第4話 終わる秋葉
その頃、
ザ・コンの前の歩道でキモオタ二人が会話に興じていた。
「なぁ、お主。このザ・コンの都市伝説をご存知であられるか?」
「いやぁ、知らぬが。貴殿の話を伺おう」
「実はな。夜、人っ子一人いない深夜。
このビルの最上階で光る眼を見たと言う輩がおってな」
「さて、酔狂な。どうせ、茎水など飲みすぎたせいであろう」
「おや、何か? 揺れてはおらぬか?」
「おぅ、確かに」
「う、う、うぁーーーーーーわぁーーー」×2
ザ・コンの外壁がひび割ればらばらと崩れ落ちてきた。
同時に辺り一帯のアスファルトがうねる様に隆起して亀裂が生じた。
勿論、人も車も身動き出来ぬままその場で事態が収まるのを待つより術が無かった。
その場にいる人々は不安な面持ちでじっとザ・コンの様子を見つめていた。
ザ・コンの倒壊。誰もが予想した最悪の事態が現実のものとなった。
逃げ惑う人々。
かつては秋葉のシンボルであったこの建物が四方八方に飛び散った跡。
舞い上がる塵埃の中、その空間にありえない物が立っていた!
それは、全長50mはあろうかと思える程……巨大な……二本足で立つ…… ”牛”
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
牛は雄雄しく雄たけびを揚げるとと右手で目の前のビルを蹴散らした。
”秩父壊滅”
次に、左手を大きく振るとかつての石○ビルをなぎ倒した。 ”顔+ドス腹壊滅”
更に巨大な尻尾を左右になぎ払った。 ”秋○+仙○壊滅”
そして一歩進み、巨大な黒いビルに体当たりをした。
”ベルばら” が倒壊して中央通りの対岸、祖父本店に激突。 ”祖父本店壊滅”
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
ジャンクの杜(新店舗)
雄たけびの聞こえる遠く南方に、その巨大な姿が見えた。
最初に気づいたのは空中に浮かぶチャーナちゃんだった。
「あれぇ?美味しそうな子が見えますよぉ」
杜に居合わせた冒険者の皆さんが全員、南の空を眺めた。
「う、うしーー? 牛が暴れている?」
肉ビル最上階
「ふふふふふ。秋葉のキモオタたちよ。恐怖におののくが良い。
そして、絶望の淵に追い込まれるのだ。
今こそ、キモオタの血肉と化した同胞たちの積年の恨みを晴らす時!
ゆけえぃ、我が最強の ”霜降黒毛魔獣 ザ・オックス” 」
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
牛は一歩、また一歩と北上を始めた。次はパーツ街が危ない。
ジャンクの杜(新店舗)
南方に巨大な火柱が幾つも見えた。
牛の猛威。このままでは、ジャンク街にも被害が及ぶ。
「チャーナちゃん、おいらの街を守りたい。一緒に手伝ってくれ。
行くぞ、牛。今夜は ”すきやき+茎水” だ。変身!」
そういうと ”黄金戦士” 谷間さんは牛目掛けて飛び立った。
そのすぐ後をチャーナちゃんが続いた。
「牛ーーーっ。 ”すきやき” ですぅ(ハァト)」
谷間さんとチャーナちゃんは上空から呆然と秋葉の街を眺めていた。
ザ・コンを中心にして半径100m内、北側扇状の地域が全壊。
その周辺、”祖父総合” 及び ”ぞね” までが半壊。
谷間さんの心は抑えきれない怒りの気持ちで満ちていた。もはや茎水を飲むしか。
「チャーナちゃん、後方支援を頼む。弾幕で奴の動きを止めてくれ。
その隙を突いて僕があの牛に突っ込むから」
「あーーい。うーーんと一杯、打てばいいんですねっ(ハァト)」
「うん。メッチャクッチャにやっちゃって」
チャーナちゃんは大きく頷くと、ミツバチが八の字を描く様な動きで旋回した。
その動きに合わせて肩から腰に巻いた天女の羽衣がフワフワと新体操のロープの様になびいた。すると突然、空中に無数のビームやらミサイルやら火柱やらが生まれ、
それら全て次々と牛に向かって注がれた。
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
これは堪ったものではない。
動きの優雅さとは裏腹に、 ”空中砲台” と化したチャーナちゃんの圧倒的な火力に
牛は一歩一歩後退せざるを得なかった。
「す、凄い。凄すぎる。これでは、すきやきでは無くステーキが食えそうだよ」
チャーナちゃんは大喜び。
「美味しい、ステーーーーーキ。腹、一杯(ハァト)」
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
”ドカドカドカーーーーーーン!”
