第5話 超越人

その少し前。


ホウクウドは中華食べ放題の店に居た。

中華食べ放題といいつつも、食べ放題メニューに ”鰻重” があったことは秘密である。当然、そのすべてを平らげたホウクウドはまだ飽き足らず、 ”上海焼きそば” のおかわりを待っていた。


その時、店内のモニターが秋葉の映像を映した。

巨大な牛が秋葉の街を破壊している映像。そして、逃げ惑う人々。 

「こ、これは……」

”上海焼きそば” を諦め、金も払わずに外に出たホウクウドはその惨状に絶句した。

パーツ街は、ほぼ壊滅。ジャンク街も風前の灯であった。


ホウクウドは考えた。

”あの巨大牛を倒すためには、やっぱり ”巨鯨” を使うしかない。

でも、あれって凄く腹が減るうえに、3分しか持たないから…… 

あんまり使いたくないなぁ”

だがもはや悩んでいる時間はない。刻一刻、秋葉の街が破壊されつつある……

ホウクウドは決意した。今、変身の時!

服を脱ぎ捨て全裸になって低く呟く。 


「巨大化MAX! 変身」


ホウクウドの全身を巨大な ”鯨” の幻影が覆いつくす……


ジャンクの杜(新店舗)


最初にそれに気づいたのはアンシーだった。

「見て! 中華食べ放題の店付近がボウッと光っているわ」


チャーナちゃんの安否を気にして半べそをかいていた谷間さんもアンシーが指射す方向を眺めた。光は見る見る内に巨大な人形を形成した。 ”光の巨人” 誰もが同時にそう認識した。


ホウクウドは、自分の視線の高さに驚いた。ほぼ40mの高さ。

そして、中央通りを挟んだ対岸には、巨大な黒牛がこちらを睨んでいる。


”まぁ、とにかく。やるしかないわなぁ” 

ファイティングポーズをとるホウクウド。

しかし、勢い余って目の前の建物に膝をぶつけた。 ”いてっ!” 

崩壊するU。 ”U壊滅”

 

暫く、黒牛との睨み合いが続いた。


肉ビル最上階


「キタ━━!  キタ━━━━━━━━!!   キタ━━━━━━━━ッ!! キタワァ !!

ヤバ、ヤバ、ヤバ、ヤッバァ! 来ちゃったよぉ。 

やっぱり来ると思っていたんだよなぁ。 

エェ━━━━━━━━━━!!? 今日、仏滅じゃん。

誰よ?今日、やろうっていった奴。もう、アホかと、馬鹿かと。

大体、あいつが来ちゃったら、駄目なのよ。一所懸命、計画して、準備して、やっと成功するかと思ってたのに。あいつ、3分で解決しちゃうんだぜ、いつも。 

あいつ、最後は必ず、 ビ━━━━━━━━━━━━━━ム 一発だからな。

やる気無くすんだよ。 ウワァァ---------ン!!!!

さてと、わし、もう帰るから。異界に。もはや、亀太カキP食べて、茎水飲むしか。

あと、特選極上霜降黒毛和牛肉 5萬8千トンの請求書、回しておくからヨロ。

それにつけても金の欲しさよ 」


ジャンクの杜(新店舗)屋上、秋葉特設会場


NBさん 「全国5億8千万のプロレスファンの皆様。今宵、秋葉特設会場からお送りします、超重量級メインエベントゥ。実況は、わぁたくし ”俺の指見て女が泣いた” 秋葉の貴公子NBと、解説は、 ”銀でも黒でも構わねぇ、パスモ無用” の御意見番キモオジ殿でお送り致します。さて、今日の試合、どう分析致しますか?」


キモオジ殿 「そうですね。突如彗星の如く登場したヘビーファイター黒牛。かたや、200年ぶりにリングに上がった歴戦の勇者、超越人。まったく予想は出来ません。見逃せない展開になるのではないでしょうか?」


NBさん 「ありがとうございました。さて、試合の方は既に始まっておりますが、両者、激しい睨みあいの膠着状態」


”ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお”


NBさん 「あっ!どうやら、黒牛。持ち前のパワーを生かしたボディアタックの模様。超越人目掛けて突っ込みました。激突!あっ、超越人、黒牛の巨躯を受け止めました。しかし、流石に若干後ずさり。堪えております。超越人の足元で今、”愛痕” の並びが踏み潰されています。後が無いぞ!超越人。今の受け、どうでしょうか?」


キモオジ殿 「はい、いやぁ、感心します。プロレスの試合では皆さん、華麗な攻撃技にばかり注目しますが、今の超越人の受け。避けようと思えば避けられるものを真っ向から受け止める。これがまさしく、プロレスの真骨頂と言えます。どんな技も身体で受け止める。正に超越人ならではの古式ゆかしきストロングスタイルを見せてもらいました」


NBさん 「さて、状況は変わって参りました。超越神、腰を深く落として黒牛の首を左手でかかえております。この体制は?もしや、大技か?」


”シャワァ”


NBさん 「おーっとぉ!もぉちあげたぁ。超越神、黒牛の5万8千トンを持ち上げました。そして、そのまま自らも一緒に…… おぁとぁおしたあ!黒牛の巨躯を後方に落としましたぁ」


”ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお”


