第2話 御徒町事変
数日後、御徒町
「はあはあ …… ここまでくれば大丈夫だ」
御徒町のガード下にホウクウドは駆け込み、辺りの様子をうかがう 。
アンシーは走りづらかったのか、ハイヒールを見ている 。
「おなかすいた」 アンシーの言葉にホウクウドは店に入った 。
「チキンベェグルサンドとコーヒー」
「私はショコラドーナツとカフェオレ」
注文してガラス越しに外を覗うが、ダンボール集めのリヤカーを引いたヒゲぼうぼうの男を見るだけで平和な街だ 。
店員から先ほど注文したものをアンシーが受け取ると一番奥の席へと運んだ。
ホウクウドは言った。
「ここの店のお姉さん、いつも同じものを注文しているのに 『いつものですか』
と言ってくれない にゃー」
アンシーが 「きゃははは」 と笑いはじめた。
こうなったらアンシーの笑いは止まらない。笑い上戸なのだ。
「おかしい おなかいたい」
もう、ホウクウドは苦笑いするしかなかった。
「秋葉原バミューダトライアングルから抜け出したから、もう、安心だアンシー」
「 『あんしん だ アンシー』 だなんて酷い駄洒落」
また、アンシーは きゃきゃ と笑いはじめた。ひとときの平和を味わっていた。
恐るべき魔の手が忍びよっているとも知らずに……
店の反対側の窓際に座った女が、先ほどからホウクウドとアンシーを気づかれないように見ている。 胸元のぐっと開いたTシャツ。その下にはアンシーに負けるとも劣らない成熟した果実が2つ。見事な谷間にはハートのペンダントが銀色に輝いていた。マイクロミニスカートはチェックで、ももとももの間から時々ピンク色のフリルが見えたり見えなかったり……
前の近くの席に座っている高校生を誘惑しているかのようだった。
視線を気にしているのか足を組み替える。
女は携帯を取り出し、ある掲示板にメッセージを書いた。
”おかち ほくうと あんし いた”
すぐにレスがつく 。 ”すぐ ” 女はニヤリッと笑った。
ホウクウドがチキンベェグルサンドを食べている頃、谷間さんはリヤカーを引いていた。リアカーの荷台には半裸のうら若き女性の肢体。あの日、ナー君と乳の大きさで
折り合いが付かず研究用に譲ってもらった ”チャーナちゃん” である。
ペロリとチャィナドレスをひき剥がした。
「ええちちしてまんなあ」
すっかりロボであることを忘れてあちこち触りにやにやしていた。
起動しようと胸のぽっちを押した。
”ブートパスワードをどうぞ”
あちこち触りまくるが、 ”エラー” と出るばかりであった。
”くそう、ナー君め。ブートパスワードなんて入れやがって” と、悔しがった 。
「あの人がいてくれたら、朝飯前でやってくれるんだが」 と、呟き、 消えた。
ホウクウドとアンシーが店で笑っていると、店員が片付けるスプーンを床に落とし拾いあげようとした時、店員のミニスカートがめくれピンク色のフリルのついた薄い布地にくるまれた桃が見えた。 アンシーの話など聞かず、桃ばかり見つめているホウクウド。桃の真ん中の色はピンク色が濃い。
店員のめくれあがったミニスカートからみえる薄い布地にくるまれた桃に観とれていたホウクウドにアンシーは言った。 「おなかいっぱい」
ホウクウドが、「桃」 と言うと、アンシーは 訳もわからない言葉に
”きゃっきゃっ” とまた 笑っている。
こうして他愛も無い話に興じていると、この夏に初めてアンシーに出会った時の光景が嘘の様に思えてくる。あれは、某所某海岸。昼下がりの浜辺。アンシーは目で追う男達を無視してブロンズ色のダイナマイトボディを惜しげもなくさらけ出していた。それを遠目で眺めていたホウクウドはその後しばらく海から出られなくなったが、前かがみの姿勢で何とか砂浜に上がった。まさか、あの娘とここでこうしているとは夢にも見なかったことである。
しかしあの猫の杜以来、良く笑う娘になった。やっぱり、若い娘は良く笑って良く食べる方がいい。そう、あの日もあれから ”牛タン定食” の大盛りを食べた後、こ洒落たバーでムードを高めて、さぁ一発、いや一泊しようと話しかけたら
「翌朝の大学の一限に間に合わないので帰る」
と言い出して仕方が無くモンスターバイクで送っていった。
”アンシー冥土” 本名だとするとハーフなのだろうか。顔立ちはまさにアーリア系。アジア系の扁平では無くギリシャ彫刻の様な彫りの深い造形。瞳の色は不思議なプルシアンブルー。髪は染めているのだろうか深い紫色。髪型は肩までのショート。
そして、何より爆乳。
アンシーのことで知っているのはこの程度。謎深き娘である。
その能力も謎。ホウクウドの戦闘クラスは ”忍者” だがアンシーのクラスは?