牛は堪らず背中から倒れた。その真下で ”おら壊滅”。右手の下で ”ラヂデパ倒壊”
”第一点壊滅”。左手の下で ”石○本店倒壊”。
「やったーーっ!もう少しだ、チャーナちゃん」 「あーーーーい」
しかし、そう甘くは無かった。
牛の巨大な2本の角が赤く発熱すると角と角の間から雷撃が発射された。
それはチャーナちゃんを狙っていた。
「あ、危なーーーーーい!」
間一髪! 谷間さんは速攻でチャーナちゃんを抱え込むと雷撃の流れを避けた。
びっくりしてキョトンとしているチャーナちゃん。
「はぁはぁ、あいつ、あんな攻撃が出来るんだ」
谷間さんは思った。もはや亀太カキPを食べて茎水を飲むしか。
以心伝心。チャーナちゃんは胸元から茎水ワンカップを取り出し谷間さんに手渡した。谷間さんは慣れた手付きでプルトップを外すと一気に喉に流し込んだ。
チャーナちゃんの人肌に暖められた茎水は谷間さんの心に勇気を満たした。
「今度はおいらの番だ。見ててね、チャーナちゃん」 「あーーーい」
茎水ロケット出力全開! 目標、牛。 いけえーーーーぇ。
高速で接近する谷間さんに向かって次々発射される電撃をギリギリで回避しながら、一直線に牛の角の一本に突撃。瞬時!茎水トンファー全力で牛の角を粉砕した。
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
しかし、頭を押さえて前かがみになった牛の巨大な尻尾が谷間さんを直撃した。
「うわぁーーーーーっ」
尻尾に弾き飛ばされた谷間さんは大きく弧を描いた。
それを見たチャーナちゃんは谷間さんを追った。
「谷間ーーーーーーーーーーさーーーーーーん」
運良く空中で谷間さんをキャッチ。
意識を失った谷間さんを抱きかかえながら、そのままジャンクの杜まで撤退。
牛は起き上がり大きく身震いをすると再び一歩一歩、北上した。
そして、遂にはジャンク街の入り口、 ”印旛” が狙われた。
ジャンクの杜(新店舗)
「いかん。いかんぞぉ。印旛まで到達した」
涙目のチャーナちゃんは床に座って谷間さんを抱えていた。
谷間さんの後頭部は巨乳に埋まっていた。
「谷間さん…… 起きて…… すきやき…… 食べるの」
キモオジ殿はそんなチャーナちゃんを見かねて、
「大丈夫だ! 茎水、飲めばすっかり元気になるさるじあらびあ」
「しかし、もう戦力になりそうな者はいないのか?」
すると、息を切らせたアンシーがようやっと杜に到着した。
「杜の皆さん、安心して。
まだ、あたしが居るわ。講義を抜けて急いでやってきたの」
そう言うとアンシーは大きく深呼吸。
息を整えて額の汗を拭ってから小さな声で囁いた。
「変身」
その頃、牛は北上を続けて印旛の前に来ていた。
このまま一気に ”印旛” を踏み潰すかとおもいきや東に転換して、”2頂点” を
踏み潰し中央通りを横断するところであった。どうやら、 ”田代通り” に向かう
様子である。
肉ビル最上階
「どうしたザオックス?
あたかも作者の時間稼ぎにしか思えない無理な方向転換をしたのは何故じゃ?」
「察するに印旛横の例の学校に配慮したのではないかと思えますが」
「何?あの牛めが”大人の事情”を考慮したということか。面白い。好きにさせい」
「御意」
ジャンクの杜(新店舗)
アンシーの身体は眩い光に包まれた。
「ううん、眩しいなぁ。何だぁ?」
谷間さんはようやく気を取り戻した様である。
ゆっくりと瞼を開くと、目の前に白く清楚な衣を纏った ”巫女さん” の姿が
見えた。しかも、爆乳。
「あっ、み、み、巫女さんだ! ええ乳してまんなぁ…… ほれぼれ……
あれぇ?あれ?? アンシーちゃーーん?????」
そう、巫女服をまとった、爆乳アンシーである。
アンシーは、はだけた胸元を直しつつ、
「そうよ。あたしの戦闘クラスは ”巫女” よ」
もう少しじっくりねっとり観察しようとした谷間さんの視界を別の巨乳が遮った。
「たーにーまぁ! 起きた。嬉しーい。すき焼き、食べるぅ」
大喜びのチャーナちゃんは渾身の力で谷間の顔を胸に埋めた。
「アンシーちゃん???どゆこと??」
「あたし、ずっと年末年始、神田明神の巫女さんバイトをやっていたんだけど、
ある時、天命を受けたの。この秋葉の地が異界の神に侵略されていること。
それに対する ”超越人” が行方不明なこと。その為に異界の神と戦う異国の神の力が必要なのであたしに ”神降ろし” の命が授けられたのよ。
だから、戦闘スタイルも ”巫女” なの」
「でも、その神田明神さまが直接、戦えばいいんじゃないの?
