第7話 謎の釜

それはそうとして、何か満たされない思いを残すがチャーナちゃんにやられた右頬の痛みも消えたのでジャンク巡りを再開しよう。さて、このジャンク通りをこのまま北上してもいいんだけどいろいろジャンク屋を巡るとなるとジグザグに行くしかない。

最初はここから一番近い ”PC網2” へ。 と、いうことでルーシー、行くよ。 「はーい♪」


”まん○○らけ” の手前を右に曲がると、右目前はベルばら、遠くに祖父本店。

左側は有名なとんかつ屋さんとその先の登山用品のお店。でも、用がないからスルー。で、登山用品のお店の先を左折して小道に入ります。

ここが自作PC系のパーツ店が揃う ”自作通り” なんだな。

”PC網2”は、もうすぐ。 ルーシー、わくわく。

右側、キーボードが一杯ある店と祖父裏口。左側、ドス腹本店。

さぁ、やってきました ”PC網2”。


ルーシーは1Fの中古には興味が無いらしく、左側の階段を一目散に駆け上がっていった。 「あ、危ないよ!」 と、言いながら下から覗くホウクウド。 

”残念。アンダーはキュロット…… なんだー”


2Fはちと狭いがいろいろなジャンクが一杯。ルーシーは右往左往。

すると、なにやら見知った人影。 

「あ、キモオジ殿。こんにちは」

「ホウクウド殿、こんに、ちわわ。あれっ、可愛い娘、誰? 冥土さん?」

「アンシーの妹でルーシーです。今、ジャンク巡りをしてるところ。

まだ、ここが最初かな」


ルーシーはジャンクノートの検分中。夢中になっています。

すると、キモオジ殿、突然。


「そうじゃ、谷間さんに言付かっていたことがあった。確か、 ”ふるさと冥土紀行” じゃった」


”ふるさと冥土紀行????? こりゃまた、何のことやら?”

「また、谷間さんですか? さっきチャーナちゃんから ”ジャマダを探せ” 

って聞いたんですケド。今度は ”ふるさと” ?」

キモオジ殿、ちと困り顔。  

「いや、わしも詳しいことは聞いておらんノースカロライナ」

ホウクウドも、ちと困った。”ふるさと” って、何? ”冥土さん” も沢山いるし。

「判りました。後で、谷間さんに逢ったら聞いておきます」


ルーシーは一通りジャンクを堪能した様子。もう、満足したのかな。

「ホウクウドさん、次、行ってみません?」

「それじゃ、キモオジ殿、また後ほど」  「さようなら、おじ様」

二人は、それぞれ別れを告げると ”PC網2” の階段を降りた。


さて、次は ”印旛” だけど、Tゾネを横断していこう。 「ルーシー、こっち」

Tゾネは、自作オタの人達で満員状態。ルーシー可愛いから、ちと心配。

”もっと、おじさんに密着して歩いてね”


Tゾネの新品PCパーツに興味を持つかなぁと思っていたら、意外にもルーシーは無関心。スルー。Tゾネを横断してジャンク通りに出たところで、ちと尋ねると、

「ルーシー、Tゾネはあんまり面白く無かったかな?」

するとルーシー、渋い面持ちで、

「うん。あたし、新品パーツには興味が無いの。だって、壊れていないから悲しそうじゃないんだもの」


これは、不思議なご意見。壊れていると悲しそう?

「ルーシーはパソコンの気持ちが判るの?」

「うん、判る様な気がするの。だって、今まで元気に使われていたパソコンがちょっと壊れたり調子が悪くなっただけで捨てられてジャンクになってしまうんだもの。

もしかしたら、まだ使ってもらえるかもしれないのに。

そんなパソコンに触れると、悲しい気持ちが伝わってくるの。

だからそんなパソコンひとつひとつを直してまた使えるようにしてあげれば

パソコンに喜んでもらえるかなぁって……  あたしって、変ですか?」


そんな大きな瞳で見つめられると、おじさんは困ってしまってワンワン。

「いや、変じゃないよ。ルーシーは他の子と違って、”再生の力” があるから余計にそう感じるのかもしれないね」

”ジャンカーって、人それぞれだけど。

こんな理由でジャンクパソコンに興味を持つのもいいんじゃないの”


ホウクウドは、今とても優しい気持ちに触れて、肌寒い冬の木枯らしも関係無くポッカポカ。しかし、散財が続いて財布の中はカラッカラ。ルーシー、財布の中も再生キボンヌ。


さぁ、次はジャンク通りを北上しよう。


ふたりが、Tゾネから ”印旛” へ向かおうと足を進めた矢先。不意に前方から大きな音が。


”ガラガラガランガラガラガランガラララッラランガランガランタッタッタ”


