第43話 シャトルとミーティング
翌日の様子。
ニューアイルからの輸送船が広野を進む。地面よりやや高いところに浮かび、静かに、しかし相当の速度で舐めるように風景を後ろに追いやる。
船の前方には劇場の壁、すなわちシールドがあり、青い雪が乗客に吹き付けるのを防いでくれている。
乗客の内、数十名は、強い風の中でも外の景色を眺めている。小さな女の子もいる。彼女達は地表に、慣れ親しんだニューアイラ郊外の風景に、名残を惜しんでいるかの様だ。
やがて、輸送船はアンダーパスの入口近くに到着し、静かにその巨体を地上に降ろした。
アナが乗客と一緒に降りて、スタッフと一緒に今度は乗客の女性達をシャトルトレインに誘導する。
トレインと言ってもレールに接触はしない。レールには沿うが輸送船と同様に重力制御で浮かんで飛ぶ輸送機関だ。アンダーパスは複線になっており、途中で復路を帰って来る無人の回送車両とすれ違う。
トンネル内は発光装置が全面に配置され明るく幻想的に見える。アナの傍で女の子が母親と話している。完全に透明な窓は反射が無く、まるで広すぎるトンネル内を浮いて飛んでいるような感覚になる。
「お母さん、私達飛んでいるね」
「そうね、光に溢れていて、とても綺麗だね」
アナも夢の通路を飛びながら、この親子の言葉は本当にその通りだなと感じた。
「このシャトルはどんな所に行くの?」
子供の質問に、母親が答える。
「イナクという国だって」
「最後は新世界に行くんじゃなかったっけ?」
「そう、イナクで乗り換えるんだって、そして地底の新世界に行くのよ」
「地底? ちょっと怖いな」
「そうね。どんなところかしら?」
アナはおせっかいかと思ったが、少しだけ話してあげることにした。
「すみません。私この作戦の責任者の一人でアナと申します」
「アナさん……」
「少し説明して差し上げてもよろしいでしょうか?」
「え、ええ。私も知りたいです。よろしくお願いします」
「アナお姉ちゃん、美人~! 私ミカって言います。教えてください!」
「ふふ、では。ミカさん、地底に行くにはですね。光の柱を通ります。とてもきれいですよ」
「わあ」
「そして地底の新しい世界ですが、上から数えて七番目の層に行きます」
「七! 私が好きな数!」
「名前はですねえペルシダーって言うんですが、そこも美しい世界ですよ~。夢の世界と言われています。色とりどりの花が至る所に咲いていて、小川と、鳥たちと、果物と、湖と優しい音楽に囲まれています」
アナはメリルから得た知識をフルに活用する。
「わあ」女の子が喜ぶ。
「素敵ですね」母親も言う。「ずっといてもいいかもしれませんね」
アナは正直に言うことにした。
「ただ……」
「ただ?」
「その世界には……夜がありません」
「夜が無い……のですか?」
「はい。従いまして、朝とか夕方、そして夜の雰囲気を味わう事ができません」
「え、そうなんですか……」
「そして、季節も無いんです。年中温湿度、気候が一定に管理されています」
母親の顔から笑みが次第に消えていった。
「ここへは……地表へはもう帰ることができないのでしょうか?」
母の質問に合わせて女の子も言った。
「え? 新世界って楽しんだら帰って来るんでしょ。いつ帰って来るの?」
アナは母親と女の子を見つめ、少し考えてから誤魔化すことにした。
「……もちろん、帰って来ることはできますよ」
「そうですよね。こんな異常気象がずっと続く事なんてありませんよね?」
「……え、ええ。収まります」
アナは幻想的なトンネルの光に目をやり、思った。
(地表は凍結して数千年は生活することはできない。移動する人達は一生を地底層で過ごすことになる。でも、それは……この人達にとって幸せなことではない。何とかしなければ)
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(作者より)
都合により1月7日~12日まで、エピソードを分割させていただきます。申し訳ありません。
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