全知全能なんだから配下の神様と一緒に」
アンシーは大きく首を振った。
「いいえ、それは駄目なの。神田明神さまはこの秋葉の鎮守。
微妙なパワーバランスの上にいらっしゃるので直接干渉できない。
それで、親日派のインドの神々が選ばれたの」
「ふーん。神様の世界も複雑なんだね」
アンシーはにっこりと満面の笑みを称えて言った。
「でも、大丈夫! 安心して。あんな牛、ローストビーフにしちゃうから」
するとチャーナちゃん、ふくれっつらで、 「違うんですぅ。すき焼きなのぉ」
アンシーは優しくチャーナちゃんをなだめると、
「待っててね。すぐだから」
アンシーの力 ”神降ろし” には作法があった。祝詞の詠唱である。
凛とした姿勢で身を引き締め、眼を閉じると静かに詠唱を始めた。
「そはとこしえによこたわるししゃにあらねど
はかりしれざるえいごうののちにしをこゆるもの
てんちしんめいをうけ かしこみかしこみももうす
いかずちのあらたま わだつみのあらたま おんすがたをあらわし
おんちからをもて あしきけがれを はらいったま きよめったま」
アンシーが唱え終わるか否かのうちに、牛の上空に、にわかにもくもくと墨汁を溢した様な黒雲が湧いた。と、同時に今まで穏やかにであった神田川の流れがみるみる内に荒れ狂い空に舞うと巨大な水龍の姿に変わった。
「凄いもんが出てきやがったぜ」
怪獣映画の様な展開に、谷間さん驚愕。チャーナちゃんは大興奮。
思わず大きな声で、 「はらたまぁ、き○たまぁ! ですぅ」
”チャーナちゃん、それはちょっと……”
外野の騒々しさを気にも留めずアンシーは精神統一を続けた。
水龍はスルスルと中央通りを北上して、牛の足元に絡みついた。
「ぶっも?ぶもおおお」
そして、そのまま牛を空中に持ち上げるとUDXの外壁に叩きつけた。
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
牛は堪らず声を挙げた。水龍は細く長く変化してUDXごと牛に巻きついた。
幾重にも巻きつかれた牛は微動だに出来なかった。
そして、次の瞬間、水龍は鋭い棘を持つ ”茨の蔓” に変化した。
あの巨大な牛がUDXを墓標にして磔になった。
秋葉の誰もが次の展開を待ち望む中、アンシーが小さく呟いた。
「薔薇の花嫁」
すると、上空に浮かぶ黒雲の周辺に瞬時の内に無数の ”稲妻の槍” が生まれ、
それが全て牛に向けられた。
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
全身を無数の稲妻が貫通する度、ジジジジジと肉の焦げる音と匂いがした。
いや、正確には、極上霜降和牛のステーキが焼ける芳しい香りが秋葉全域に漂った。
そしてUDXは牛と伴に崩壊した。しかし、これは別の意味で堪らない。
秋葉中の瓦礫の下から無数のキモオタ達が這い上がるとまるでゾンビの群れの様に
牛に群がったのだ。
「肉、肉、肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉、にくぅ」
チャーナちゃんも釣られて脱兎の如く飛び立った。
「お肉ぅー」 「チャ、チャーナちゃん!」
肉ビル最上階
「いかん! このままでは奴らに食われてしまう。仕方がない。
ここはグレードアップをはかるしかない…… うぅむ、牛よ。
より禍禍しき姿となり蘇るのだ」
何と言う事だろう。
牛の周りに巨大な黒い炎が巻き上がると群がるキモオタたちをも一緒に巻き込んでいった…… その中には、チャーナちゃんの姿が。
「チャーナちゃん、チャーナちゃーーーーん!」
谷間さんが呼べども返事は無かった。
黒い炎は次第に牛の形になり遂には巨大な黒い牛になった。
”特選極上霜降黒毛魔獣 ザ・オックス(松)”
「ぶっももおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
雄叫びは変わらないが肉質が大幅にUPした。肉ビルで注文すると ”松”レベル になって復活したのだ。ごっくん。
しかし、黒毛の間に秋葉のキモオタの皆さんが混ざっていた。
そして、何処かにチャーナちゃんも……
アンシーは困惑した。これでは攻撃ができない。
キモオタの皆さんはどうでもいいがチャーナちゃんが心配だ。
谷間さんも半狂乱。もはや、亀太カキP食べて茎水を飲むしか。
パワーアップした牛は再び活動を開始した。
いよいよ、ジャンク街の本格的壊滅に取り掛かるべく、 ”ジャン腹” ”ドス腹” を破壊した。
アンシーは思った。
”こんな時ホウクウドがいてくれたら勇気を与えてくれるだろう。
今、何処で何をしているのか?”
爆乳に両手を合わせて、アンシーは祈った。
杜の皆さんも途方に暮れていたが冒険者たるもの勇気を失うことは無かった。
しかし、今は祈るより他は無かった。
その時、中華食べ放題のある場所に…… 異変が起きた。
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