推測すると、 ”魔女(ウィッチ)” ?それともあの迫力ある肉体を生かした
”魔法戦士”?
さっきからそんな事に思いを巡らしているのを知ってか知らずか、この娘はキャッキャッと笑っている。そんな若い娘の笑顔が眩しくて目を細めてしまう俺はもう年寄りか。
すると、背後のドアからそっと店に入る人影があった。
「ちわっす、三平です。御用はありませんか? 奥さん…… いい仕事 しますよ」 クイックイッ
”なんだ、三河屋の三平さんか。びっくりさせるぜ”
ホウクウドは、アンシーと店員のめくれあがったミニスカートからみえる薄い布地にくるまれた桃に観とれていたので肝を冷やした。そして、不意の侵入者を見たアンシーの瞳が一瞬冷たく凍りついたのにも気づかなかった。
ちょうどその頃、黄色い公園では谷間さんが途方に暮れていた。
”やっぱり、ブートパスワードが取れないや。
ナー君に連絡しても、また何処かの雌猫を追いかけて音信不通。困ったなぁ”
取り合えず解体して調べようとしてもパソコンと違って手に負えない。
”やっぱり、明日あの人に相談してみることにして今夜はもう寝よう”
とりあえず ”抱き枕” にされたチャーナちゃんであった。
アンシーはホウクウドと話しながら微笑みは絶やさずにはいたが、
会話に夢中には成れなく絶えず店内に注意の目を張り巡らしていた。
”どうも、おかしいわ。店の雰囲気が変わった。それに、さっきの三平さん……
この季節に海パンに捻り鉢巻でご用聞きに来るなんてどう考えても変よ”
そうこうする内、ホウクウドの様子に変化が現れた。
”何だろう? 今日は妙に眠くて眠くて。
これから、アンシーと一発、いや一泊しようかと思っているのに”
遂には、うつらうつらと舟を漕ぎ出す始末。アンシーの緊張が頂点に達した時、
「こんばんは。杜の冒険者たちの諸君。しかし、今日でお別れなのよねぇ」
先程の三平が正体を現した。
”海パン” に ”サングラス”。 新手の敵か。
周りを見渡すと他の客も皆同じ様相をしていた。
「貴方たちは一体何者なの?」 アンシーがそう言うと、
「君達がそれを知る頃にはもうこの世にはいなくなります。知っても無駄」
アンシーの前では、ホウクウドが既に夢の中にいた。
「むにゃ、むにゃ、アンシーちゃん。意外に大胆なのねぇ、ぐふふ」
アンシーは、決意した。ホウクウドに見られなければ……
「そうね。貴方たちもこれから、 ”生まれてこなかった方が良かったと思う様な恐怖” を垣間見ることになるわよ……」
それから、一時間後……
ホウクウドはアンシーに背負われていた。
「……う、ううん。アンシー? これは、一体?」
アンシーは、満面の笑みをたたえて言った。
「”幼児プレイ” よ…… お気に入りでしょ、坊や(ハァト)」
翌朝の新聞には、
”昨夜未明、御徒町付近ガード下で謎の大爆発発生。京浜東北線、山手線上下線とも今現在も不通”
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