すると、間髪を入れず、 「く、食ぅい逃ぃげだぁー!!!」  と大きな叫び声。


奔り寄るホウクウド。見ると食い逃げは、廃丼だった。

廃丼の店員が後を追おうと周りを見渡すも時既に遅し。

食い逃げ犯は中央通り方面に逃げ去った後の様子。


「珍しいな、食い逃げなんて。どんな奴だろう? 犯人は」

ホウクウドはちょっと追いかけてみたくなったが、ルーシーを見ると、

そんなことはどうでもいいご様子。早く ”印旛” へ行きたがっている。 

「ホウクウドさん、早くぅー」

ホウクウドの腕を掴んでぐいぐい引っ張るルーシー。  

「仕方無いなぁ」 一緒に ”印旛” へ駆けていく二人。


中はジャンカーやらテンバイヤーやら外人さんやらで、すし詰め状態。

でも、ルーシーは喜んで飛び跳ねておおはしゃぎ。  キタ――♪キタ――♪

中央のジャンク箱の中を嬉しそうにかき回しているルーシー。

もう好きなようにさせるしかない。


すると奥に顔見知りな人が。 

「こんちは、NBさん」

「あっ、こんにちは。ホウクウドさん。今日は、可愛いお連れさんが一緒ですね」

「うん。これ、アンシーの妹のルーシー。ジャンク巡りの最中。なんか、ここが気に入った様子なんです」


すると、NBさん、神妙な面持ちで。 

「聞いてます? 谷間さんからの伝言」

「うん。チャーナちゃんとキモオジ殿に聞いたよ。意味、判んないけど」


NBさん、声を潜めて。

「実は、私も言付かっていることが。それは、 ”下呂温泉ピーヒャララ” です。

判ります?」


予想を上回る、第三の伝言。ここに至っては冗談にしか思えない。

谷間さん、何かやばい薬でもやって無いか?

「いや、全く判りません。谷間さんは一体、何を伝えようとしているんでしょうか」


すると突然、ルーシーの歓声があがった。

「キャァァ━━━━ VAIBOー! ピンクの可愛いVAIBOだわー♪」


VAIBOと聞いちゃ黙っておれん。

「どれ、どぉれぇ。おじさんに見せなさぁい!」

見ると、VAIBO CR。女の子向けの可愛い機種。

これはルーシー、お眼が高い。しかし、良く見ると……

「でも、液晶割れているし、NG、NGだから、結構、難儀な子だよ。

ルーシー、大丈夫?」

ルーシー、聞いちゃいません。もう、既にカウンターに持っていっちゃってます。

「ホウクウドさん! 早くお金、お金♪」

”結局南極、払うのは俺? まぁ、可愛い子には勝てないから”

ホウクウドは、しぶしぶ財布を広げると、 「店長、負けて」


「ホウクウドさん! 早く♪」

待ちきれないルーシー。仕方なくお買い上げ。チーン!

「はい、ルーシー。ピンクのVAIBO、お待たせ」

ルーシーのエメラルドグリーンの瞳にハートマークの星がキラキラ。 

「ピンクVAIBO、ゲッツ!!」

お気に入りのものを手にしたルーシーは小躍りして店を飛び出していった。

「あぁ、もう見なくていいの?」


NBさんに軽く会釈して別れを告げると、ホウクウドはルーシーの後を追って店を出た。しかし、その様子を奥でじっと眺めていた人影が同時に店を出たのには気づかなかった。


「ルーシー、待ちなさい」

ルーシーは ”印旛” から少し北上すると、”カフェウーロ”の入り口でホウクウドが追いつくのを待っていた。 

「ホウクウドさん、こっちこっち。ちょっと、ここで休みましょう」

ジャンク通りの真ん中あたり。ここでちょっと、小休止。

店の入り口近くの席に座ると、ルーシーは直ぐにVAIBOを広げた。余程、気に入ったのだろう。飲み物を適当に注文するとホウクウドはその様子に見入った。


すると、二人の後から新客が来店。 「奥さん、米屋です」

店の一番奥の席に座った。


「この子、さっきから泣いているの。まだ起動するのに液晶が割れてしまって

痛いって」ルーシーはそんなことを呟きながら器用にHDD収納部の蓋を開けた。

「あっ、具入りね。これなら、完全に治せそう。見ててね」


そういうと両手を組んで何やら詠唱。ルーシーの指先が緑色に光りだした。

その指先で割れた液晶の表面を何度か撫ぜていくと、何という奇跡。

液晶の割れていた部分が融合していく。

そのうち見た目ではすっかり割れの無い一枚の液晶パネルに再生した。

次に、バッテリーを撫ぜる。そして、HDDを何度か撫ぜている。

最後にPC全体を両方の手の平で円を描く様に数回撫ぜると完了した様だ。


「ふぅ。終わりました。消去されていたOSとバッテリーの電気容量も元に戻せた

はず。これで、この子は大丈夫。では、スイッチON!」

液晶画面にお決まりのVAIBOロゴが表示され、そのうちOSが起動した。


”道具も使わないでVAIBO、復活しちゃったよ。これって、すごくね?

あと、ジャンクや中古のHDDって特殊な方法でデータ削除してるから普通は

復活できないんだけど??……??”


ルーシーが操作して動作確認していると、大きな声で来店する者が。

「こんにちは!! ホウクウドさん。何してるんですか?」

「あっ、葵さん。こんにちは。今、アンシーの妹のルーシーがVAIBOを

直しているの」

葵さんは同じ席に座ると、ルーシーに挨拶。

「こんにちは。アンシーさんの妹さん? かっわいいですね」

「こんにちは。いつもそう言われます」

にっこり笑ってそういうと、ルーシーは操作を続けた。そのうち、


「うん、大丈夫ね。この子の元のオーナーは、えーと25歳のOLさんね。

お姉さんだわ」

エッ?


