、 ”QC” 。

ジャンクノートの声が聞こえてくる距離かな?

「ルーシー、 ”いいっ!コネクト” はNEC系のジャンクノートが多いかな。

”QC” は昔は不治痛だったんだけど、今は何でもあるよ。

ちょっと、入ってみる?」


すると突然。怪訝な表情のルーシー?


「待って,ホウクウドさん…… 何か、微かに聞こえるの。

でも、今までのジャンクパソコンでは無い、もっと強い悲しみの声が…… 

助けを求めている。あたし、行かなくっちゃ!!!」


突然、走り出すルーシー、一体、何処へ???

訳が判らぬまま後を追うホウクウド。


ルーシーは ”QC” 横の小道に入った。

ここを抜けると、古いジャンクSHOPが点在する通り。

その通りを左に曲がって、ちょっといったところで立ち止まるルーシー。

ようやく追いついたホウクウド。そこは、少し前に閉店になった店…… ”Reボン”

「ハァハァハァ…… ルーシー、早いから…… どうしたの? 

ここは、閉店した店だよ」 その問いかけにも答えずただ一点を見つめるルーシー。


見ると…… ”Reボン” のシャッターが半開きになっている。

”あれっ? 変だな。 開いているはずは無いんだけど……”

ルーシーは熱病にうなされた様に小さな声で呟いた。 


「うさ耳メイドさんが…… 泣いているの」


シャッターは外から無理にこじ開けた様に変形していた。

ホウクウドは恐る恐る中を覗いてみると薄暗い室内に何やら倒れている人影。

暗さに眼が慣れてくると少しずつシルエットが浮かび上がる。

小学生ぐらいの子。白っぽいメイド服を着ている……

そして…… 頭上に大きな二本の ”ウサギの耳” !!!


「キ……キ……キ!キッ!……キタ……キタ!……キタ!!……キタ━━━!!!」


振り向きざま、慌ててシャッターに頭を打ちつけながら、ホウクウド

「ルーシー あ、痛ッ…… いた、いたよ、 ”うさ耳メイドさん” 。

今度こそ本物だって」


それを聞くとルーシー、はっと我を取り戻し中に入り、メイドさんの横へ。

そっと、抱き起こすと、

「大変! この子、凄い熱。ここじゃ駄目よ。お水で冷やしてあげなきゃ」

”近くと言えば…… そうだ! 黄色い公園の谷間さんのダンボールハウス。あそこに水もあるし” 「黄色い公園だ」


そういうとホウクウドはメイドさんを持ち上げて背負い、黄色い公園に向かった。

後に続くルーシー。最初に谷間さんのダンボールハウスの入り口を叩くと、どうやら、留守の様子。 「仕方が無い。ひとまずあそこのベンチに寝かせよう」

幸い、老人が一人居眠りをしているだけで他のベンチは空いている。


そっと丁寧に寝かせると、ルーシーに見ててもらってハンカチを濡らしにいく。

濡れたハンカチをルーシーに渡し、取り急ぎ熱を冷やす。

メイドさんの表情はあまり芳しいものでは無かった。

”こんな子が何故、あそこにひとりで倒れていたんだろう?”


メイドさんの様子を調べていたルーシー。強張った表情で、

「この子、足に怪我をしているみたい…… スカート揚げて見てみるから、ちょっと後ろを向いてて」 「う、うん」 後ろを向くホウクウド。


しばらくして、ルーシーの悲鳴 「きゃー!!!」

「どうしたんだ? ルーシー!」 振り向きざま、ガン見するホウクウド。

大きく眼を見張るルーシー。 「何てこと? こ、この子…… ロボットよ……」

「マヂデスカ!?」


ロボットと言えばチャーナちゃん。でも、チャーナちゃんは最初は ”南極○号” の様な造形だったが変身したら可愛くなった。

この子はこのままで十分人間の小学生くらいに見えるほど華奢で繊細な造形。

耳にちょっと被るくらいのショートカットの黒髪で、前髪は真っ直ぐに切りそろえている。丸い顔に丸い鼻。小さい耳と小さい口。眼だけ大きくてちとアニメ顔。

手足は細くて華奢そのもの。もちろん、ツルペタ。

一体全体、何処の誰に何の目的で造られたのか一切は謎。谷間さん、HELP……


しばらくするとメイドさんの熱が下がってきた。でも、今、何か聞けるような状態では無い。あのメッセージの意味を聞けたら何か判るかもしれないのに……


すると突然、遠くの方から大きな音が


”ガラガラガランガラガラガランガラララッラランガランガランタッタッタ”


黄色い公園の入り口に現れたのは……な、な、な、なんと!! あの、下駄豚!!!


「ハァハァハァ…… やっと…… ようやっと、見つけもうした」

そういうと凄い勢いでこちらに走ってくる。驚くホウクウド。脅えるルーシー。


”ガラガラガランガラガラガランガラララッラランガランガランタッタッタ”


下駄豚が近づくにつれ、何やら異様な匂いが? 思わず顔を背けるルーシー。

「……!? 何? これ?…… ニンニクの匂い……

いやぁぁぁぁぁー! 臭すぎるんですケド ……ォ、ォェッ……」


迫る下駄豚。良く見ると浴衣の様なものを着ていて腰に手ぬぐいをぶら下げている。

しかし、デカイ…… 2mぐらい。 ”コッ、コワ━━━━━━━━━━━ッ !!!”


立ち止まり息を切らしている下駄豚。ホウクウドが恐る恐る尋ねる。 

「何だ、ちみは?」

すると下駄豚。ど太い声で、

「おいは、 ”ジロゥ” でごわす。訳あってその子を探してもうした。

ハァハァハァ」

”下駄を履いた豚”。名前は ”ジロゥ”。 つまり、 ”下駄ーのジロゥ” ? 

何処かで聞いたような、無いような????”


ジロゥはホウクウドの様子をしげしげと眺めて、

「失礼でごわすが、おはんは、ホウクウドさんでごわすか?」

ホウクウドは初対面のジロゥが何故知っているのか不審に思ったが、

「そうです。わたすがホウクウドです」


すると、急にジロゥの表情が解きほぐれて、

「そうでごわすか!…… いやぁ、助かりもうした。

谷間さんからホウクウドさんに相談するように言われていたのでごわす」

「えっ! 谷間さん? 谷間さんと知り合いなんだ」

びっくり! ホウクウド。すると、たまらず、ルーシーが尋ねる。

「それで、ジロゥさん。この子を探していた、その訳を詳しく聞きたいんですケド」


ジロゥは静かに語り初めた。  

「実は、昨晩。谷間さんにもお話しもうしたでごわすが……」

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