第40話 青い雪空の彼方へ
アンダーパスを開通させた後、アナはニューアイルに向かい、ザックはイナクに帰ってきた。
いよいよニューアイルの女性達の移動が始まるという段階になった。
そしてザックがフェリーナのいる星へ飛ぶ時がやってきた。
青空があるのに、強くなりつつある青い雪の中、ザックがフェリアとカイルに対面している。ザックがフェリアに言う。
「お前のオリジナル、フェリーナは重い病気にかかっていることが分かった」
「メリルから聞いたわ」
「最悪この前、山で見たフェリーナがお前たちが見る最後の姿になるかもしれん」
「まさか! そんなにひどいの?」
「ああ、どういう結果になるか分からないが、状況がはっきりするまで俺はフェリーナのところに留まる」
僕は無言で二人の会話を聞いていた。
「フェリア、地球もこの大変な時でなんだが、しばらくはフェリーナは当てにできないと思ってくれ」
「うん、それは……仕方ない。頑張るよ」
「あと、申し訳ないんだが、俺のアバター……」
「ザクレブね」
「たぶん、ここに来る。基本、俺に似ている筈だから何とかその……うまく処理してくれ」
「うーん、それは少し無責任じゃない? 元々あなたのアバターでしょ、ザックの方で何とかできないの?」
「悪い、やつとはもうコンタクトができないんだ。一人前になってしまった」
「一人前の悪党ね」
「そう言うなよ、根はいいやつなんだ」
「はあ~」
フェリアは溜息をついた。
ザックは今度は僕に向かって言った。
「カイル、アナとフェリアのサポート頼むな」
「ああ、分かってるよ」
「何かあったらメリルの協力も得るといい」
「そうだな」
それからザックは、ばつが悪そうに言った。
「それとだ、フェリーナはおまえとアナについて、不思議な事を言ってたんだ」
「何て?」
「お前らを作るのを望んだのはフェリーナ自身じゃないそうだ」
「は? 誰? 僕らはフェリアのサポート役だろ」
「誰かは俺も知らん。元々聞いていたのも少し違う」
ザックは言いにくそうに続けた。
「カイルはフェリーナのサポートじゃなく、なんつーか、フェリーナ的には彼氏候補らしいんだ…… すなわち俺のライバルだ」
なんと彼氏候補!! うーむ、これは由々しき事態だ。ザックというフィアンセ?がいながら、なぜ僕なんかを作ったんだ?
「そしてアナはフェリアとお前のサポートなんだが……」
ザックがフェリーナから聞いた話を伝える。
「フェリーナは、誰かからお前らを作るように誘導されたと言うんだ。誰に誘導されたのか聞いたら、知らない生命体だとさ」
「知らない生命体?」
「ああ、俺らはレベル8の文明の生命体だが、フェリーナ曰くレベル9以上じゃないかって言ってる」
「う~ん、レベルだって? ちなみに地球人類のレベルって?」
「地球か? この31世紀はレベル6になったかどうかってところだな」
「ああ、分かった。もういい」
「それでだ。おまえとアナは何かフェリーナ自身も知らない機能を組み込まれているらしい。あ、フェリア、お前もだ」
「私も?」フェリアが裏返った声を上げる。
「そうだ」
フェリーナが卵子や精子に絶妙な加工を施し、地球上に無い遺伝子を組み込み、遠い星に通ずる記憶を埋め込んだ僕達三人だが、さらに秘密が隠れていると言う。
しかしザックにとってはそんな事よりも、創造主であり、一番大切なフェリーナの事が心配である。
「それで今度のフェリーナの病状だが、場合によってはカイル、お前に大至急飛んできてもらう、いいか?」
「え? 僕が?」
「フェリーナを病気を治療する何かの方法をお前が持っている可能性があるからだ」
「なぜ、そんな事が言える?」
「フェリーナはそのレベル9らしきやつにこう言われたらしい。
『創造した3体の内、男にはお前を守る機能を持たせる。非常事態の時は彼を活用するように』ってな」
「フェリーナを守る機能……」
「そうだ。俺が彼女を守れなかったら、お前に託すしかなさそうなんだ」
「うわ。それは責任重大だな、何も知らんぞ」
「分かってる、どうすればいいのか俺も分からんが、いざというときはお前に来てもらうからな」
「回答の選択肢はなさそうだな」
「分かってるじゃないか」
最後にザックは言った。
「フェリア、お前の創造主は俺が何とかする。お前は地球人をたのむ」
「ええ、フェリーナをよろしくね」
「じゃあな」
ザックは目の前の空間上に複雑な光るパターンを描き出し、細かい操作をした。おそらくフェリーナがいる惑星に飛ぶための操作なんだろう。ザックの体が薄くなっていく。彼の頭上から宇宙に向かって極めて細い光がどこまでも延びていった。そして数秒後、ザックの体も光の線も跡形もなく消えた。
スターランナーと呼ばれる所以。
それはまるで魔法の様だった。
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