「MyDocumentsの下にフォルダがあるわ」

ナン…ダト!?


「鳥の名前のフォルダね。写真を撮るのが趣味みたい」

ホウクウド と 葵さん …ゴクリ…


ルーシーは澱みなく大きな声で言い放った。 

「 ”ハ○ドリ写真” ってタイトルね!!!」

ホウクウド と 葵さん と 謎の客  ナ、ナンダッテー!!


「ねぇ、 ”ハ○ドリ” ってどんな鳥??」

ホウクウド、すかさず 「専門家の葵さん答えてよ」 

葵さん、しどろもどろで、

「え、え、えー、それは…… 南米に棲息する珍しい鳥で。薄暗いところを好む習性があって。雄と雌で上になったり下になったりする様子を写真に撮ります」

ルーシーは感心した様子で、

「流石、専門家! 撮りなれているんですね。あたしも一緒に撮りたいなぁ……」

ヒィー、ガタガタ  ”そんなことが知れたらアンシーに殺されます”


ルーシーの指先がマウスをクリック、 

「ちょっと、見てみよう。どんな鳥なのかしら?」


「ルーシー、それは後でいいから……あの、このVAIBO、5万で譲って!!!」

「え? これ、ホウクウドさんがお金出したから、そのまま譲りますよ。

あたし、直ればOKなんで。大事に使ってくださいね♪」

そういうとルーシーはVAIBOをホウクウドに手渡した。 


”なーんて、優しい子。ルーシー大好き”

ホウクウドは満面の笑みをたたえて最敬礼。 

「か、家宝にさせていただきます!!!」


横から小声で葵さん。

 ”ホウクウドさん。後でUSBメモリ渡しますから。僕の分、よろしく”

”了解しますた”


すると、後ろから謎の客がUSBメモリを手渡し小声で、 

”あのぉ…… 私の分も、お願いします”

”了解しま…… ハッ?  あれっ?? どなた?”


「ホウクウドさん、離れて!!」

葵さんが叫ぶ。ホウクウドとルーシーは、ピンクVAIBOを抱えて窓際に飛んだ。


瞬くして、葵さんは静かに唱えた。 「変身……」

眩い光の点滅、葵さんの身体に蒼い戦闘スーツが装着された。

と、同時に謎の客は間合いを確保するべく一足飛びにその場を離脱した。


「さっきから僕のイーグルアイに不審な反応があった。どうやら、貴様! 人間では無いな!!」


久しぶりに説明するよ

通常時の葵さんこと葵阿比留さんは戦闘時にはコードネーム ”BlueEagle” に変身する。鳥形の蒼い戦闘スーツは、谷間さんの超硬化ダンボール装甲と同様に絶大なる戦闘能力を発揮するんだ。しかし、特筆すべきは ”イーグルアイ” と呼ばれる探査能力。これは、肉眼では見えない特殊な波長の光をキャッチすることによって瞬時のうちにお宝ジャンクを発見し、精査する羨ましい能力なんだな。


全身を暗闇色に包んだ謎の客は表情ひとつ変えることなく、

「こんなに早くばれるとは思わなかったわ。貴方、いい勘してるわね…… 

にやにや」


BlueEagleは臆すること無く尋ねた。

「何の目的で、ホウクウドさんの後を付かず離れずつけていたんだ?」

「あら、あたし、そんな事したかしら? いやーねぇ、勘違いよ…… にやにや」


そういうと、怪しい視線をホウクウドの尻に注いだ。

「まぁ、少しは掘ってみたい気はあったかも?…… にやにや」

すると、ルーシー超反応!!  

「ち ょ う す げ ぇ ! BoysLove? やおい穴?」

”ルーシー…… まさか、腐女子?”


謎の客は、ちと動揺 

「そ、それはそうと。一応、自己紹介しとくわね♪…… にやにや」

”え? 悪役が自己紹介?”

「そう、何を隠そう、以前ホウクウドに倒された三平さん(本当はアンシーに倒された)の後釜、っていっても ”お釜” じゃなくて後任ね。名前は、”サブロゥ”。

間違えないでね。”サブ” じゃないわよ。 ”米屋のサブちゃん” って呼んでね♪……にやにや」

”サブちゃん???? 妙になれなれしいな、この…… お釜 ”


お釜は店内が引きまくっているのも構わず、

「あと、そうそう。あたし、今回の出番はここだけだから。

でも次回ではかなり重要なキャラクターだから、それまで絶対に忘れないでね♪……にやにや」

言いたいことだけ言ってしまうと、お釜は一目散に店外へ出て行った。

「それじゃ、またね♪ …… にやにや」


まったく意味が判らないまま、後に残されたホウクウド達。

狭い店内を木枯らしが吹きまくっている。

「な、なんなんだったんだ。 ありゃ?」

「僕も変身して損しちゃった」

「BL、素敵……」

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