キモオジ殿 「これは! 綺麗な ”ブレインバスター” ですね。効いていますよ、これは…… しかし、良く見てください。落としたところが悪いですね。学校の真上です。ついでに、寺と ”印旛” が壊滅しました」


NBさん 「そう言えば、黒牛は大人の事情で学校は避けていましたから。更に、黒牛に取り込まれているはずのチャーナちゃんが今のショックで壊れていなければいいんですが…… 超越人、空気読みませんからねぇ」


谷間さん「もぅ、ダメポ……」


NBさん 「黒牛、脳震盪でしょうか?首を振っております。しかし、何とか立ち上がりましたが…… 周りを見て、怒っております」


キモオジ殿 「やっぱり、ちゃんと考えていたんでしょうな。そういう眼で見ると、先程からジャンク街を破壊しているのはどちらかと言えば超越人のほうです。もっと、気をつけて欲しいものです」


NBさん 「さて、立ち上がり再度、睨みあいになってジリジリと右方向に歩みながら間合いを測っております。しかし、いけませんねぇ。黒牛は、黄色い公園に移動したのですが超越人は既に踏んでいますよ、 ”杉本” を」


キモオジ殿 「やはり超越人の配慮が足りませんな。これでは、ジャンク街を守っているのか壊しているのか判りません」


NBさん 「さぁ、今度は黒牛。怒りのパワーが再生した角の間に満ちてきています。これは、電撃ビームか?…… やはり、そうでした。今、超越人の足元に発射!」


”ビビビビビビビビビビーッ”   ”ショワッ!”


NBさん 「超越人、右側に飛んで避けました。しかし…… その下敷きになって ”ジャン5” が倒壊しました」


キモオジ殿 「もう、ジャンク街は ”QC” 一帯しか残っていませんねぇ」


”ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン、ピコーン”


NBさん 「おや? まだ2分ぐらいしか経っていないのに超越人の体が点滅を始めました。ちょっと早すぎかと思いますが?」


超越人 

”やば。そう言えば、普段からバイ○グラ無しでは3分持たなかったな。どうしよ?”


NBさん 「超越人。何やらソワソワしてきましたが。大丈夫でしょうか?」


キモオジ殿 「もう、そろそろお約束のあれが……」


”ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお”


NBさん 「あっ、黒牛。再度、ボディアタック!」


超越人 ”シーハー シーハー オーイエス ……

あっ、あっ、あっ、あぁっ、もうダメ……  潮を、潮をーー吹くぅーーーー”


NBさん 「超越人、黒牛の目前でうずくまる! 出たぁ!!!」


ビ━━━━━━━━━━━━━━━━ム


超越人 ”しまったぁ!”


ビームは黒牛を直撃した。同時に、秋葉全域に響く大音響と伴に大爆発!!!

黒牛は木っ端微塵に砕け散り四散した!!

そして…… ジャンク街は広大な更地と化した!!


谷間さん

「うあ゙ぁあ あ゙ぁあぁ゙ああぁぁうあ゙ぁあ゙ぁぁ、

ヂャ゛ー゛ナ゛つぁーん!!!!!!!!!!!!!」


NBさん 「本日の超重量級メインエベント。勝者、超越人。決まり手はお約束の

ビ━━━ム。やっちゃいましたねぇ、キモオジ殿」


キモオジ殿 「そうですね。やるとは思ってはいたのですが、ここまで、やってしまうとは。どうすんでしょうか?明日から」


NBさん 「あっ、今、超越人が飛び立ちました。いや、逃げちゃいました」


”シュワアッツ”


キモオジ殿 「お約束通り、来週には何事も無かったかの如く元に戻っていればいいんですが。まぁ、超越人は何でもありなので」


NBさん 「それでは秋葉特設会場からお送りしました本日の試合。そろそろこの辺で皆様とはお別れの時間です。それではまた来週、ご覧のCHでお会いいたしましょう。さようなら」


ジャンクの杜(新店舗)


「おーい、杜のみなさーん」

今だ土煙が舞い上がっているジャンク街の方向からホウクウドがやって来た。

「ホウクウド。この大変な時に一体何処にいたの?」

「いやぁ、ごめん。中華食べ放題の焼きそばがなかなか来なくて」

アンシーは内心ホッとした。 「もーぅ、心配だったんだからねぇ」


ホウクウドは引きずってきたお土産を見せた。

「お詫びに、これ拾ってきたんだ。美味しそうな ”黒牛の尻尾” 」


そう言うと、長い尻尾を手繰り寄せた。すると、先端に何か薄汚れた黒いものが。

アンシーがそれに近づいて良く見ると、


「あれっ?あれ、あれ?あーっ。チャーナちゃん???チャーナちゃんだぁ」


脱兎の如く飛んできた谷間さん。言われたものを見ると、確かに薄汚れたチャーナちゃんだった。谷間さんはおおはしゃぎ。   

「チャーナちゃん(ハァト)!!!!!!!!」


「う゜う゜ーっ、う゜う゜ーっ、う゜う゜ーっ」

チャーナちゃんは必死に尻尾に噛み付いていた。しかも、何か大きなものを抱えて。


「ううううう???? うん?? あっ! たーにーまぁ! お肉、捕ったぁ。 

すき焼きぃ!」


谷間さんは、おお泣きおお笑い。

「チャーナちゃん…… それ、キモオタ。美味しくないから…… 捨てて」


杜の皆さん、大爆笑!!!!

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